第2話 方舟集いし港にて

 アルド・サイラス・ヘレナは、現代の港町リンデに来ていた。


「よし。ここでだったら観察できるかもしれないな!」

「どんな人たちが来るのかしら?」

「楽しみでござるな!」


そうして、3人はあたりを見渡す。


「それにしても 大きな船でござるな。」

「一体何を運んでいるのかしら?」

「どうなんだろう? ちょっと聞いてみるか。」


そういって、アルドは近くにいた漁師に聞いた。


「ちょっといいかな。」

「おう 何だ?」

「ここの船って 何を運んでいるんだ?」

「ああ。東方まで人を運ぶ船もいくつか出てるが 漁船と貨物船がほとんどだな。」

「東方へはどれくらいで行けるでござるか?」

「一晩もありゃあ 行けるな。」

「な 何と……! あれだけ時間をかけて 命がけで来たというのに……。」


サイラスは、すぐに東方から中央大陸にすぐに来れることに、驚いていた。


「さて そろそろ ひとを乗せた船がくる頃だ。」


すると、さっそく一艘の船がリンデに入ってきた。


ふと、ヘレナは船着き場に一人の女性がいるのを見つけた。


「アルド あそこに女性がいるわ。」

「ほんとだ。早速話を聞いてみるか。」


アルドたちは、さっそく声をかけに言った。


>>>


 「あの人 本当に大丈夫だったかしら……?」


旅の無事を心配している女性に、アルドたちは話しかけた。


「どうかしたのか……?」

「わっ に 人間!? あ いや この船に私の友人が乗っているんです。」

「……。」

「しかし どうして そんなに 不安そうにしているでござるか?」

「あの人 東方に行くのは初めてで あっちに行ってから 一度しか手紙を起こさないから 心配で心配で……。」

「それは 確かに心配だな。」


すると、船から人が続々と降りてきた。やがて、人の流れも無くなりかけたところで、その目当ての男性が降りてきた。


「無事だったのね! 何で手紙寄越さなかったのよ……!」

「すまない……。手紙の出し方がわからなかったんだ……。でも 例の物は手に入れたぞ!」

「よかったじゃないか 無事で!」

「しかし こちらの女性 かなり心配しておったでござるよ?」

「……! あっ ご ごめんよ……。」

「で でも本当に無事でよかったわ……! では 私たちはこれで……。」


そうして、その場を去ろうとした2人に、ヘレナが声をかける。


「ちょっと 待ってもらえるかしら?」

「……! な 何かな?」

「東方で手に入れた 例の物って何かしら?」

「べ 別に何でもいいじゃない……!」

「あと そちらの男性の方 私たちを見た瞬間に 態度が変わったわよね?」

「……! そ そんなことは……。」

「やはりそうなのね……。」

「ヘレナ いったいどうしたんだ?」

「この人たち おそらく 魔獣よ。」

「何……?」


アルドとサイラスは2人を見る。2人は明らかに態度が変わっていた。しかし、荒々しくなるのではなく、おびえていた。


「……せっかく 東方に行ったときは バレなかったのに……。」

「まさか こんなところでバレるだなんて……。」


そして2人は、ヘレナ達を見て言った。


「あなたの言う通り 私たちは魔獣よ……。」

「さあ もう 斬り捨てるなり なんなりしてくれ……。」


敵意の感じられない2人を見て、アルドはヘレナに言った。


「ヘレナ 見逃してあげたらいいんじゃないか?」


すると、ヘレナはあっけらかんとして言った。


「もちろん そのつもりでいたわよ?」

「えっ……?」


ヘレナの言葉にアルドとサイラスも、魔獣たちも驚いた。


「俺たちのこと 見逃してくれるのか?」

「ええ。そのかわり 一つだけ答えてちょうだい。」

「……何かしら?」

「東方で得た 例の物って何かしら?」

「ああ それは これだよ。」


そういって魔獣の男は、カバンから箱を取り出した。


「これは何でござるか……?」

「これは 「みたらし団子」ってやつだ。」

「「みたらし団子」?」

「ええ。小さく丸めた餅を串にさして焼いて 蜜をかけたものよ。」

「この団子を買いに わざわざ東方に行ったのか!?」

「ああ。前に来た時に ここで この団子をこいつと食べたんだ。」

「そしたら とってもおいしかったのよ。それで ここの漁師に聞いたら 東方の商人が 売ってるっていうから どうしても 本場の団子が食べたくなって……。」

「それで 本場の団子を買うために 東方へと出向いたのでござるか……。」

「ああ。だが このご時世だ 魔獣だってバレたら どんな理由であれ 矛先を向けられる……。だから 隠して 誰にも目を付けられないように していたんだ。」


