第38話 ハゲの襲撃


「セイ! ヤ! セイ! ヤ!」


 正拳突きをしながら行軍するハゲの軍隊もとい、拳闘国軍三万もの侵略軍が、拳闘国を出発した。正直太腿が心配である。

長い距離持つのだろうか?


 ユウトは、拳闘国には過去散々な仕打ちを受けて来たので、スパイを手配していた。


 ユウトにスパイから、早馬で報告が入る。


「拳闘国軍約三万が拳闘国を出発して、サマーソルト領を迂回して、我がナルシス国へと向かって来ております」


「ご苦労! ゆっくり休め!」


「は!」


 ユウトは指を鳴らす。

すると、ジジとバニラが現れる。


「ジジよ! 緊急兵を集めて、ボルボ山に陣を敷け」


「バニラ! 手筈通り、トラップの設置を任せる」


『イエス マイロード』


 いよいよ慌しくなってきた。

すると、ナルシス神様が悩みながら、

突如現れる。


「どうやら恨みは深いらしい...」


 ユウトはビックリしながら、訳を聞く。


「恨みとは?」


「千年以上前になるのだが、

私は拳闘神の惚れた神を落とした事がある。

私も神界ではチャラ男だったからね」


 お前のせいじゃねーか!! 


「あ〜僕は何て罪深いのだろう? きっとこの三千世界で煌めく美貌がいけないのだね...ユウト王よ! 因みに勝てそうかね?」


 ユウトは自信満々な顔つきで答える。


「ナルシス神様! 魔王すら倒した私の采配を見ていて下さい」


 ユウトは強気である。ナルシス神様の事がなくてもいつかは攻めてくる予感があった。

だからこそあれを作ったのだ。


 兵士の育成は常に自然公園で行って来たし、レベルは平均八十近くまでいっていたが、数少ない貴重な兵士はなるべくは失いたくない。


 「ーーナルシス神様実はお聞きしたいことが...」




 ユウト王とナルシス神はその晩、

笑い明かした。まさか...







 〜〜〜拳闘王国軍side



 ボルボ山を抜けると、長い一本道になっているーーかつての魔王城への一本道である。





 行軍を続けた拳闘王国軍約三万は、魔王城に陣を敷いた。いよいよ明日、その一本道を抜けて、ナルシス王国軍約三千を蹴散らすべくボルボ山に向かう。



 翌日、その一本道に対峙した、

拳闘王国軍は、奇妙な二つの扉を発見する。

しかも立て札まである。


「ここで一つ目のクエスチョンタイム!! 拳闘神は幼い頃気弱でいつも泣きべそをかいていた。

イエスなら右へ、ノーなら左へ」


 ふざけている。拳闘王国軍の皆全ての総意が決まった。指揮官を務めるツルッパゲ将軍は檄を飛ばす。


「左の扉へ全速前進!!」


「セイ! ヤ! セイ! ヤ!」


 拳闘王国軍は正拳突きをしながら、左の扉を抜けていく。しかし、ある程度人数が越えた段階で罠が作動して、穴の中に落ちる。


 穴の下には鋭利な刃物が剣山のように敷き詰められており、多数の拳闘王国軍が被害にあう。死屍累々の様子だ。


 ツルッパゲ将軍は驚きを隠せない。


「全軍止まれ!! 救助を最優先に!!」



 ツルッパゲ将軍の指示で右の扉を幾人かで進ませたが、何も起きなかった。


 つまり、これはイエスかノーのクイズをしながら、行軍をしなければならないのだなと、前方に幾つも聳え立つ門を見据えた。



「ここで二つ目のクエスチョンタイム!! 

拳闘神は若い時にある病にかかりました。それはどっち!?右は手の骨折、左は厨二病」


 拳闘士として、研鑽を積むと一度は必ず骨折はする。次こそは必ず右な筈だと、拳闘王国軍は思った。


「右の扉へ全速前進!!」


「セイ! ヤ! セイ! ヤ!」


 拳闘王国軍は、正拳突きをしながら進むも、また、罠にかかり、穴へと転落して死傷者がでた。次の穴には猛毒の毒蛇や蠍がウジャウジャ居たようだ。

今度はなんてグロテスクな絵であろう。


 ツルッパゲ将軍は頭を抱える。


「何なのだ? この扉は!! 真剣に戦え! 臆病なナルシス王国軍め!」


 しかし、ボルボ山のナルシス王国軍は、挑発に乗らずに盾で護りを固めたままだ。


 拳闘王国軍は、罠に嵌った兵達を助けながら進む。


「ここで三つ目のクエスチョン!! 拳闘神の嫌いな食べ物は?右はピーマン、左は茄子」


 ツルッパゲ将軍はこの茶番に嫌気が差した。


「門を避けて、崖の傾斜の緩い道を作れ!!」


 ツルッパゲ将軍の指示で斥候が、岩肌へ急な工事を行い、道を作ろうとする。


 すると、崖の上から、岩が落ちてきて、斥候が、次々に岩の下敷きになっていく。


 ナルシス王国軍約千名は、左右の崖に分かれて、クエスチョンの不正を取り締まるべく、落とし岩を設置していたのだ。


 ツルッパゲ将軍は苦虫を噛み締めた顔になるーーこの茶番を続けさせるつもりか?


