出逢いと別れの狭間で

さだyeah

第1話 鉄の馬の厩舎にて

 「着いたでござるな。アルド。」

「ああ。でも 待ち合わせはよくあったけど ここで待ち合わせは初めてだな……。」


アルドとサイラスは、エイミに呼び出されて、曙光都市エルジオンのカーゴ・ステーションで待ち合わせることになっていた。


「ところで エイミが拙者らに 何の用でござるか……?」

「ああ。なんかIDAスクールで 行きたいところがあるから 一緒についてきてほしいってことらしい。」

「IDAスクールって 確か 先日エイミやリィカと 一緒に行ったところでござるか? あんなところに 何の用でござろう……?」

「うーん……。聞いたけど 用があるってだけで 内容は教えてくれなかったな……。」

「うむ……。エイミも 時々 よくわからぬことを するでござるな……。」


アルドはそれに、苦笑いで返すと、周りを見て言った。


「それにしても すごいよな ここ。」

「ああ かーご なんちゃら でござるか?」

「ああ。最初にこの乗り物を見た時は 空飛ぶ鉄の馬だと思ってたよ。」

「拙者も サラマンダーを模した人形か何かかと 思ったでござる。」

「でも これが オレの時代でいう馬車とか舟 なんだよな……?」

「拙者の時代だと 帆船ってところでござろうな。」


すると、アルドはふと気になって、サイラスに尋ねる。


「そういえば サイラスの故郷って 東方なんだよな?」

「さようでござるよ。」

「どうやって 東方からこっちに来たんだ?」

「ああ 帆船が出ているんでござるよ。東方とアクトゥールをつなぐものが。」

「そんなところから!? 結構な距離じゃないか……?」

「確かに あれは長旅でござったな。拙者らの時代は アルドの時代やこの時代と違って 確実に行けるというわけでは ないでござるからな。」

「そ そうなのか……。」

「だから 海を渡るということは もうこの地を踏むことはないと思うくらいの 覚悟がいったのでござるよ。」

「それほどの 思いで……。」


すると、今度はサイラスがアルドに聞いた。


「でも 拙者の場合は 行きつくところは 中央大陸か 海かのどちらかと分かっていたでござる。それを思うと どこに通じているかもわからない穴に 飛び込んでいったアルドには 感服するでござるよ。」

