第4話 サナは、全女子への対抗心が半端ない

 彼氏のフリをする、周りに冷え切った関係を見せつける……だけならすでにコンプリート済みのはずだが、妹の佐奈は対抗心が半端ない。


 特にヤキモチやきが尋常じゃないのが、今の悩みの一つだ。

 

 親しくも無ければ、単に同じクラスの女子というだけの関係性にもかかわらず、佐奈は常にそのことで抗議と喧嘩を売りに来る。


 それは可愛いから許されるということではなく、度が行き過ぎているという点が問題だ。


 午後のHR後。帰る間際にクラスの女子と一緒に、プリントを運ぶことになった。

 

 何てことは無い動きなのだが、見知らぬ女子のプリント量が気に入らないのか、学年違いの佐奈が何故か後ろから付いて来ている。


「え、誰? 琴平君の知ってる子?」


 ――と、このように佐奈と俺の関係性を知らない女子もいる。いや、知らないし興味も関心も無い女子の方が圧倒的だ。


 だから何も心配は要らないはずなのに、プリント係の女子よ、許してくれ。


「そこのセンパイ! けしからんですっ!!」


 おいおい、可愛いじゃないか。ではなく、何で喧嘩を売るのか。


「え、プリントが?」

「どうして男子に多く持たせているのか、意味不明なんですけど!」

「そんなこと言われても……」


 そんなこと言われても俺も困るのに、何も言えない。

 とりあえずクラスの女子には、後で土下座を実行しとこう。


「問答無用で奪わせてもらいますっ!」

「わわっ? ええ!?」


 対抗するところはそこじゃないぞと教えてあげたいが、時すでに遅し。

 佐奈は、おなクラ女子からプリントを全て奪ってしまった。


 そして何故か勝ち誇ったように、プリントを抱えている。

 そもそも学年が違うだろ。


「――そういうわけなので、ウチが代わりに運んでおきますね、センパイ!」


 ポカーンとしながら、仕事を奪われた女子はその場で立ち尽くしていた。

 それはそうだろう。


「――っとと、よっこいしょ……」

「おい、無理すんなよ。何で後輩にプリント持たせてるんだって言われるのは、俺なんだが……」

「だって、しゅんぺーと一緒に歩きたかったんだもん」

「……むぅ」


 確かに学年が違えば、プリントを一緒に持って歩くことは叶わない。

 いやいや、だからって奪ったらあかん。


 しかも意外と量があったらしく、右に左に揺れているのは反則だ。

 可愛いから許すと思っていては示しがつかないのに、どうしてくれよう。

 

「今回だけはその強引さを許すけど、学年違いのことをやったら怒るぞ?」

「じゃあ帰りにマシュマロ~」

「はいはい」

「やったぁ! だから大好きなんだ~」


 兄として妹に好かれるのは、とても嬉しい。

 それにしても行き過ぎた女子への対抗心が、半端なさすぎた。

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