第10話 勇者アダムに会いに行こう
馬車はゴトゴト揺れながら今日も進む。
そろそろ温野菜王国の筈である。
何故わかるかと言うと湯気がすごいからだ。
温野菜王国は肥沃な大地に野菜を沢山植えて栽培している農業王国なのであるが、少し変わっている。
まず一つ目にベジタリアンが多い。
まぁ野菜王国なのだから野菜ばかり食べていたらそうなるよ。金銭取引が発達した世の中で物々交換が未だに存在する点が凄い。
そして二つ目は野菜の食べ方が何故か温野菜一択なのだ。
いやいや生の新鮮な野菜にドレッシングも美味しいよーーしかし生野菜などこの国では許されない。
何でも蒸したがるから、湯気がもくもく立ち上がり、温野菜王国の位置はすぐわかる。
敵国に戦をしに行く前の拠点でも、そんなに湯気はあがらない。
温野菜王国ーー実に研究熱心な国である。
温野菜を如何に美味しく食べられるか、
その為にはタレが命であった。
国家をあげての数々のタレレシピがあるが、
その中にはもちろんタラコソースも存在する。
しかし、ベジタリアンを自称する人々はタレに肉や魚が入っていても、
肉を食べたなどとカウントしないのだ。
肉や魚はあくまでタレとしてでしか扱わないらしいが、以前出された料理に困惑した。
〜季節の温野菜のブラウンソースかけフランソワーズを添えて〜
「いやどう見てもビーフシチューだろ!」
そう料理人に突っ込んだら、料理人も勇者アダムもやれやれみたいな顔付きになった。
温野菜王国ーーそれは、温野菜しか食べないただの田舎国家ではなく、美食国家である。料理の飾り付けもオシャレで、美容に良いと評判が高い。
ユウトはまっすぐ王宮のある首都を目指した。
基本的に王国とは封建制度が主流であるが、
温野菜王国では働けない人の為に生活保護制度も存在する。
だから温野菜王国の住民は実に穏やかな人が多い。
何故野菜しか作ってないのに、そんなお金が国家にあるかというと、貿易でタレと鉱山から取れる金を輸出しているからだ。
ユウトは温野菜王国の王宮に辿り着く。
近衛兵達も、「あーユウトさんですか」と身体検査無しに入れてくれる。
セキュリティ緩!
王様も普通に王宮図書館に居た。
「あーユウト君久しぶりだね。どうしたの?旅行?」
友達かお前は! 全く王の威厳を感じない。
一様膝を折りご挨拶する。
「皇帝陛下におかれましてはご機嫌麗しうございます。魔王討伐の折は数多くの支援誠にありがとうございました。私は帰郷したのですが、何故か追放されてしまい、命をも狙われております。そこで勇者パーティを訪ねて回り、同じ境遇になっていないか心配をしてお伺いをさせて頂いた次第です」
「あーアダムちゃんね! アダムちゃんなら侯爵にしてあげて、
北の領地をあげたから今は貴族だよ。
でもユウト君は災難だね!
あんなに頑張ったのに酷いよね!
抗議の手紙書いておくよ。まぁ心ゆくまで滞在しちゃいなよ!
生活費なら出したげるから」
「ありがとうございます。では勇者アダムの領地でゆっくりさせて頂きます。積もる話や相談もありますから」
「そっか! またね」
温野菜王国の王は実にフランクでとても良い人である。ちなみに読んでた本はラブストーリーであった。
経営学や帝王学読めよ!って言いたいが、それもまたこの国の王の良さだ。
ぶっちゃけうちの祖国の王と交換したい。
ユウトは勇者アダムのいる都市のアダムシティにやって来た。
自分の名前を街名にするとかどんだけ自意識過剰なんだあいつは!
しかも宣伝ポスターの八割は勇者アダムである。
この境遇差に怒りが湧いてくるーー決して勇者アダムが悪い訳ではないのだがね
勇者アダムは五階建てのプール付きの屋敷で優雅にドリンクを飲みながら小説を読んでいた。
おいおいおい! アレ勇者アダムだよな? あの生真面目な勇者アダムだよな?
嘘だろ! 嘘だって言ってくれ〜
何と勇者アダムは昔の面影が全くなく、吟遊詩人並みのチャラチャラした装いになり、髪も金髪に染めていた。
「お! 久しぶり! ユウトじゃん!
どうしたの? 観光かい?」
いや俺はまず勇者アダムのビフォーアフターの理由を知りたい。
「久しぶりだな! 元気だったか? 変なもん食べておかしくなったりしたんじゃないか?」
ユウトは勇者アダムがいろんな意味で心配になった
「ユウトはジョークが上手いね! ハニー達ユウトにドリンク追加で」
そう言うと投げキッスをする。
おいおいおい! あれじゃあまるで普段の俺そのものじゃないか! 何だ? 俺になりたかったのか?
まぁ待て落ち着け俺ーーとりあえず訪問理由を告げて元勇者パーティの安全確認が先だ。
ユウトはチャラ勇者アダムに帰郷してからの辛い身の上を赤裸々に語る。
それを聞き何故か爆笑するチャラ勇者アダム
「ユウト! 祖国に関しては祖国が酷いとは思うけど、女性関係は魔王討伐の旅の時から何度も注意したじゃん! 自業自得とはまさにこの事だよ」
「確かに口酸っぱく注意されたよ!
だが俺のパトスが止まらなかったんだよ!
今のお前ならわかる筈だ」
「ユウトも俺の変貌ぶりに困惑してるだろうけど、俺も大変だったんだぜ!魔王倒して、転職おばば様のとこ行ったら職業欄に勇者が無くなってた。
仕方なく新たな職業についたはいいが、つける職業が遊び人しか無かったのさ。遊び人になって初めて気づいたよ! 如何に自分が人生損していたかを」
アダムは笑い出すが、ユウトは複雑な気分になった
勇者アダムはもう勇者ですらなく、ただの遊び人になってしまった。
もうこいつ何のアテにもならないーーダメ人間である。
「俺さぁ元勇者パーティに会いに行く旅してるんだけど、アダムなんか手紙書く?」
「んーん興味ないかな」
「お前元パーティリーダーだろ! 少しは心配しろ」
「ユウト! 俺達はもうあの日に解散して新たな人生を歩むって決めただろ?
過去ばかり拘るな!
今の俺の楽しみは酒とタバコと女なのだよ」
バクチ入ったらダメ人間四拍子揃い踏みだな!
「いや元仲間の安否は気になるだろ! 俺がこんな目にあってるんだぜ」
「ふっ! 安心しろ! たとえ全員がユウトみたいな境遇になっていても俺はもう貴族だぜ! 纏めて面倒見てやるよ」
それを聞いて安心したーー最悪遊び人アダムに世話になろう。
「じゃあ二、三日世話になるわ!
それから元仲間に会いにいくわ!
てか聞きたいんだけど、魔法士ファーガソンって魔法王国に居なかったんだけど、
どこいるの?」
「ファーガソンなら祖国花畑王国じゃないか?」
「魔法士なのに花畑王国が実家なんだ!
ありがとう行ってみるよ」
「なぁユウト! 頼みあるんだけどさ!
合コンの幹事やってくんない?」
「それくらい楽勝だよ!
綺麗な子くるんだろな?」
結局ユウトは遊び人アダムの屋敷に一か月以上滞在した。
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