第2話 可愛い逆らいのスキマ

 一つしか違わない兄妹。

 だからといって、年上が強いとは限らないし優位に立てる保証はない。


 特に俺の妹、いや彼女として行動している佐奈に関しては、たった一つ違いの壁というものなど存在しないどころか、常に反抗期が続いている。


 今日も仲が悪すぎる光景を周りに見せつつ、廊下で別れようとすると、早速逆らって来た。


 こういう時なるべく近寄りたくないのか、廊下から人が一斉にいなくなることが多い。それを知ってか知らずか、佐奈は逆らいの甘えを見せて来る。


「じゃあ俺は二階だから……」

「……駄目」

「俺が近くにいるのが嫌なら、玄関で別れれば良かっただろ……」

「それは嫌だし、敵を騙せないから駄目なの!」

「敵って……」

「女子全部敵だもん。しゅんぺーは、自己評価下げ過ぎだと思うんだ」

「……どうだろうな」


 佐奈は早くも、自分に課した氷の様な関係性から逆らって、好き好きすぎる感情を露わにしだした。


 兄である俺はというと、もちろん佐奈が好きである。

 ただし妹として。


 しかし廊下に誰もいないとはいえ、冷え冷えな関係をあっさり崩すのは非常によろしくない。

 言い出しっぺは佐奈なのだから、ここは厳しくするべきだろう。


「しゅんぺーは悪くないと思うんだよ」

「俺には分からないな」

「え、何か冷たい気がする~。もしかして学校の中のあらゆる所で、冷えた関係を持続させるつもりがあるのかなぁ?」

「知らん」


 本来は俺も妹を甘やかしたくて仕方が無いのだが、気を抜くなという意味でここは心を鬼にして、冷え冷えな対応をする。


 そう思っていたのに、うつむく佐奈から漏れ聞こえて来たのは、すすり泣きだった。


「グスングスン……しゅんぺーはひどいよ」

「えっ!?」

「ウチだって分かってるんだよ? だから人の気配が無いのを見計らって甘えてるのに、全っ然! 分かってない!」

「い、いや、俺もそう思ってるけど、念には念を入れて……」

「いーもん!! しゅんぺーがそういうつもりなら、とことんやってやるんだから!」


 どういうつもりのやる気なのだろうか。

 

「え、えぇ?」

「……そういうわけだから、回れ右!」

「えっ?」

「回れ右! だよ! ほら、早く」

「こ、こうか?」

「もう一度回れ右!」


 要するに後ろを向けと言いたいようだが、可愛いので許してあげよう。

 なるべくなら背中を与えたくないが、やむを得ない。


「……これでいいか?」

「そのまま前進~!」

「歩くのか……でも、俺の教室は逆――」

「つべこべ言うな! はい、イッチに、イッチに!」


 可愛いにも程があるだろ。

 何てことを思っていたら、後ろから何やら猛ダッシュしてくる音が聞こえて来る。


『ズドーン』などと鈍い音と同時に、俺は猛烈なタックルに襲われた。

 しかしそこは妹程度の戦闘力。


 よろけることもなければ、ただただ俺の背中で痛みに悶える佐奈の声が、俺にだけ聞こえて来るだけ。


「いたぁぁぁ……い」

「気が済んだか?」

「うぅ……ムカつく! 休み時間まで覚えてろよっ! バーカバーカ!」


 どうやら気が済んだらしいが、休み時間になったら、また冷え冷えな態度で会いに来るということのようだ。


 それにしても、妹のちょっとした反抗期が、可愛くてたまらない。

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