2月13日

 熱血教師はよく言う。


 「〈辛い〉ところから頑張って頑張って一本線を足したら〈幸せ〉になるんだ」


 そういう考え方ができる人は文字通り相当幸せである。そもそも「幸せ」の定義は万人異なるはずであり、「頑張らずだらだらすること」が「幸せ」の人もいるはずなので、そういう人を自然に無視していることになっているが、とりあえず置いておく。


 おそらく、自分が幸せではないと感じている人は、どちらかというとこう思うだろう。


 「〈幸せ〉の文字の中には〈辛さ〉が含まれている」


 世の中の真理により近いのはどちらかと問われたら、俺は間違いなく後者を選択する。


 真の幸せとは何なのか。


 溢れんばかりの金があって、社会的地位があって、聡明で美人な妻がいて、毎日おいしいものを食べることができる。これは絶対に幸せに違いない。

 でもそれはいとも簡単に崩れ去るかもしれない。社会的地位を保つためには並々ならぬ努力が必要である。聡明で美人な妻は、他の、これもまた「幸せ」にしてくれそうな男のもとへ行くかもしれない。


 そもそも、ここまでの「幸せ」を手に入れる過程においても、非常に努力を要したはずである。進学校に入り、一流大学の受験に成功し、一流企業に入社し、社内での出世競争にも打ち勝ってきたのだ。そのためには熱血教師の言う「努力」は欠かせない。

 努力して努力してやっと「幸せ」をつかみ取ったと思ったら、その「幸せ」を維持するにも「努力」が必要とされるのだ。

 つまり、いくら「幸せ」を追い求めてもそれに際限はなく、「幸せ」が大きくなるたびに「辛さ」もそれと同じだけ要求される。


 熱血教師は、本当に子供のことを伝えようと思うならこう言わねばなるまい。


 「〈辛い〉ところから頑張って頑張って一本の線を足したら〈幸せ〉になるんだ。でも一本の線を生み出したときに、同時にまた別の〈辛〉も発生してしまう。人生とは〈辛〉と〈一〉を組み合わせる作業を、死ぬまで永遠に行うっていうことなんだよ」

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