　この世界は最低だ。

　だって、最低なことばかり起こるからだ。挙げればきりがない。喧嘩、いじめ、戦争、失恋、死、加齢、衰弱、欺瞞、失望、嘔吐、無駄、血。これらはぜんぶ最低なことだろう。

　一日を生きて、一つも「最低」に出くわさないことは無い。上司から怒られることは最低だし、いちいち赤信号に引っかかるのは最低だし、お気に入りの靴の先が汚れることも最低だ。

　一方で、「最低」なことは多々発生するにも関わらず、人々が活動をやめることはない。その真逆のことも多くあるからだ。

　この世界は最高だ。

　だって、最高なことはいっぱいあるじゃないか。挙げればきりがない。勝利、爽快、友情、結婚、誕生、若さ、興奮、憧憬、希望、美味、有意、生命。これらはぜんぶ最高なことだ。

　一日を生きて、一回も「最高」を経験しないことは無い。自販機におつりが置いてあったまんまだったら最高だし、ゲームで敵を蹂躙し、勝利することは最高だし、川辺で友人と缶ビールを飲むことも最高だ。

　何が言いたいかというと、世界は最低の分だけ最高があるのだ。

　自分にとって、自販機でおつりを見つけたら「最高」だが、それを忘れた人にとっては「最低」である。敵を蹂躙し、自分は勝利して「最高」だが、蹂躙されたプレイヤーにとっては「最低」なことである。上司に怒られることは「最低」なことだが、上司からしてみれば、無能な部下を叱責して鬱憤晴らしをできる「最高」なことかもしれない。

　良くも悪くも世界はサイクルでできている。