第11話 アダム合コン行きまーーす


 本日はアダムに頼まれた合コンがある。

ヒーローは遅れてやってくるみたいに、

主役は遅れてやってくるをアダムはやりたいようだ。


 これは確かに効果がある。

待ち合わせ段階からいると、

合コンの本会場では、新鮮味が失われてくる。


 合コンでは小さなグループが幾つか出来たりするが、それは合コンの過程で生まれた、

一種の流れの様なものだ。


 最初からいると空気を読んで、 

別のグループに入り辛かったりする。

しかし遅れてやってくると、

空気を読まなくて良い。

さらに一気に女子全員に注目される。


 全てのグループに垣根なく入り込めるから

モテる奴が使うセオリーである。


 しかし、これをやるには、

幹事なり元からいるメンバーが、

ちゃんと合コンの場を、

盛り上げている必要がある。


 一番最悪なのが、女子同士と男子同士で、

違う話で盛り上がり、

壁ができてしまう事である。


 男女は四対四! 味方の男子の実力を探る。

緊張してなかなか、女子に話しかけられない。おいおい勘弁しろよ。


 下手したら女子全員の盛り上げを、

俺一人がやるハメになるじゃん。

合コンはチーム戦だーー戦場で鍛えるしかない。まずは情報収集からだ


「こんにちは! 俺は吟遊詩人のユウトだけど、みんなどんな集まりなの?」


「私達はアダムシティの学校の生徒なんです。

私はハルで右からナツ、アキ、マキです」


(あ! 白馬の王子様・・・・・・


 女性陣はお辞儀をする。


「でも合コンに元勇者パーティの人がくるなんてびっくりです。私達歴史の授業で習った人がこんな若いなんて」


 ユウトは童顔であるーー実年齢より若く見える。


「魔王が倒されてまだ一年経ってないじゃん! だから勇者パーティと言ってもみんな普通の人間だよ。

俺なんて戦闘中ハーブ弾いてるんだぜ! 

場違い感たっぷりさ」


 場に笑いが生まれる。

女子達の食いつきと自身の名声で、

何とか女子の輪にユウトは入れた。

ちょっと他の男子達仕事しろ!


「僕達もアダムシティの学校に通ってます!

私はフィンと言います。こちらはネルで友達です。」


 男子二人も挨拶はできるようだ。安心した。


「じゃあ予約してる店に案内するよ!

みんな着いてきて」


 ユウトはフィンとネルに指サインで指示書を渡す。

一つ目、合コンはチーム戦ーーちゃんと女子とも会話をしろ

二つ目ーー誰を狙う狙わないは好きにすれば良いが、場を盛り上げろ。

三つ目ーー遅れてくる奴がいるがフレンドリーに頼む


 ネルとフィンも今日呼ばれた事情を話し出す。

なんでも昔アダムの通っていた剣術道場の仲間で、

パーティあるから来て欲しいとは言われたらしい。

まさか合コンだとは知らなかったらしい。 


 アダムあいつ何考えてんだ。

合コンは戦いなんだよ! 戦力を寄越せよ。


合コンの後、今日の合コンはハズレだったね!

これを女子達に思われたら負けである。

アダムあいつも戦力として大丈夫なんだろな?



 お店が見えて来た。かなりオシャレな店の様だ。

学生がワイワイ出来るのか?

ご飯は立食形式で食べ放題なようだ。


 おいおい! フィンとネルよ

君達は三日何も食べてない少年の様に、

乾杯前に食べまくるでない。


 ユウトは自前のシェイカーを手に、

ノンアルコールカクテルを作っていく。

もちろん女子が可愛いと食いつく様な見た目に仕上げる。


「さぁみんな好きなのとってね」


『可愛い』


 女子達の反応は悪くない。

男子にも炭酸ベースの飲みやすいドリンクを作る。


 更に高そうな店に緊張してる女子達の為に

前菜、麺料理、スープ、メイン料理、デザートとそれらを種類毎にそれぞれ分けながら、

テーブルに置いていく。


 彩りも重視している為に、

皿ごとに一つの料理みたいだ。


『乾杯』


 これで皆は食べ放題なのに取りに行かずして、小皿に取り分けて食べれるーー合コンは会話が大事だからな


「ユウトさんはパーティでは料理当番とかもこなしてたんですか?」


「料理当番なんかは持ち回りさ! パーティなんかよく出席する機会が多いから自然と取り分けたりするのが上手くなっただけだよ」


 違う! 男子が戦力にならないからユウトが頑張ってるだけである。

今時気配りが出来なくては、

チャラ男はやっていけない。


 女子達と色々話して、男子も混ぜていく。

何とか場を和ませていたら、

とうとうアダムがやってきた。


「ごめんよ! ちょっと世界を救ってたら遅れたよ」


 いや世界救って結構経つけどね!


