彼氏のフリをしてと言われても。~妹のサナが今日も可愛すぎる~

遥 かずら

第1話 学校一、冷えすぎる彼氏彼女?

「うるせーな! とっととウチから離れろよ!!」

「はっ……、それはオレのセリフだろーが! そんなに嫌なら離れりゃあいいだろうが!」

「バーカ!! ろくでなし野郎!」


 今日も変わらず、仲が悪すぎる彼氏と彼女。

 オレと彼女である佐奈さなは、付き合っているのにもかかわらず、学校一冷え切った関係として知れ渡っている。


 ヒソヒソと、廊下や教室の陰から『おい、見ろよ。あれで付き合ってるとか、あり得ねえよな』とか、『美少女なのに性格どぎつすぎるだろ……』などなど。


 とりあえず、佐奈の作戦は上手く行っているようだ。


 ◇◇


 オレと佐奈は学年一つ違いの、彼氏彼女ということになっている。

 しかし二年の琴平ことひら旬平しゅんぺいと、妹の琴平ことひら佐奈さなは、れっきとした正真正銘の兄妹なのだ。


 何故妹が彼女で兄のオレが彼氏かというと、妹たってのお願いをされてしまったからなのだが……。


「しゅんぺー! モテるよね? ねぇ、モテてるだろ~?」

「モテてないな。兄がモテていれば自慢できるかもだが、そこは何というかすまん!」

「ちっが~う!! それって、同学年とか先輩の話だし。そうじゃなくて、しゅんぺーはウチと同じ学年の女子に大人気なんだよ? それって落ち着かないわけ!」

「そんな実感は今の所無いんだが……」


 いや、そういや……佐奈に会いに行くたびに、謎の視線があるような無いような。


「だから今日から彼氏のフリをすること! ただし! すっごい冷え切った関係を見せつけてね!」

「ん~? そりゃ何とも矛盾してるような気が……」

「嫌なのっ! しゅんぺーが他の女子にくっつくとか、泣きそうになるもん!」

「おまえ、それ……」

 

 ◇◇


 ――で、朝の通学路。

 兄と妹の仲睦まじい姿……ではなく、付き合っているけど冷え切った関係をあえて見せつけながら、道行く人々に見せつけていたりする。


 これは物凄くおかしなことだ。

 妹の佐奈はどうやらオレのことが好きらしいが、何かがおかしい……いや、かなりおかしな状況を作り出している。


「キンキンなんだよ? 一気食いしたら、頭がこう、ズキーンってしちゃうんだよ?」

「昨日食べたアイスの果実のことだな」

「そうそう……甘くて美味しくて、間食がやめられない――って、違うし!!」

「……言いたいことは何となく分かる。それくらい痛みが伴うことを、あえてやっているってことなんだよな?」

「そうなんですっ! しゅんぺーはそこをよぉく、気配りして欲しいのだよ!」


 妹の佐奈とは、当たり前のように一緒に通学している。

 それ自体に親は何の違和感も感じていないが、近所とか学校のダチとかは違う視点で眺めて来るのが日常だ。


 仲良き兄妹が腕を組みながら歩く。

 高校生にもなってと言われるのも別に嫌では無かったのだが、多分俺の知らない細かい体裁を気にしているのだろう。


「分かった、よぉく、分かった」

「しゅんぺー兄さまってば、おモテになるわけでございまして~」

「断じて気のせい!」

「――っと、もうすぐ冷え冷えなエリアに入るから、そこんトコロよろしくですっ!」

「はいはい……」


 どうやら佐奈は、俺が後輩女子からモテまくっていると自負しているようだが、事実は似て非なるもの。


 実は俺では無く、佐奈こそがモテまくり女子。

 それこそ学年に関係無く、注目を浴びまくっているキレ可愛い女子なのである。


 その辺に気付いていないのも、佐奈らしいのだが。


「さてさて、そろそろだよ?」

「はいよ」

「――スゥ……、フンっ! あぁ、うざうざうざ! くっついてんじゃねえよ、雑魚が!」


 くっ、などと思うよりも、事前に切り替えるその姿は可愛いすぎる。

 サナという俺の妹にして偽の彼女は、今日も可愛すぎ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る