すると、一連の話を聞いたヘレナは魔獣たちに言った。


「私もかつて 人間に反旗を翻していたからわかるわ。人間は 一度問題が起きたら その集団のすべてを悪とみなす生き物なのよ。」

「ヘレナ……。」

「本当は どちらが多いかは別として 人間と争いたくないって思っている者も少なからずいるの。」

「そうなんだよ! よくわかってるじゃねえか!」

「私たちは ただ 普通に生活したいだけなの! 争いなんてごめんだわ!」


魔獣2人の本音が聞けたところで、ヘレナは言った。


「でもね どこかに必ずそのことを わかってくれる人が いるはずよ。」


ヘレナはアルドやサイラスのことを見ながら言った。


「私は そんなわかってくれる人たちに 出会えたわ。」

「ヘレナ……。」


その言葉を聞いて、魔獣たちは言った。


「……そうだな。同じ境遇だったあんたが言うんなら 間違いないかもしれねえな。」

「……そうね。現に この人たちは 私たちに 武器を見せなかったし。」

「それじゃ 俺たちはここら辺で 帰らせてもらうぜ。」

「見逃してくれて ありがとう。この恩は忘れないわ。」


そういって、2人はその場を去った。


「柄にもなく あんなこと言ってしまったわね……。」

「拙者 ヘレナの言葉が 心にしみたでござるよ……。」

「ああ。それに ヘレナの思い ちゃんと伝わったと思うぞ。」

「ま まあ 私には関係のないことだわっ!」


そういって、ヘレナは船着き場へと向かっていった。


「なあ サイラス。」

「何でござるか?」

「ヘレナって 意外と お茶目な部分もあるのかもな……!」

「そうかもしれぬでござるな……!」


すると、遠くからヘレナの呼ぶ声が聞こえた。


「2人とも ちょっと来て!」


2人はヘレナのもとに向かうと、一艘の中型の船の前で、母と息子らしき人が喧嘩していた。


「頼むから無理しないでくれ 母さん!」

「もう あたしたちにゃ 父さんが遺してくれた この船しかないんだよ!」

「だからって 母さん一人で行く必要ないじゃないか!」

「人を雇う金はないし お前は頼りないんだから あたしがするしかないだろ! さっさとあっちへお行き!」


そして、その船は沖へと出て行った。


「あれは ただ事じゃないでござるな。」

「早速話を聞きに行きましょう!」

「ああ そうだな。」


>>>


 一行は、男性のもとへと向かい、声をかけた。


「なんか 喧嘩してたみたいだけど 大丈夫か?」

「あっ 聞こえてたんですね……。お恥ずかしいところをお見せしてしまって 申し訳ない…… ケホッ ケホッ……。」

「大丈夫でござるか!?」

「すみません……。生まれつき 体があまり丈夫ではないんです……。まあ 母さんほどではないですが……。」

「母さんというと 先ほど 口論していた 女性のことね?」

「ええ。母さんは 父さんが亡くなるまでは ほとんど寝たきりだったんです……。」

「えっ……?」

「それが 父さんが亡くなって お金も無くなってきたころから 急にああやって 漁に出るようになったんです……。」

「しかし その様子だと 母君は……。」

「はい。お察しの通り 漁の経験はありません。なのに あんなに無理をして……。」


すると、ヘレナはその男性に聞いた。


「漁って経験がなくても できるものなのかしら?」

「いいえ やみくもにやって 獲れるものではないです。」

「そうなると 拙者らは 漁そのものには力になれないでござるな……。」

「いえ お気遣いありがとうございます。でも これは日常茶飯事なので……。」


そして、その男性は悔しそうに言った。


「せめて 僕の体がもう少し丈夫だったら こんなことには…… ケホッ ケホッ……。」

「……! それで あんたも無理してたら 意味ないだろ……! 漁師はオレたちで何とかするから 家で休んでおいてくれ!」

「……では すみませんが そうさせてもらいます……。」


その男性が家へと帰ったところで、サイラスが言った。


「アルド いったいどうするつもりでござるか?」

「漁師に心当たりがあるわけではないでしょう?」

「でも あのままだと あの人が危なかったから……。」

「それはそうでござるが……。」


すると、ヘレナが急に声色を変えていった。


「お話の途中で悪いけど あの人見て!」

「……?」


みると、父親らしき人が女の子を連れて 船着き場に向かっていた。しかし、2人とも泣いているようだ。


「とりあえず 行ってみよう!」


3人は急いで父娘の下へと向かった。


>>>


 「おい あんたたち! 何かあったのか?」


アルドの問いかけに、父親らしき男性は悲しそうに言った。


