第13話 アイリスとユリウスに会いに行こう


「アダム! 俺にも旅の目的があるんだ。そんな縋り付かないでくれ」


 遊び人アダムは、合コンで使えるからとユウトを中々離してくれないのだ。

いやお前パーティ解散する時に、それぞれの道を進もうって言ったよな?


「ユウト俺を捨てないでくれ〜」


 変な言いがかりはやめてもらいたい。

しかも男に縋り付かれるとか意味がわからない。

俺が使い捨てしたみたいに誤解されてしまうわ! 


「アダムお前は充分一人でもやっていけるさ。

それに元勇者パーティのメンバーが俺みたいに、

もしあってるなら、すぐに助けに行ってやりたい。また必ずくるから! それと、勇者辞めてもレベルだけは上げておけよ」


「ユウト居なくなったら合コンの幹事を誰がやるんだよ! 」


「いやお前がやれよ」


 魔王討伐の旅でもそうだったが、

本当にアダムはユウト頼りである。

いい加減ひとり立ちして欲しいものである。


 ーーユウトはアダムの屋敷を離れて、

温野菜王国の王宮にやって来た。

何かあったらここの王様を頼ろう。

かなり良い人だからね。


 またもボディチェックなしで入れた。

今日は巨匠の料理対決で皆観戦に行ってるらしい。これ近衛兵いらないよね?


 王宮に入った。あれ? 今日は図書館いないぞ!

王の間かな? ユウトは王宮内をグルグル回って王様を探した。一向に見つからない。

まさか、料理対決を観戦しに行ったのか?

窓を見下ろしてたら、

王は馬小屋で馬に温野菜を食べさせていた。



「あ! ユウト君じゃん! どうしたの? また旅行?」


 ここの王って政治してるのか心配になる。


「皇帝陛下探しましたよ!

アダムに無事に会えました。

ありがとうございます。

私は元勇者パーティのメンバーに会いに行く旅を再開させます。

色々と便宜を計って頂いて有難うございました。

名残惜しいですがこれにて失礼致します」


 ユウトは頭を下げて感謝を示した。


「ユウト君ちょっと待っててね」


 王様は衛兵に指示を出すと、

ユウトの前に立派な馬車が現れた。


「ユウト君の旅に必要だと思って作っておいたよ。ユウト君は祖国を追われて大変みたいだから、もし何かあったら温野菜王国に逃げてくるんだよ」


 王の優しさが有り難かった。

王にお礼を言うと馬車を使わせて貰った。

マキちゃんにも手紙を出しておいた。


 俺の旅は血を血で洗う修羅の道。

小娘の着いていける世界ではない。

もしまた巡り会う時が来たら、

お酒でも飲みながら演奏をしてあげたいものだ。



 温野菜王国の東の境界線までたどり着いた。

すると、泣いているマキちゃんが居た。

ユウトを見つけると、

人目も気にせずユウトに抱きつく。


「行かないで」


 ユウトは優しく頭を撫でてあげる。


「ごめんよ! 俺にもやる事がまだ沢山あって、世界を旅しなければならない。

次会う時は笑顔で迎えてくれよな」


 ユウトはマキちゃんの唇にキスをした。

マキちゃんが惚けているうちに、馬車を走らせる。


「俺に惚れると火傷するぜ」


 ユウトはハープのメロディを弾きながら、

温野菜王国を後にする。

旅に出会いと別れはつきものである。

また良き出会いがありますように。





 馬車は今日も進みます。

ガタゴト!ガタゴト!

やけに聖なる光が強い国に着きました。

聖王国であります。


 聖王国ーー聖教というこの国ではメジャーな宗教が支配する国です。

ユウトは暗殺者や死奏家など闇系統の職業を好む為にこの国は実に生きづらい。


 国の至る所に教会がある。

ちょうどいいから懺悔をしなさいって?

三日くらい掛かるけどいいかね?


