第11話 猫
小さい頃は、アパートによく、迷い犬や迷い猫がやってきた。犬はアパートの子どもたちで「飼おう」とダンボール箱を用意して寝床にしようとしたが、犬は決して居つかなかった。猫は、かわいいと思ったことがなく、心惹かれることもなかった。
ある日、夜にドアの外で猫の鳴き声がした。家は四階だったのに、どうして家を選んでやってきたのかわからない。ドアには牛乳配達用の小窓が付いていて、それを開けたら猫が顔を出した。それは、顔の大きな、お世辞にもかわいいとは言えない、ふてぶてしい、のら猫だった。
そのとき母は急いで煮干しの缶を持ってきて、慌ただしくドアを開け、猫に煮干しを出してやった。母は、いとおしくてたまらないという風情でしばらく猫をかまっていたが、猫は満足すると階段をそそくさと降りて行った。そのとき、晃子の中に「猫はかわいいもの」という観念が刷り込まれた。
母は、練馬の家で晃子が生まれる前にも子猫を飼っていたことがあった。その子猫が家のある4階のベランダから落ちて、母はてっきり死んだものと思って泣きながら階段をかけ降りて見に行ったそうだ。ところが、子猫は軽かったからか、何ともなく元気だったと聞かされた。母の猫好きは比類なかった。
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