第6話 鍋の水

 練馬の家の台所。流し台の下に鍋などをしまう開き戸があった。母が勤めに出ていたから、炊事をするのは祖母の役割だった。「晃子が扉を開けて鍋の水を飲んじゃうから、困ったよ。」と母は言った。鍋の水、つまり、鍋は洗ったあと、乾かしもせず、しまわれていたのだ。当時の家事なんて、そんなものだったのだろう。


 父は、日曜日になると、手ぬぐいでほっかぶりをし、家中にはたきをかけて掃除をした。きれい好きなんだ、掃除が好きなんだ、と思っていた。「うちのパパは、日曜日は掃除をするんだよ。」と友達に自慢した。


 それが、掃除などほとんどしない祖母に対する当てつけであることは、ずいぶん後になって気が付いた。祖母は気づいていたのだろうか。

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