第8話 ことり

 父は生き物が好きだった。母と結婚してアパートに住んだとき、最初にセキセイインコのつがいを買ったら鳴かないので、一羽のカナリアと取り替えたのだという。晃子が物心ついたころにはすでにカナリアは老齢で、あのカナリア特有の転がるような鳴き声は出なくなっていた。それでも、自分より先に住んでいたカナリアを晃子はかわいがった。


 カナリアは、時々鳥かごの隅にうずくまるようになったので、ハンカチに包んでこたつの中に入れて温めてやると、元気になった。そんなことをくりかえしながら、最期は晃子の手の中で息を引き取った。アパートの庭の隅の土を掘って、埋めてやった。


 次に飼ったのはセキセイインコ。まだ羽の生え揃わない頃に買ってきて、餌をやりつつ育てて、手に乗るようになった。黄色に緑の混じった羽がきれいだった。つがいだったが、どこからか飛んできた青いセキセイインコを同じかごに入れたら、つがいの雌と卵を産んで、何とも言えない羽の色の雛が生まれた。

 

 十姉妹や文鳥も飼った。学校の先生が帰郷する間、と頼まれて「うそ」という鳥を預かったこともある。確か茄子のような色の、あまり鳴かない鳥だったような気がする。それくらい、晃子の家は小鳥を飼っているのが知られていた。

 

 夏は一日中ベランダに出していたが、冬は家に鳥かごを入れてやり、布で覆ってやった。そうするのは晃子の仕事だった。この仕事は楽しい仕事だった。学校に行く前に、水呑みの水を毎日替えてやったり、餌のからをふーっ、と吹いて飛ばし、新しい餌を足してやるのも楽しかった。

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