2月17日

 俺には一人だけ、恩師と呼べる人がいる。俺が小学三年くらいの時の担任の先生だ。


 彼女はとてもやさしく、かつ厳しく、それでいて温かかった。理不尽に怒ることはなく、クラスメートすべてに分け隔てなく接し、前日の叱責を次の日まで持ち越すことはない。だから、こっぴどく怒られた児童であっても、次の日になれば臆することなく先生と談笑できた。


 俺は、今とは全く違い、当時は割と快活だった。暇さえあれば誰かにちょっかいを出したり、授業で手を挙げて、進んで発表するような子供だった。ドッヂボールでは男女関係なく思いっきりボールを投げていたし、サッカーではフォワードをやりたがった。


 当然、そのような子供は他の大人しい子供と比べて、先生に怒られる回数は多い。俺はたぶん、クラスで一番先生から怒られた子供だったと思う。しかし一方で、一番先生を慕っていた子供でもあったと思う。


 先生は小3でも理解できる平易な言葉で、諭すように叱った。一方で、価値観の強制的な押し付けはしなかった。先生は言葉の使い方が巧みだった。


 それこそ、教師ではなく作家でもやっていたら、一花咲かせていたのではないかと思うほどに。今、先生の言葉を思い出してみても、やはりそう思う。多少の美化は混じっているにしても。


 ああいう人が小説を書くべきなのだ。

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