第6話 ニセモテ期と修羅場の始まり?

「ねえ琴平君。君って今、フリー?」

「いや……一応いるけど」

「「「マジ? やっぱりアレじゃない?」」」


 何だ一体。あれって何だよ。


「え、おなクラ?」

「いや、年下の後輩だけど、何で?」


 俺は彼女がいる。ただしニセの彼女で、しかも妹。

 これは自分自身に暗示をかけていることであり、決して本物の付き合いではない。


 今までこれっぽちもモテたことが無く、まして学年問わず、女子からそれらしい話を振られることもなかった。


 そう思っていたのに朝の休み時間、どういうわけか同じクラスの女子数人に囲まれた挙句、思わせぶりな声かけをされてしまっている。


「じゃあさ、今日お昼奢るから付き合ってもらっても?」

「いや、だから俺にはすでに……」

「年下の後輩でしょ? それなら気にしなくてよくない? 琴平君、上だし。下に気遣うとか疲れるだけだし」

「あ、うん」


 ――などなど、あまりに強引な誘いに頷くしかなかった。

 これが人生初のモテ期だとしても、ニセモノ臭が半端無いんだが。


 今日に限って休み時間に佐奈が来た気配が無く、タクシーも被害を負うことは無かったのだが、これはこれで大変な目に遭いそう。


 佐奈は一つ下の学年でありながら、堂々と俺のクラスに来れる度胸の持ち主。

 隙あらばこまめに訪れて来るのに、何故今日に限って来ていないのか。


 こうなるとニセモテ期だとしても、俺もその気になりそう。

 そう思って、昼休みまで何の動きも見せなかったのだが甘かった。


「こ、琴平。悪ぃ、こ、これを……」

「どうした、タクシー?」

「さ、さっき廊下でお前の彼女からどつか……メモを受け取った。今すぐ読んでくれ。ぐふっ……」

「お、おい、生きろ!」


 午前の授業と休み時間。トイレに行くことも無く、自分の席から立つことが無かった。


 それはいいとして、タクシーの奴が瀕死状態で何かのメモを渡して来た。

 どうやらトイレに行った時に頼まれたらしい。


 メモを受け取って読んでみると、


「今日のお昼休みに、サナとサナの友だちとで一緒にご飯食べよ? 約束だよ」


 げげっ。昼休みにご飯って、一方的な約束な上にサナだけじゃないのか。

 まさかの修羅場が開幕するのはキツい。


 こうなれば可愛い妹の方を黙らすしか……。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る