「左右どちらの扉にも全速前進!!」


「セイ! ヤ! セイ! ヤ!」


 拳闘王国軍は思い思いに、左右の扉に分かれて正拳突きをしながら進軍した。


 すると、左の扉の先がまた罠になっており、穴に兵士が落ちてゆく。穴の下にはマキビシが散乱しており、深傷を負い泣き崩れる者が多数出てきた。死者こそ今回は出なかったが、負傷兵が増える。


 またもや貴重な兵士を多数失ったツルッパゲ将軍は、顔を真っ赤にして怒る!!


「誰かちゃんと文献を調べてきた者はいないのか? 所詮は自国の神についての問題だぞ!」


 しかし、加護を与える神は基本的に王族くらいにしか顔を出さない。つまりは謎のベールに包まれたケースがほとんどである。


 しかも先程からくだらない問いばかりで、

そんなもん知るか!! と言いたくなる。


 ツルッパゲ将軍は今度こそはと、気合いを入れる。


「ここで4つ目のクイズ!! 拳闘神は若い時に書物を書きました。どちらでしょうか?

右は拳武指南書、左は君に会いたくて〜ピュア」


 ツルッパゲ将軍は考えてもわからない。

ならばと、拳闘王国軍全員に聞いてみる。

やはり右を推す声はでかいが、今までの流れだと左もあると分かれた。


 しかし、ツルッパゲ将軍は、名門の家筋にあたり、拳闘神様を見かけた事もある。

威風堂々とした拳闘神様を信じていた。


「馬鹿野郎!! 左な訳がないだろう!! 右へ全速前進!!」


「セイ!! ヤ! セイ!! ヤ!」


 拳闘王国軍は、正拳突きをしながら進むも、また、罠にかかり、穴へと転落して死傷者がでた。


 次の穴にはどうやら沼になっており、落ちた兵士達は、もがくが、中々上がれずに、どんどん沈んで窒息死した者が多数出た様だ。沼地獄の絵面である。

生存者を引き上げるのに、かなり苦労した。


 ツルッパゲ将軍は、渋い顔をした。

拳闘神様の恥ずかしい過去の暴露も合わさり、兵士の士気も下がってしまうからだ。


 最早兵士は半数近く死傷者が出ており、

侵略計画に重大な支障がきたしている。

しかし、一当たりもせずに、おめおめとは帰れない。


 ツルッパゲ将軍は最後の扉に進軍を決めた。


「最後のクエスチョン!! この戦争を決めたのは誰?右は拳闘王、左は宰相」


 ツルッパゲ将軍の元に視線が集中した。

この軍の指揮官しか分からない問いであるからだ。


「えーい! わしも知らぬわ! 言われたのは確かに宰相からだが...」


 ツルッパゲ将軍もどちらに進めば良いかわからなくなっていたが、指揮官として悩んでばかりはいられない。


「左へ千名、右へ千名全速前進!!」


「セイ! ヤ! セイ! ヤ〜...」


 被害を少なくする為に進軍数を少なくして見たのだが、どちらの扉も坂を滑り落ちるようになっていた。


 坂には油が塗られ、ツルツル滑りやすい。

しかも落ちた先は油の水溜りになっていた。


 すると、左右の崖から、本軍へ油甕がどんどん投げ入れられて、更に火矢が放たれた。

阿鼻叫喚の絵とは正にこの事だ。

最早、味方を救う状態ではない。


 更には、補給物資にまで火がつき、

進軍が出来なくなった。


 またもやお尻に火が付いた状態で、

拳闘王国軍は敗走を余儀なくされた。

しかも、戦わずして負けたのだ。





 敗走したツルッパゲ将軍は、拳闘王から直接参上しろと、命令が下る。


「この大馬鹿者が!!」


 ツルッパゲ将軍は酷く怒られた。

しかも今日は何故か拳闘神様も現れて、

二人してツルッパゲ将軍をけちょんけちょんに罵声を浴びせる。


 ツルッパゲ将軍も段々腹が立ってきた。


「拳闘神様に質問がございます」


「何だ!? 言ってみろ?」


「拳闘神様は若い時、気弱な泣きべそ少年で更には厨二病を患い、君に会いたくて〜ピュアという書物を作成して、ピーマンが苦手なんですか?」


 すると拳闘神様は、顔を真っ赤にして問いただす。


「誰がそれを暴露したのだ?」


「ナルシス王国軍です」


「おのれナルシス!! 昔から我を馬鹿にしやがってからに!!」


 どうやら本当の事らしく、拳闘神様は地団駄を踏んで怒り撒くっていた。


 ツルッパゲ将軍は悟った。

最後のクエスチョンの答えは...


 その夜、拳闘王国では、拳闘神様の怒りの叫びが、国を駆け巡ったのであった。

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