第5話 可愛い隣人からの壁蹴り
俺と佐奈の部屋は間に物置があって、やや離れている。
それだけに部屋と部屋でやり取りをする時には、壁を叩いたり蹴りを入れることが当たり前だったりする。
もっとも、俺から佐奈に合図を送ることはほとんど無いのだが。
声は届かないが壁を叩くのはかなり響くので、主に佐奈からの壁叩きが多い。
我が家の二階が手抜き工事という逃れようのない事実でもあるが、そのおかげで佐奈からの壁合図が、日に日に増えて来ている毎日である。
『ドドン!!』などと、今日の夜はまた一段と壁が攻撃されているようだ。
佐奈からの壁叩きに対し、俺は壁殴りで返事をする。
そのうち家の壁が崩れそうな気もするものの、とりあえず『ゴン!』と音を出す。
しばらくして、俺の部屋のドアをゴンゴンして来た。
「あ~け~て~!!」
「開いてるから入って来ていいぞ」
「うん、お邪魔しまぁす!」
いつも開けていればいいのだが、妹が俺を彼氏扱いするようになってから問答無用で部屋に侵入して来るようになったので、鍵をかけるしかなくなった。
「どした?」
「しゅんぺー、サナの膝に手を置いてくれますか?」
「な、何をいきなり……」
「置くの! 置くったら置くのっ!」
――と言われても、俺の部屋に入るなりすぐに、ペタっと正座をしている佐奈が神々しすぎる。
しかも部屋着は、いつものようにラフすぎて兄でも照れそう。
「……これでいいのか?」
「よく出来ました! そんなわけで、今日の反省会を開催~!」
「反省会~? え、今日の俺の彼氏っぷりにダメだしがあるのか……」
「反省するまでサナの膝から手を離すのは駄目だよ?」
「な、なにぃ!?」
驚いたが、正直言えばかなり気恥ずかしい。
俺の部屋に妹が来ているだけで怪しいことをしているでもないのに、悪いことをしている気になってしまう。
佐奈が俺の部屋に来る時は、大抵反省会もしくは他の女子への愚痴を延々と言いたい時だ。
だが今回のように体に触れさせながら反省させようとしているのは初めてで、俺の方が戸惑っている。
「反省点その一。しゅんぺーが他の女子にデレデレしていた!」
「いや、アレは同じクラスの女子――」
「反省点その二。席替えしろ~!」
「そりゃ無理すぎる……」
「反省点その三。壁蹴りに気付いていなかった!! 膝に手を付いてるのに、赤くなってるところに気付いてな~い!」
「え、壁叩きじゃなくて壁蹴りだったのか?」
とんでもなくどうでもいいことだけど、あの激しい音は佐奈の壁蹴りだったらしい。
俺に合図をするのに毎回壁蹴りとか、知らずに痛い思いをさせてたのか。
「それはごめんな。反省を込めて、なでなでするから許してくれ」
「――!? バカッ! 変態!! セクハラしゅんぺー!!」
「ぶふおぁっ!?」
「反省会終わりっっ!! 以上っ!」
「な、何故に……」
「……しゅんぺー、明日もよろしくだよ? おやすみっ!」
膝をなでなでしたのがまずかったのか、佐奈は立ち上がりざまに俺に回し蹴りを繰り出した。
痛がる俺に、そこからの上目遣いとかあざと可愛いすぎる。
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