第3話 一升餅
人の最初の記憶は、人生のその後を示唆するという。晃子のそれは、一升餅だ。
一歳の誕生日に一升餅を背負って立つと、一生食べるものに困らないといって、子どもに背負わせる、あれである。一歳の時のことなんか覚えているはずがない、と言われるが、覚えているのだから仕方がない。
風呂敷に包んだ餅を背負わされて、何が起こっているのか見当がつかないが、周りにいる数人の大人の視線が自分に集中しているのがわかった。その数人の期待感が、重く、しかし心地よく晃子を奮い立たせ、立ち上がれというのだな、と気づいたのである。何回も失敗し、やっと立ち上がった時の安堵を覚えている。そのうれしそうな顔は、写真が証明している。
期待感を寄せられる心地よさ、それに応える爽快さ、と同時に、時として生じる期待の理不尽さと、それに応えなければ生きていけないという重圧感の影は、着実に晃子の中に育っていたのだろう。
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