1月20日

 昼飯を済ませた後、俺は古くなった革靴を履いて散歩に出かけた。


 大きい芝生だけがある公園についた。俺はそこにおいてあったベンチに腰掛けて、持ってきていた小説の頁をめくった。


 寒風が吹いた。葉の枯れた枝がこすれて音を出した。子供の声がそれに混ざった。


 声のほうを見ると、小さい子供二人と、その母親(とおもわれる)が、ボールで遊んでいた。子供は同じくらいの背丈だ。双子だろうか。とても仲がいいように見える。


 俺は目をそらし、手元の字面を追った。しかしその字面はだんだんと崩れて、手から零れ落ちていった。俺は顔をあげて例の親子を見ざるを得なかった。


 数日前に妻を思い出してから、どうも何か引っかかっている。今までは、忘れているつもりだった。忘れないとやっていられなかった。こんなことを日記に書くのも、やはり吐き出したいからなのかもしれない。全て出ていけばいい。


 俺は耐えられない。ここまでたった四百字を書くのに一時間も経った。とりあえず筆をおいて、ウィスキーソーダでも飲むことにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る