「オレは 何も考えてなかったというか フィーネや他の皆を救けたいって思いだけで がむしゃらに動いてたから……。」

「その意志の強さが アルドをここまで連れてきたのでござろうな。」

「なんか そういわれると 照れるな……。」


こそばゆく感じたアルドは、不意に周りを見渡す。


「それにしても ここって 色んな人が来るんだな。」

「確かに ご老人から子どもまで 様々でござるな。しかし 同じような服を着た若者が多い気もするでござるが……。」

「ああ あれはたぶん IDAスクールの生徒だと思うぞ。」

「あ あんた達……!」

「……?」


急な呼びかけにアルドとサイラスが振り返ると、IDAスクールの男子学生が走ってきた。


「何用でござるか?」

「あんた達 剣とか刀とか腰にかけているってことは ハンターなんだよな……?」

「戦いはするけど ハンターではないぞ?」

「戦えたらそれでいいんだ! 頼む 力を貸してくれ!」

「落ち着くでござる! 何があったでござるか?」

「ああ すまない……。でも 大変なんだ。俺の幼馴染がいないんだ!」

「なんだって!?」

「いつもなら この時間に必ず来るのに 今日は来てないんだ! きっと 合成人間に連れ去られたに違いない……!」

「それは大変だ! すぐに探しに行かないと……!」

「……。」


男子学生の言葉に焦るアルドだったが、その一方でサイラスは首をかしげていた。


「まずはその子の家に行ってみよう! 場所はどこだ?」

「シータ区画だ!」

「じゃあ 案内を……」

「ちょっと待つでござる アルド。」


学生と共にシータ区画へ行こうとするアルドを、サイラスは止めた。


「何だ サイラス? 急がないと幼馴染の子が……。」

「まあ 落ち着くでござる。そちらの若者 いつもの時間に来ないと言っていたでござるな?」

「ああ そうなんだ!」

「その幼馴染は いつもの時間からどれくらい遅れているでござるか?」

「それが いつもの時間より5分11秒も遅れているんだ!」

「えっ! たった5分のことで あれだけ騒いでいたのか!?」

「たった5分とは何だ! 十分大変なことじゃないか!」

「やっぱり そんなことであろうと思ったでござるよ。」

「ごめんごめん お待たせ~!」


そういって、こちらの来たのは、話題に上がっていた女子学生だった。


「遅かったじゃないか……! 俺はもう心配で心配で……。」

「心配でって 5分くらいしか遅れてないじゃない……。」

「だって お前 何かあったら連絡するじゃないか……!」

「たかが 忘れ物を取りに行くだけで いちいち連絡する……?」

「お おい 2人とも 落ち着けって……。」


急に言い合いになった2人にアルドは戸惑っていると、サイラスが言った。


「アルド この者らは 放っておいてもよいのではござらんか?」

「い いや でも……。」

「その内 拙者と同じように考えると思うでござるぞ?」

「……?」


アルドが2人を見ると、いまだに口喧嘩は続いていた。


「あんた あたしのお母さんじゃあるまいし……。」

「な 何が言いたいんだよ……!」

「過保護すぎるのよ あんた! いくら幼馴染でも限度ってものがあるわ!」

「俺にとっては お前が何よりも大事なんだよ! それに 幼馴染だなんて思ってないし……!」

「えっ……?」

「いや だからその 何というか……。」


2人の急展開にアルドはサイラスに言った。


「……確かに 放っておいていいかもな……。」

「そうでござろう? こういうことは 他人は首を突っ込まない方がいいでござる。」

「そ そうだな。でも なんで わかったんだ?」

「なに ながく生きていれば 自然と分かるようになるものでござるよ。」


そういって、もう一度2人を見ると、仲睦まじくカーゴへと乗って行った。


「でもなんかいいな ああいうの。応援したくなるよな。」

「アルドは あんなことはないでござるか?」


サイラスは少しニヤつきながら聞く。


「えっ? お オレ? オレはそういことはないな……。それに 今は皆大事な仲間だと思ってるから 全員大切なんだ。」

「……だから 唐変木とか 人たらしとかいわれるのでござるな……。」

「……ん? なんか言ったか?」

「いやいや 何も言ってないでござるよ。」


サイラスは、本音を心に閉まって言った。


「なんか言っていたような気がするんだけど……。ん……?」

「今度はどうしたでござるか……?」

「あれ……!」


アルドが指さす方向を見ると、研究者風の男性がサーチビットに襲われていた。


「行くでござるよ!」

「ああ!」


>>>


 「……これで 最期なんだな……。」

「待て!」

「……?」


突然の声に、研究者風の男性は驚く。


「おぬしは下がっておるでござる!」

「ここは オレたちに 任せてくれ! 行くぞ!」


アルドとサイラスは武器を構えた。


>>>


 2人のおかげで、けが人が出ることもなく、サーチビットを倒した。


「おぬし けがはないでござるか……?」

「……。」

「だ 大丈夫か……?」

「……これでよかったんだ……。ありがとう……。」

「何かあったのか……?」


襲ってきた敵がいなくなった割には、落ち込み気味である男性に、アルドは聞いた。


「……実はさっきのサーチビットは 私が作ったんだ……。」

「そ そうだったのか……。そんなことも知らずに……。」

「いや いいんだ。あれは 破壊されるべきだったんだ。」

「どういうことでござるか?」

「あのサーチビットは 私が作ったのだが 致命的なエラーが発生してね。人を襲ってしまったんだ。だから 廃棄することにしたんだ……。」

「そんな……。」

「だが 作った側である手前 自分ではなかなか廃棄できなくてね……。いってみれば あのサーチビットは私の子どもなんだ。子どもを喜んで捨てる親など いないだろう……?」

「……。」

「だから こうやって 倒してくれたおかげで 何とか送り出せそうだ。」


しばらくして、壊されたサーチビットを乗せたカーゴは、出発した。


「ひとは 機械をモノとして扱う。だが 共に生活したり 作ったものからしたら それは 一人の家族だ。ひとになら 絶対にできないことを 機械であればしてしまう。恐ろしい世の中だ……。」

