2月22日

 公園のベンチは不思議だ。座ると、心が落ち着く。昔からそうだった。


 今日みたいな冬の日の夕方、その日の夕食の材料を買いに行くため、二人で家を出た。今晩は何にしようかと話しながらスーパーの売り場を行ったり来たりした。やっと買い物を済ませ、店を出た時は夕日が消えかかっていた。


 帰り道、例の公園の脇を通った。


 「久しぶりに、あそこで休まん?」


 そう言って俺は公園のベンチを指さした。彼女は照れ笑いのような笑みを浮かべ、いいよ、と言った。


 買ったアイスが溶けることなどどちらも忘れて、しばらく思い出話をしていた。高校時代の思い出、この公園で、俺が彼女に告白したこと、その時の緊張とうれしさ。受験生として一緒に頑張ったこと、大学で出会った面白い友人のこと、サークルの合宿の思い出、ゼミの教授がめんどくさい人だったこと。


 街はすっかり暗くなっていた。そろそろ帰ろうということになった。吐息からは白い靄が出るくらい、寒かった。これならアイスは溶けていないかもしれないと思った。

 しかし残念ながら、折角奮発して買ったハーゲンダッツは、見事に無残な姿をしていた。言葉では、あーあ、と残念そうに言っているが、その表情には全く残念そうな様子はなかった。


 最も、と言っていいほど、俺の人生の中で美しい一日だった。あれからもう五年がたつ。

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