2月9日

 今日は珍しく朝早くに目が覚めた。五時だった。

 何となく外を歩きたくなったので、顔を数回洗い、寝巻の上にコートを羽織って家を出た。


 近くにある自販機で缶コーヒーを買って目的地もなく適当に歩いた。ふと気が付くと、公園が現れた。滑り台とブランコが置いてある簡素な公園だった。まだ家からそれほど歩いてなかったはずだが、こんな場所があったのを俺は知らなかった。


 俺はその公園で少しの間を過ごすことにした。湿気を含んだ木のベンチに腰掛け、缶の蓋を回した。


 どのくらいの時間がたっただろうか、砂利を踏む音が聞こえた。顔を上げると、ブランコのほうに歩く二人組が見えた。腕時計を見ると、五時半とあった。

 二人は二つあったブランコにそれぞれ座り、ゆらゆらとさせながら話をしているようであった。


 少しすると片方が泣き始めたように見えた。それを見たもう片方はおもむろにブランコから立ち上がり、公園の横にあった自販機でコーヒーを二つ買って戻ってきた。一つを手渡し、また話し始めた。


 泣いていたのは女で、コーヒーを買ってきたのは男であるようだった。どちらも大学生くらいに見えた。派手な風貌というわけでもなく、どちらかというと、どちらも地味な印象を受けた。


 男のほうが煙草をくわえた。女は彼から一本貰って、吹かし始めた。深呼吸をするようにゆっくりと煙を吐き出していた。


 公園での喫煙は禁止と書いてあるが、全く止める気は起らなかった。俺は誰かがルールに反することをしていても、よっぽどのことがない限り止めない質である。が、そもそもそんなことに関わらず、彼らの邪魔をすることは一応人間の身としてするべきではないことのように思えた。


 五分程度して、彼らはコーヒー缶を灰皿の代わりにして、どこかへ歩いて行った。未だ暗い朝だった。

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