2月22日
公園のベンチは不思議だ。座ると、心が落ち着く。昔からそうだった。
今日みたいな冬の日の夕方、その日の夕食の材料を買いに行くため、二人で家を出た。今晩は何にしようかと話しながらスーパーの売り場を行ったり来たりした。やっと買い物を済ませ、店を出た時は夕日が消えかかっていた。
帰り道、例の公園の脇を通った。
「久しぶりに、あそこで休まん?」
そう言って俺は公園のベンチを指さした。彼女は照れ笑いのような笑みを浮かべ、いいよ、と言った。
買ったアイスが溶けることなどどちらも忘れて、しばらく思い出話をしていた。高校時代の思い出、この公園で、俺が彼女に告白したこと、その時の緊張とうれしさ。受験生として一緒に頑張ったこと、大学で出会った面白い友人のこと、サークルの合宿の思い出、ゼミの教授がめんどくさい人だったこと。
街はすっかり暗くなっていた。そろそろ帰ろうということになった。吐息からは白い靄が出るくらい、寒かった。これならアイスは溶けていないかもしれないと思った。
しかし残念ながら、折角奮発して買ったハーゲンダッツは、見事に無残な姿をしていた。言葉では、あーあ、と残念そうに言っているが、その表情には全く残念そうな様子はなかった。
最も、と言っていいほど、俺の人生の中で美しい一日だった。あれからもう五年がたつ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます