第3話 彼女じゃなくて幼馴染でも可?

「なぁ琴平、聞いていいか?」

「何だ、タクシー」

「さっきからオレの身体中に突き刺さる視線を感じてんだけど、アレはお前のアレじゃねーの?」

「……あー」


 妹でありニセの彼女である佐奈は、見せかけの関係が冷え冷えでも、何故か休み時間ごとに会いに来る。


 しかし俺の席は真ん中。廊下からだと、いま話しかけて来たダチのタクシーこと、山中やまなか卓志たくしが丁度見えない壁となる。


 そうなると、思いきり佐奈からの視線を浴びることになるわけで。

 佐奈からしてみれば邪魔者であり、貴重な休み時間を無駄にさせる敵という認識。


「しかし、不思議すぎる」

「何がだ?」

「あんな冷え切った付き合い方してて、何で会いに来てるんだろうなぁと。それとも、アレはお前の浮気防止策ってやつ?」

「俺もそう思うが、タクシーの見解は?」

「とりあえず、話しかけに行け! そろそろ視線に耐えられん」


 いつもはたとえ休み時間ごとに会いに来られても、数回に一回くらいしか話しかけに行かないという独自ルールを設けている。


 そうしないと完全に冷え切った関係性を見せつけるには、至らないからだ。

 

 だが今日に限っては、朝の出来事の反省が俺の中にあるので、たまには近くに行って話しかけるのもいい気がして来た。

 

「よ、よし、行って来る」

「マジか! 骨は拾わないでおく。せいぜい、泣きついて来い!」

「泣かねーよ」


 ――で。


「泣いてもいいけど? どうせみんな背を向けてるわけだし?」

「彼女を泣かせたからって、泣いて許してくれだなんて言わないな」

「ふぅぅぅん? 彼女程度では謝るつもりは無いんだ?」

「そうだな」


 いくら他のみんなが背を向けているといっても、聞き耳を立てられている以上は、クールな対応を心掛けなければならない。


 そう思っていたのに。


「何も言わずに場所移動。こっち来いよ、テメエ」

「うわぁ!?」

「うるさい!」


 佐奈の中で何かが壊れたのか、強引に襟元を掴まれて、廊下の窓際へと押しやられた。

 窓際なら、さすがに近づかれることはない。


 そのままズイっと顔を近づけられ、いつになく緊張感が走る。


「ど、どうし――」

「ねぇねぇ、怖かった? サナ、冷血な女になってた?」


 いつもは自分のことを『ウチ』と言う佐奈が、『サナ』だなんてどうした、可愛すぎるぞ。


 こうして間近で佐奈を見つめることになるとは、今日はいいことありそう。


「ばっちりですとも!」

「え~? それでさ、彼女程度だとやっぱり弱くないかな?」

「弱い……って、何が?」

「設定に決まってんじゃん。冷え切った関係はさ、全学年に知れ渡ったと思うんだ。だけど、な~んか弱い気がすんの」

「――って言ってもな」


 彼氏のフリをするだけでも、こっちはいっぱいいっぱいなんだけど。

 それなのに、さらに追加要素をぶっこんで来るつもりか。


「き~めたっ!! しゅんぺーとサナは、幼馴染である! を加えようじゃないか」

「それも周知させる……と?」

「うんうん! そしたらしゅんぺーに近づいて来る女子も減ると思うんだ! サナ、あったま、い~い!」


 何て可愛すぎか。

 そして一人称はサナに決めたらしい。


 そもそも同じ家に住んでいるのに、幼馴染設定は無理がありすぎるが、佐奈は分かっているのだろうか。


「た~のしっみ! それじゃ、サナは戻るであります!」

「じゃあな」

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