「おぬし……。」

「……すまない つまらないことに巻き込んでしまったね。でも ありがとう。では 私は失礼するよ。」


そういって、研究者風の男はその場を去った。


「機械を作ったことは ないからわからないけど 何となく気持ちはわかるよ。」

「拙者も 似たようなことを故郷で目にしたことがあるから 痛いほどわかるでござる。」


2人は暗い気分になってしまった。しかし、その気持ちを何とかしようとアルドは言った。


「そ それにしても 色んな人がいるな……! なあ サイラス。」

「そうでござるな。子どもを見送る母親に 待ち合わせしていた男女 孫と久しぶりにあったであろうご老人夫婦……。みていて 飽きないものでござるな……!」


「うわぁ~~~ん!!」

「な 何でござるか?」


突然響いた泣き声に2人は驚いた。


「あっ あそこだ!」

「行くでござるよ!」


>>>


 泣き声の方に行くと、その声の主は小さな女の子だった。よく見ると、ひざをすりむいている。


「どうしたんだ?」

「ぐすっ……。お母さんたちと…… はぐれたの……。」

「そういえば さっき 親子連れが急いで あの乗り物に乗ろうとしていたのを見たでござるよ。」

「本当か!?」

「この子のひざの擦りきずも考えると 急いで乗る途中で こけてしまって この子だけ乗れずに 出発してしまったのでござろう。」

「親も心配しているだろうな。」

「カーゴに乗って 追いかけるでござるか?」


サイラスの提案に、アルドは首を振る。


「いや ここで待とう。こちらが動いて 入れ違いになったら大変だ。」

「そうでござるな。」


そういうと、サイラスは女の子に言った。


「もう少しで おぬしの母君が 来るでござるからな。」

「ひぃ……! カエルのお化け……!」

「……。」

「サイラス……。」


どれだけ優しく声をかけても、容姿によって人の反応もだいぶ変わるようだ。一刻も早く呪いを解かないとと強く心に思ったサイラスだった。


「お母さんが 帰ってくるまでの間 しばらく お兄ちゃんとお話してよっか?」

「……うん。」

「さすが アルド 妹君がいるだけのことは あるでござるな……。」


サイラスは口調はそのままだが、そのテンションは確実に下がっていた。アルドは、サイラスに同情しながら、女の子に聞いた。


「キミ お名前は……?」

「……フェリー……。」

「フェリーちゃんか。フェリーちゃんは お母さんたちと どこに行こうとしてたんだ?」

「……フェリーね お母さんとお兄ちゃんと 買い物に行くの!」

「へぇ 買い物か! 何買ってもらうんだ?」

「かわいー およーふくとかー おもちゃとかー おかしとかー いーっぱい 買ってもらうの!!」

「そうなのか! いいな うらやましいよ!」

「でしょー! エヘヘ……!」


フェリーとアルドの会話を見て、サイラスは微笑みながら言った。


「きっと アルドとフィーネも 昔はこうであったのでござろうな……。まあ 今はアルドが フィーネの世話になっているでござるが。」


すると、遠くから声が聞こえた。


「フェリー!」


声に振り向くと、フェリーのお母さんとお兄ちゃんだった。


「おかぁさぁ~~~ん! うぇ~~~ん!」


泣き止んでいたフェリーは家族を見て安心したのか、また泣き出した。


「あなた方が フェリーの相手を してくださっていたのですね……!」

「いえいえ。とても いい子だったよ。」


すると、そばにいたお兄ちゃんがぼそっと言った。


「ごめんなさい……。俺が ちゃんと妹の手を ひいてあげなかったから……。俺 ダメなお兄ちゃんだよ……。」


すると、サイラスがお兄ちゃんに言った。


「おぬし 今の今まで 妹君のことを考えていたでござろう?」

「うん……。」

「なら それは 立派な兄者であると 拙者は思うでござるぞ。」

「ああ。オレもそう思うぞ。」

「お兄ちゃんたち……。……ありがとう! 俺 これからは妹とちゃんと手をつないでいくよ!」

「おっ その意気でござるぞ!」


すると、お母さんが改めて礼を言った。


「娘のこと 本当にありがとうございました……! 娘を楽しませようと わざわざ コスプレまでしていただいて……。」

「こ コスプレ……!?」

「……?」

「本当にありがとうございました! では 失礼します……!」

「ばいばい 変なかっこーのお兄ちゃんたち!」

「ばいばーい!」


カーゴに乗る家族を、2人は手を振って見送った。


「妹の手 離すんじゃないぞ……。」

「行ってしまったでござるな。ところで……」


サイラスは、首をかしげながら言った。


「こすぷれとは いったい何でござるか?」

「ああ。コスプレっていうのは 誰かの服装をまねることを言うんだ。」

「なるほど。では 先ほどの 母君は 拙者らが そのコスプレをした人だと 思っているということでござるか?」

「まあ この時代には こんな格好の人いないからな。オレなんか 初めてここに来た時 中世ミグランス期のコスプレって言われたよ。」

「なるほど。では 拙者もそんな風に見られていたでござるか。」

「いや サイラスは また違うような……。」


「アルド サイラス 待たせたわね……。」


2人に声をかけたのは、エイミ…… ではなくヘレナだった。


「ヘレナじゃないか……! どうしたんだ?」

「エイミのことで 伝えに来たの……。」

「エイミがどうかしたでござるか?」

「実は エイミ ハンターの仕事が思ったより長引くみたいなの。だから また別の日にしましょうってことだったわ。」

「そ そうなのか……。」

「リィカもセバスちゃんの手伝いで忙しかったの。それで 伝えるのが遅くなったらしいわ。許してあげてちょうだい。」

「それは仕方がないでござるな。それに……」

「それに……?」

「なかなか 面白い体験ができたでござるからな。」

「そうだな!」


楽しそうにしている2人に、ヘレナは聞いた。


「あら なんだか楽しそうね。何をしていたのかしら?」

「カーゴ・ステーションの人たちを観察したり 話したりしてたんだ。」

「いろんな人がいて なかなか面白かったでござるな。」

「へぇー 面白そうね。ちなみに アルドたちの時代には こういうところはないのかしら。」

「うーん 港はあるけど……。」

「そうでござる! せっかくだから アルドの時代も見てみようではござらんか!」

「確かに ちゃんとは見たことなかったな……。よし 行ってみるか!」

「私もついて行っていいかしら?」


2人の提案にヘレナも乗ってきた。


「ヘレナから言うなんて 珍しいな。」

「私も どうせなら 人間がどんな生活を送っているのか 見てみたいの。」

「では ヘレナも加えて いざ参るでござる!」


こうして、3人はカーゴステーションを後にして、港町リンデへと向かった。

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