第14話 ユウト過去編


「ちょっと待てよ」


 ユリウスよ! それは女性を引き留める時に、

お前がよく使ってた口癖だろ。

男に使っても効果無いぞ。


 因みにユウトの口癖は

小指の赤い糸を辿ったら

貴方に巡り合いました。

である。


「そうよ! アダムのとこに一ヵ月以上居て、私達には数時間っておかしくない?

次またいつ会えるかもわからないのに」


 俺の立場を考えて! 職なしの逃亡者だよーーニート吟遊詩人とか世間から見たら、

完全にダメ人間である。


「アダムも温野菜王も合コン開催や生活費保証をしてくれたから、滞在延ばしたけどね。

お前達ばかりに構ってられないんだよ」


 俺は祖国を見返す為に、

BIGな男にならなくてはならないのだから


「今日一日くらいいいでしょ?

教会で宿提供するし、高いお酒用意するから! 」


 まぁ酒と宿まで用意すると言われたら、

今日一日くらい滞在しても良いか


「まぁ一日くらいなら」


「じゃあ夜に三人で呑みましょ」




 夜、豪華な晩餐会が開かれた。

流石聖女気前が良いな。

そうだ! ユリウスお前には聞きたい事があった。


「ユリウスは口説いた女性達はどうしたんだ? 聖騎士団長では養いきれないだろ」


「何を言っているのだねユウトよ!

俺はこう見えて筋は通す男だよ。

もちろん全員俺の屋敷で養っているさ!

この国は封建制度じゃないから、

貴族には慣れないだけで、

俺はそこらの国の軍務大臣クラスの給料は貰ってる」


 何て事だ! 甲斐性でユリウスに負けてしまった。

俺だって褒美と役職さえ貰えていれば...


「アダムの家は五階建てプール付きだったけどユリウス家は?」


 ユリウスはニヤリと笑う。


「十階建てでプールと温泉と道場付きだよ。

もちろん時々剣術も教えて、副業もバッチリ」


 ユリウスは完全にリア充になってしまった。

昔から一緒に遊んだ悪友が良い暮らしをして、落ち着くのは何か微笑ましいものだ。


「はぁ? ユリウス貴方は、

信心が無いのに聖騎士団長になれた、

歴史上初めての人間だと言われて、

揶揄されてるんだから、聖書早く覚えなさい」


 ユリウスーー昔からミサに行くくらいなら、ナンパをする男であった。


「アイリスは手厳しいよね。出会った時から!

ユウトに今だから聞いてみたいんだけど、

あんなにふざけまくってたのに、

ユウトは勇者パーティの参謀な立ち位置だったじゃん。勇者の指示よりユウトの指示が優先されるくらい。何かあったの? 」


「私も聞きたいわ。ずっと不思議だったの!

