第9話 うさぎ

 「うさぎに水をやってはいけない」という迷信を父は信じていた。学校で生まれた灰色の子うさぎをもらって来て育てたときも、水をやったことがない。餌は、いつも買い物に行く八百屋さんにキャベツの外側の葉をもらいに行って、食べさせていた。

 

 アパートの庭には、はこべやたんぽぽが咲き誇っていて、外に連れて行くと、そんなものも喜んで食べていた。

 

 ケージは父が日曜大工で木を組んで、ベランダに作ってくれた。上下に鳥かごを置くスペースがついている、特製だった。木製だったから、うさぎはかじって満足していた。

 

 かわいがっていたけれど、6月のある暑い日に、死んでしまった。脱水だったと思う。


 晃子はそのときのことを作文に書いて賞をもらい、練馬区の文集に掲載された。「それは、6月の暑い日のことだった。」という書き出しを、先生が褒めてくれた。褒められても、うさぎは帰って来ないんだ、と悲しかった。

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