「……実は もう家にお金が無くて……。それで……。」

「まさか おぬし 娘を売るつもりでござるか……!」

「もう それしか方法がないんだよ……。」

「娘を売るだなんて よくそんなことを考えられたわね!」


ヘレナは少し怒り気味で言うと、その男性は悲痛な叫びで返した。


「……俺だってな 娘を売りたくなんかないんだ……! だいたい どこに 喜んで 娘を売りに出す 親がいると思う……?」

「……ごめんなさい。何も知らないのに……。」

「いや いいんだ……。俺の方こそ悪かった。だが これが生き延びるための唯一の方法なんだ……。」


父親の話を聞いて、必死に考えるアルド。そして、何かを思いつくと、父親に聞いた。


「なあ あんたって 何か仕事してたのか?」

「ああ……。元は漁師だったよ。もっとも 船も道具も 何もかも売りに出してしまったがね。」

「漁師……! それなら もう一度漁師になるっていうのはどうだ?」

「出来たら そうしたいが 何の道具もなしにどうしろと……。」

「実は さっき 漁師を探している人を見つけたんだ!」

「……! 本当か!?」

「ああ だから今すぐに……。」


その人を先ほどの男性に会わせようとしたところで、後ろから声がかかる。


「おい 兄ちゃん 「売り物」に 手を出さねえでくれるか?」


その声の主は、娘売りの男だった。


「お前……! 人の娘を売るなんて……!」

「うるせぇ! さっさとその娘を こちらによこしな!」

「ふざけるな! 人の娘を何だと思ってるんだ……!」

「ふん……。どうやら 痛い目見ないと わからんようだな……。……こい!」


そういって、娘売りが呼んだのは 3体のエイヒだった。


「やっと 本性を現したでござるな……!」

「よし 行くぞ!」


アルドたちは、武器を構え、エイヒに挑んでいった。


>>>


 アルドたちの前に、エイヒは、なすすべなく倒れていった。


「なっ……! あの魔物を いとも簡単に……!」


すると、サイラスはおびえる娘売りに言った。


「さて おぬし どうするでござるか……? 拙者の刀の錆となるでござるか……?」

「ひぃ~~! すみませんでした~~~!」


娘売りの男は、そういって逃げ出していった。


「まったく 根性の無い奴でござったな。」


すると、ヘレナは何かに気付くと、娘売りの男の船に入っていった。しばらくすると、次から次へと小さい女の子が出てきては、自分の家へと帰っていった。


「こんなにも 娘を売りに出そうとしていたなんて……。」


先ほどの男への怒りに満ち溢れていたアルドだったが、先ほどの娘を売りに出そうとしていた男性に声をかけられ、我に返った。


「あ あの……。」

「ああ ごめんごめん。漁師のことだよな?」

「本当にできるのか?」

「ああ。」


すると、先ほどの騒ぎを聞きつけてか、漁師を頼んだ病弱な男性がやって来た。


「騒がしかったですが 何かありましたか?」

「あなた もう大丈夫なの?」

「ええ 少し休んだおかげで だいぶ楽になりました。」

「いいところに!」

「……?」

「実は この親父さん 元漁師なんだけど お金が無くて 娘を売ろうとしてたんだ。だから あんたのところで 雇ってみたらどうだ?」

「いいんですか?」

「こちらから お願いしたいくらいだ!」

「それじゃ お願いします!」


こうして、無理やり漁に出る病弱な母をもつ息子と、娘を売りに出すほどお金に困った父親を一気に救けることができた。


「あなた方には 何とお礼を言っていいやら……。」

「あんたたちのおかげで 生きていけそうだ……!」

「オレたちは ただ 引き合わせただけだから。」

「母君の説得 任せたでござるよ!」

「あなたも 娘さんのこと 絶対手放さないようにね。」

「はい ありがとうございます!」

「ああ。では 失礼するよ。」


こうして男たちと娘は帰っていった。


「何とか解決できてよかったな。」

「一時はどうなるかと 思ったでござるよ……。」

「でも 確かにアルドたちの言ってた通りだったわね。」

「……?」

「こういうところは 色んな人がいて なかなか興味深かったわ。」

「ああ そうだったな。」

「では 次は拙者の時代に行くでござるか?」

「古代にも こういうところはあるのか?」

「規模は違うでござるが アクトゥールは これに近いでござるな。」

「じゃあ 行ってみましょうか!」


こうして、3人は港町リンデから、水の都アクトゥールへと向かうのだった。

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