 聖教にも五戒がある。

①不殺生 命を奪うなという意味だ。

②不偸盗 許可なく物を盗らないという意味だ。

③不邪婬 よこしまな男女関係を持つなという意味

④ 不虚言 嘘をつくなという意味だ。

⑤不飲酒 酒を飲むなという意味だ。


「神様私は、魔王討伐の五年で数え切れない女性を口説き落として夜を楽しみ、酒を煽って来ました。

祖国から追放されて彼女達を養えず、

暗殺者が来たら、殺して身ぐるみを剥ぎました。

五戒全てに違反した我をお救いください」


 とりあえず聖教国に来たから祈っておくーー何か良い事あるかもだしね



 さてさて聖王国の首都にやってきました。

どうやら聖女様の有難い演説がはじまるようです。

ホットドックを食べながら聞いておきましょう。むしゃむしゃ


 すると聖女アイリスが壇上にたつ

ユウトはびっくりして建物の影から

こっそり覗く


 ホットドック屋の店主によれば、

アイリスは魔王討伐後、

聖王から教皇の座を頂いて、

次期聖王と婚約までしたそうだ。


 まぁ俺みたいに祖国に追い出されるよりかはマシだが、結婚相手くらい自分で決めたい物だ。まぁ王妃にいずれなるなら幸せかも。

アイリスの演説が始まる。


「皆様私の演説にお集まり頂きまして、

ありがとうございます。

さぁまずは神に今日平和がある事を祈りましょう。

平和とは当たり前のものではありません。

数ヶ月前までは魔王が居て、

人類は滅亡の危機にありました。

その為、神は我々に魔王という巨大な悪から人類をお救い下さる為に勇者を誕生させました。

そして世界の平和を願う数々の戦士と共に戦い抜き、見事魔王は滅びさったのです。

神は人類の味方です。

だから我々も神の教えに従って生きていきましょう」


 あのへなちょこアイリスが言う様になったもんだ。

昔はユウトも賢者の職業を持っていたから、

アイリスには回復役の心得を叩き込んでやったものだ。



 アイリスは演説が終わった為に、アイリスにわかる様に信号弾をあげた。

これは魔王討伐戦で何度も使った味方の救難信号である。


 アイリスはユウトを見つけると、

眉を顰めて、こちらまで来るように合図して来た。場所は教会の懺悔室である。


「私ユウトは神の使徒として立派に魔王討伐を全う致しました。

しかし祖国を追放された挙句、

祖国から暗殺依頼まで出される始末です。

そこで、元勇者パーティの皆の安全が心配になり、世界を旅しております。

アイリス様は大丈夫な様子なので、

ユリウスの居場所をお聞きしたくて参りました」


「ユウト! 汝は五戒を守らないからそういう目にあうのです。信心が足りません。

常に神は見ていると思って日々をお過ごし下さい。ユリウスならこの国の聖騎士団長になって日々聖王国を護っていますよ」


「アイリス様お言葉ですがユウトもアイリス様と旅を共にした仲です。貴方も五戒ちゃんと守ってましたか? モンスター戦ではいつも真っ先にドロップ品を盗り、酒を呑めば酔っ払って知らない男と男女の関係になり、結婚してくださいと伝えるも、妻子ある男性だったりした事もありましたよねーー敢えてもう一度お尋ねします。

五戒を守れておりましたか? 

そっくりそのままお返し致します」


 アイリスはドンと机を叩き怒っている。


「貴方の節操ない男女関係よりマシよ! ユリウスと連んで一体何人の女性を引っ掛けたのかしら」


「百から先は覚えておりません。

しかしアイリス様! 私だけ理不尽な扱いを受けてる事について、何かお聞きでしょうか?」


「拳闘国は遠いから知らないわよ! 仕方ないからユリウス連れてくるから待ってなさい」


 アイリスはユリウスを呼んできてくれるらしい。





「ユウトじゃないか! おー心の友よ! 

会いたかったぜ〜」


「ユリウス元気そうで良かったよ」


 ユウトとユリウスは抱き合って喜ぶ。

ユリウスにとって聖教国は生きづらそうだ。

アイリスとユリウスとユウトは三人で、

久しぶりに積もる話をした。


 勇者アダムが遊び人になった話をしたら、

ユリウスは笑い転げていたが、

アイリスは微妙な顔つきになった。


「ちょっとユウトあんたがアダムを変な道に誘ったんじゃないでしょうね」



「何か勇者の職業自体が消えてしまったみたいで、

遊び人になったらしいよ。

侯爵になったから金回りも良く、

女侍らせて合コン三昧だよ。

俺も何度も幹事やらされたわ」


「なんだその天国みたいな状況は! 一緒にアダムファミリーになろうぜ」


 アイリスはユリウスの耳を引っ張り、

罰として紙に聖書の清書をさせる。


「ていうか、聖教にとって神の戦士たる勇者が遊び人になるとか不味いんですけど」


 アイリスは頭を抱えている。


「でも勇者が居なくなったという事は、魔王が新たに現れてない証拠だから平和で良いじゃん」


 アイリスは馬鹿を見るような目でユウトを見る


「ユウトに質問よ! 何で世界は纏っていたのかしら? 」


「魔王が居たから」


「その通りよ! 魔王が現れる前は、戦国時代の様に各国は戦をして、群雄割拠の時代だったそうよ。

貴方の故郷の拳闘国もサマーソルト国も旧魔王の領域を侵略してゆっくり領土を広げているらしいわ。

また戦乱にならなきゃいいけどね」


 ユウトはびっくりした。平和な世の中の為に魔王を倒したのに、今後は人同士が争う事になるなんて想像もしていなかったのだ。



 ユウトは念のため、

二人と手紙のやり取りを続ける様にする。

更には戦乱の世になったらそれを鎮圧する為に、温野菜王国を頼るよう伝えた。


 例え遊び人になってもアダムは勇者パーティのリーダーであり、

温野菜王国は魔王討伐を呼びかけた大国である。

何より、世界の王の中で温野菜王は唯一信じられる王でもあった。必ず助けてくれるはずである。



「とりあえず俺はファーガソンの居る花畑王国に向かうよ。二人ともまたな」


 きな臭い情報を聞いた為、

ユウトはそれだけ言い残して聖教国を後にしたはずだった。

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