猪突猛進な勇者がやけに、

ユウトには逆らえないのが」


 そうか! アイリスもユリウスも魔王討伐メンバーとしては大分後期のメンバーだったな。たまには昔の話をしようかーー何処から話せば良いかな







☆☆☆☆ユウト過去編



「拳闘士ユウト汝は勇者パーティの一員となり、魔王討伐に人生をかける事を命令する」


 ユウトは拳闘国の王にそう言われて、

勇者パーティの一員として結成時から戦っていた。

パーティとは最大五人の組み合わせである。

バランスが悪いと敗走したり死者がでたりする。



 ユウトは初期では拳闘士をやりながら、

様々な職業をサブ職につけて、

レベル上げをしていた。


 どうも拳闘士という職業がパーティとして、前衛に向いていると思えなかったのだ。


 なぜなら前衛とは、

中衛と後衛に敵からの通常攻撃を喰らわせない、

盾の役割が必要だと認識していたからだ。

素手だと盾役には不充分である。


 同じ前衛の勇者が攻撃的なら、

もう一人は完全に盾役をしないと、

テンポが悪くなる。


 指揮官役が突撃しか命令出来ない勇者だった頃は、数々の死傷者や後遺症の残るメンバーが絶えなかった。


 このままではいけないと感じたユウトは、

勇者を七日八晩説き伏せて、

待遇改善とチェンジシステムの導入を受け入れさせた。 


 待遇改善とはつまり、

レベル上げ等をちゃんとさせてから、

魔王討伐の侵攻作戦に着くというものだ。


 初期は新しいメンバーと連携も確認せずに、

直ぐに実戦投入させていた。

かなりの無茶である。


 ボス戦以外の通常討伐に参加できるメンバーを、

最低LV65以上というルールもこの時出来た。


 チェンジシステムとは、

最前線で戦うチームの後ろに、

予備のチームを作り、

状況に応じて交代するシステムである。


 前衛と中衛はちょっと疲れたなと思った時で、

後衛もMP残量が五割を切った時に交代する。

別に五人全てが同時に交代しなくても良い。

一人ずつでも、もちろん構わない。


 それをやるには、

お互いを理解しないといけないーー何が得意で何をして欲しいのかは、人によって随分変わってくるものだ。


 例えば、盾役が上手く出来ないメンバーが来たら、

中衛も盾に参加したり、

逆に前衛の護りが充分なら中衛は飛び道具で、後衛のアシストをしたりして、

連戦してもなるべく負傷者が出ないチームを作る。



 その為には一緒の訓練とレベル上げが何より大事だ。侵攻作戦は月に四回くらいまで減らさせた。


 根気よく勇者を説得したユウトは、

段々と参謀のポジションを確立して行ったのだ。

もちろん面白く思わないメンバーも出て来た。


 ーーその筆頭は、

拳闘国の隣国でお互い国同士の仲が悪い、

サマーソルト国の第三皇子ソルトだった。


 ソルトは自身の次期皇帝争いを有利に運ぶ為に、

更にはサマーソルト国の力を世界に示す為に、勇者パーティに参加したのである。


 ソルトは皇族である。

皇族や貴族は、自身の為に平民が死んでも当たり前だと思っている連中が多い。


 ソルトは平民と並んでレベル上げしたり、

連携を強化したりする日々を

次第にストレスと感じるようになるーーそこで中々実戦に出られず不満を持つメンバーを集めて、勇者に直談判したのだ。


 ソルト事件ーーこれが皆が口を閉じて話題に出来ない、禁忌の出来事となった事件の始まりだった。


「魔王討伐に世界が協力した事で、

勇者パーティが発足して、はや二年が経ちました。しかし慎重すぎて、

魔王討伐の侵攻作戦が些か遅く感じます。

我ら一同は無能で使えないのに参謀気取りのユウトが原因だと思っておりますーーよってユウトの勇者パーティ一時凍結と侵攻作戦の促進を求めます」


 ソルトは自身が皇族である事を最大限にアピールして回り、自分こそ参謀に相応しいと訴えて、ソルト派閥を形成していたのだ。


 困り果てた勇者アダムは、

全員参加の会議を開いた。

様々な意見が飛び出す中で、

和解案も提示されたが、

ユウトの考えは命大事にである。

そこを曲げるつもりは一切無かった。


 皆に、ユウトのやり方を信じるか、ソルトのやり方を信じるか最終的に決をとる運びになる。


 頑なに自我を押し通して、

仲間の命を大事に考えて来たユウトの想いは届かないーーやはり大きいのは身分の差であろう。


 皇族の命令か平民の命令かどちらを従いたいかと言われたらーーやはり皇族の命令になろう。


 ユウトを支持したのは魔法士ビル爺だけだった。

事実上更迭処分をされたユウトは、

ビル爺に頼んで魔法王国に転移して遊び歩いた。


「ユウトよ! 儂は年齢が高いから、

ユウトの仲間思いな作戦に賛同して、

お前に着いたが、若い奴らは解らないだろな。お主の無念はわかるぞい」


 ビル爺に魔法王国を案内されて、

ユウトは大都会の楽しさにどんどん魅了される。夜遊びが酷くなる一方だ。


 しかし、ビル爺は何も言わず好きにさせてくれた。

ビル爺も憧れていたバーテンダーまでやり出す始末である。




 一ヵ月後勇者アダムはボロボロになって、

ユウトの前に一人で現れたのだ。

ユウトは金髪でチャラチャラ着飾り、

クラブで踊り明かしていた。


「ごめん俺が間違っていた。

ユウトに戻って来て欲しいんだ」


 勇者アダムの見事な土下座に、

流石のユウトも興が削がれて、

勇者アダムを立たせて場所を変える。


 ビル爺の働くBARに勇者アダムを連れてきて話を聞く事にした。


 一向に俯き話さない勇者アダムに焦れて、

ユウトが話を振る。


「んでソルトはどうしたよ」


「逃げ出して...生死不明だよ。

更には仲間達が皆死んでしまった」


 勇者アダムは泣き出した。

ユウトもビル爺もそこまで酷い事態になっていた事にびっくりしたと同時にユウトは激怒する。


「おかしいだろ! 俺が居なくなって1ヶ月しか経ってないよね? 仲間は50人は居た筈だろ」


「はじめは上手く行っていたんだ。

ユウトがレベル上げをさせてたからね。

だけどソルトは仲間を消耗させては使い捨てて、どんどん前に前に進んだ。

その結果対策も出来ずに、

エリアボスとの戦いになり、

仲間が次々死んでいった...