 アダムは笑顔を振りまきながら合コンに登場した。

まさかの勇者の登場に女子達は握手とサインを求め出す。


 そらそうなるわ! この地はアダムシティでアダムはここの領主だし、英雄である。

アダムは気を良くして握手もサインもして、

英雄譚まで語り出す。


「凶悪な魔物を前にしても一歩も引かずに剣を振り続ける。それは勇者の宿命なんだ! 何故かというと、魔法なら魔術士が上、攻撃なら聖騎士や格闘家もいるし、回復なら聖女が上だけど、

一つだけ勇者が誰よりも勝てるものがある。

それは勇気なんだ。勇者が率先して斬り込まなければ皆が不安になるからね」


 いやそれただの猪武者だろ! 俺が何度止めた事か!

アダムは真面目でまっすぐだが、

指揮官としての能力は無かった。

だからユウトが参謀みたいな立ち位置で指示をしていたのだ。


『かっこいい』


 女子達はアダムの英雄譚に酔いしれてる。

何が勇気だよ! お前最初のボス戦涙目だっただろが!

ユウトはため息混じりにカクテルを飲んだ。

こんなにお膳立てしてやったんだから感謝しろよ!


「勇者パーティは総勢百名以上居たらしいですが、アダムさんが皆様をスカウトしたんですか?」


「各国の王達が優秀な人材を送ってくれるから、

みんなをうまく使い、魔王討伐の冒険をしたのさ!

まぁ作戦なんかはユウトがいるからーーユウトに任せっきりだったけどね。

ユウトが居なかったら魔王討伐は無理だったと思うよ。

流石に吟遊詩人になった時はびっくりしたけどね」


 でも拳闘士の髪型よりマシだろが! 坊主だぞ!


「吟遊詩人は俺の天職なんだよ! 歌は世界を救うのさ」


「な! 頭おかしいだろ? まぁそれでも、

ユウトはかなり器用だから前衛、中衛、後衛全部こなすし、面倒見が良いから助かったよ」



 自分の名前を街の名前にして、

勇者から遊び人に転職した奴に、

頭おかしい呼ばわりは心外だよ!


 でもまぁ真面目で堅物アダムと合コンが出来るとは思わなかった。平和は良いもんだ。

アダムが女子達を釘付けにしてる間にフィンとネルとトイレに向かう。




「合コンって君達初めて? 」


「はい! 実はそうなんです。あまりお役に立てなくてすみません」


 フィンとネルは申し訳なさそうだ。


「あの遊び人アダムの事だから、

どうせまた合コン開くとか言い出す。

俺の今日みたいなエスコートの精神を真似して頑張りなよ」


 ユウトとフィンとネルは

オシャレな一口ケーキと紅茶を人数分持って席に戻る。


 アダムは楽しい合コンにご満悦らしい。

いやアダムよ! 合コンとは相手を満足させなければならないのだよ!


 そんな中、マキがユウトの側によってきて、

取り分けなんかを手伝ってくれる。

そして、ユウトの今日のエスコートはとても良かったと言ってくれた。


 マキちゃんか! 今までユウトが付き合った女性は美人だが気が強そうで派手なのばかりだった。

今までの自分なら選ばない、

地味だがエキゾチックなタイプの女性の接近にびっくりして、積極的に出られない。


 とりあえず連絡先は交換した。

文通するとか思春期の少年じゃあるまいし...

なんか自分でも照れる。



 合コンは何とか盛り上がって終わった。

アダムは三人の女性から言い寄られて、

アダムの自宅に連れて帰るらしい。


 ユウトはマキちゃんを自宅まで送ってあげる。

何か緊張するなーーうまく言葉が出てこない。

リラックスする曲を弾く事にした。


「良い音色ですね!何て曲ですか?」


「冬のワルツ」


「静かな曲調の中に寂しさと力強さが入り混じってる気がします」


「俺のオリジナル曲で気に入っているんだ」


「ユウトさん貴方を見た時から何故か、寂しそうでした。きっと沢山の出会いと別れを繰り返してきたんですね!だからこんなに奥深い曲が作れるんですね」


 年端も行かない学生に色々見透かされ、

心配されていたようだーー俺もまだまだだな。


「そうだね! 俺達は魔王軍と戦争して来たからね!

死んだ戦友なら数え切れない。だから寂しいけど、

死んだ彼らの分も生きると決めたからには彼らに恥じない生き方をしようと思うんだ。そう思うから力強さが出てるのかもね」


「でも勇者パーティに入ったのは後悔してないのでしょ」


「ああ後悔はしてない。多大な犠牲は出したが魔王を倒して平和を成し遂げたからね。それこそ死んでいった皆の想いでもあるんだ」



 マキはユウトに一目惚れした・・・・ようだ。

顔が赤くなって黙って曲を聴き続ける。

曲だけが流れる静かな時間が二人を包み込んだ。



 こうしてアダム主催の合コンは成功に終わったのである。

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