第7話 ガラス

 当時の窓ガラスは、よく割れた。もちろん、ガラスが自分で割れるのではなく、割るのは晃子である。

 

 ベランダに出る窓は、今と同じ大人の背の高さだったが、ガラスは半分の大きさで、それが2枚縦に並んでいた。下半分はすりガラスになっていた。

 おもちゃを投げて、当たると割れた。晃子がでんぐり返しをしてぶつかると、割れた。弟とけんかして、叩こうとして手を挙げると、割れた。

 

 電話のない時代、どうやってガラス屋を呼んで来たのだろう。ガラス屋がやって来ると、晃子と弟はその作業が面白くて、自分の責任も忘れて、じっと見ていた。ガラス屋は、穴をふさぐために貼ってあった新聞紙をはがし、枠についているパテを落としながら、ぎざぎざに残った割れガラスの破片を一つ一つ手で取り除いていく。そして、枠がきれいになると、向こう側に新しいパテを敷いて、新しいガラスはめ、こちら側にもパテを敷いた。

 

 ガラス屋は作業が終わると「2、3日は乾くまで触らないでください。」と言って帰っていった。けれど、まだやわらかいパテには触らすにいられなかった。当然のように、晃子の指の形が次にガラスが割れるまで、パテに残った。

 

 母が大事にしていた本棚の、両開き扉のガラスを割ったこともある。物を投げてぶつけたら、気味のいいほどよく割れた。縦に波模様の入った変わりガラスだから、「ものすごく高かったのよ。」と怒られた。

 

 小学生になって、学校のガラスを割ったこともある。掃除の時間に窓を拭こうとしたら、ガラスの桟は木製だったから、古くなって開きにくく、いらいらして桟をたたいたら、6枚合わさっている窓の1枚が粉みじんに割れた。2階の廊下の窓だった。下に誰もいなくて幸いだった。先生は何も言わなかった。それくらい、日常茶飯事だったのだろう。

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