更にソルトは恐怖のあまり逃げ出してしまったんだ。

参謀が居なくなり撤退戦を強いられ、

最後まで生き残った仲間は、

俺なんかを逃す為に囮になったよ。

生きてユウトさんに会って、

僕らの分まで謝ってくださいって言われたんだ。だから...」


 思わずユウトは勇者アダムを全力でぶん殴った。勇者アダムはぶっ飛ばされる。


「お前は勇者としてリーダーとして、

本気で全員の命を預かっている自覚あんのか?

仲間は使い捨ての駒じゃないんだぞ!

ましてや魔王討伐戦如きで散らせて良い人材じゃねぇんだよ!

泥臭くても生きて!生きて!生き残らせて、

戦後に自分の人生を歩ませてあげるのが、

お前の務めだろ。

他人の人生を背負う覚悟もない奴がリーダーなんかやってんじゃねぇ。

お前はリーダーとしてソルトを止められる場面は、山程あった筈だ。それをせずに、

参謀をやった経験もないソルトの言いなりで戦って来たーーつまりは、ソルトに罪を擦りつけただけで、勇者アダムお前が仲間を殺したも同然なんだよ」


 ユウトは怒りが収まらず、店を飛び出した。


 項垂れる勇者アダムにビル爺は言葉をかける。


「儂程高齢になり、人生経験を増やすとな、

沢山失敗もして来たもんじゃよ。

お前さんの背負うものは確かにでかい。

もし儂がお前さんの年齢で同じ境遇になったら、うまくやれと言われても、

おそらく出来ないじゃろう。

だがな、出来なければ出来る奴に任せればいい。それがチームというやつじゃよ!

お前さんもソルトも指揮官には向いてない。

全体と先々の展望が見えておらんからな!

儂は無駄死にしたくないから、

ユウトについて行ったんじゃよ。

まぁ勇者パーティも儂と勇者アダムとユウトの三人しか居なくなってしまった今、

各国から追加のパーティメンバーの補充が必要じゃ!ユウトの気持ちが落ち着くまで、

勇者アダムもゆっくり休息を取りなさい。

儂がユウトを説得してみるから」


 勇者アダムはテーブルに着くと泣きながら、煽るように酒を飲み出した。

ビル爺も注文されるがままに、

好きなだけお酒を勇者アダムに与えた。


 ユウトは魔法王国の王宮にすぐ様向かい、

転移の使える者を貸して貰い、

温野菜王国の宮殿まで転移した。


 ユウトは事の顛末を話して、

勇者の代わりに謝罪した。

そしてお墓の設置と追加のメンバー依頼を、

頭を下げてお願いする。


「ユウト君は本当によくやってくれてたのに、

変なパーティ送ってしまってごめんね!

これからは平民限定にするよ!

細かい要望もなるべく聞くようにするから、

ユウト君も元気だしなよ。

後、アダムちゃんが頼りなくて本当にごめんね」


 温野菜王はユウトを認めてくれて励ましてくれた。

ユウトは何度も泣きながら感謝を伝える。




 ビル爺の仲介で勇者パーティに戻ったユウトは、

その後更に、レベル上げや連携に時間を使う。


 この頃からユウトは頑張って、

レベル上げをして来た、

様々な職業を仲間次第で、

使い分けをするようになる。


 それは前衛中衛後衛に関わらず、

見事な活躍である。


 ユウトは更に手を打つ。

新人が勇者パーティに入る時には必ず、

ユウト作成の勇者法度に目を通させる。


勇者法度一条 自分の命を第一に考えるべし。


勇者法度二条 LV65以上になるまでレベル上げをする事。

勇者法度三条 LV80以上になるまでボス戦に参加ししない事。

勇者法度四条 自分勝手に行動せず、連携を重視すべし。

勇者法度五条 俺を置いて先に行けと言わない事。


勇者法度六条 敵と相討ちの自爆攻撃をしない事。


勇者法度七条 参謀の指示には従う事。


勇者法度八条 魔法で治らない怪我をしたら必ず申告して休暇をとる事。


上記の勇者法度に従えない者は祖国に叩き返す。


 こうして、ユウトが中心となり、

勇者パーティは纏って行った。


☆☆☆☆



 話を聞いていた、

アイリスとユリウスはユウトの苦労を初めて知る。

いつもふざけてナンパしているシーンしか思い浮かばないダメな先輩としか認識していなかったのだ。


 実際には全てユウトが作り上げて、指揮をして、

メンバーの命もユウトが背負って来ていたのだ。


 お酒が進み、つい饒舌になってしまったユウトは仲間達を思い出して、泣き始める。


「ーービル爺なんであの場面で自爆したんだよ」


 魔王討伐時、常に仲間を想い行動しており、

更には魔王討伐が終わっても仲間を想い、

世界を旅して回ってくれる、

ユウトの優しさに胸が熱くなった。


 アイリスとユリウスは世界一優しい先輩を、

寝室まで運んであげた。

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