第8話 世界の馬車から


 え〜今回世界の馬車からお送りするのは、

サマーソルト国から北東へ向かった遊牧王国の風景です。ガタゴトガタゴト!

切り立った崖が多い山脈の間を抜けると、

のどかな牧草地帯になって行きます。

牛に山羊に羊が鳴きながら歓迎してくれてます。


 実に動物達が生き生きしてますね。

見てください! 牧羊犬を操り見事に家畜達を誘導してるのは少年ですね! 手を振ってくれております。


 私も手を振り返しましょう。

どうやら私の親指腕立て伏せにびっくりしているようですよ。

じゃあ特別に片手懸垂も披露しちゃいましょう。


「お客さん! 馬車でそんなはしゃがないでくださいよ」


 おっと怒られてしまいました。

何をやってるかって?

そりゃ一ヵ月もの間療養していたから身体が鈍ってしまいまして、その為馬車で筋トレしているのであります。


 暗殺者達との死闘で痛感致しました。

平和ボケをしてたら殺されるぞと


 世の中弱肉強食です。強くなければ生き延びられません。名もなき暗殺者の死体の様にはなりたくないそう思った二十代後半の夜であります。

※盗んだ馬車で走り出した訳ではないので大丈夫ですよ。


 おっと! 筋トレをしていたらいつの間にか城下町に近づいておりました。

城壁はボロボロの煉瓦で出来てますね。

あんなので敵から攻められたらもつのでしょうか?


 ここは遊牧王国の首都であります。

テントが立ち並び動物達も普通に行進しております。

牛が平然と城壁を崩して草原に帰って行きました。

城門兵さんはなぜ咎めないんでしょうかね?


 おっと! なんでしょうあれは?

白い液体が伸びており皆さん美味しそうに食べてますね。


 私も後でグルメ巡りをしたいですぞ!

さてさてこの世界では三大のどか王国と言われている国があります。一つはここ遊牧王国、二つ目は花畑王国、三つ目が温野菜王国です。


 ーー勇者の頭が平和ボケしてないと良いのですが...

そうこうしている内に馬車の停留所まで着きました。ユウトは馬車の主と握手を交わしてわかれていきます。


「えーと温野菜王国行きの馬車はないかなぁ〜」


 また貸切にしないといけません。

なぜなら、またどうせ暗殺者達が押し寄せてくるだろうからです。迷惑かけるといけないからね


 暇そうな馬車の主を一人一人あたります。

しかし少し遠いから無理だと断られました。


「仕方ないから中継地点の魔法王国を経由しますか」


 魔法王国行きは夕方である。

昼飯がてら露店を回る事に致しましょう。

例の白い液体はヨーグルトというらしいですよ。実に濃厚で美味しかった。


 あちらには伸びるアイスまであります。

何とも滑らかだがコクがあり冷たくて美味しい。

主食から食べたいのだが、甘いものから食べてしまう。悪い癖だ。


 足湯を堪能しながらモチモチしたパンに肉や野菜が挟まれたサンドを食べる。

食事はバランスが命ですから。


 先程からテンションがおかしいですって!? ナレーションに挑戦しております。

この風景がいけないのだよ!


 羊と戯れる少女に、腹を出して草むらで寝ている老人、犬の可愛いレースを楽しそうに見ている群衆ーー危機感を削がれまくるわ!


 私もね、折角立ち寄った国ですから馴染んでほんわかしてお送りしておりました。

さて早く魔法王国に行きますか





 また馬車は揺れる。

ガタゴトガタゴト。

のどかな草原地帯を抜けると、

近代的な雰囲気の都市が見えて来た。


 先程とは打って変わって都会な雰囲気です。

次はダンディにお送りしてみましょう。


 お〜何てファンタスティックなんでしょう!

馬車が空を浮いているぞ!流石は魔法王国

世界から魔法使いになりたいと毎年数多く訪れる大都会である。


 ネオンの照明があたりを照らしている。

ダンディな私ユウトは是非ともバーでお酒を片手に美人な人と目眩く夜を過ごしたいものだ。


 懲りてないって? ふ! 人生とは失敗の先に成功があるように恋愛も失敗し続ける先に光が必ずあるものなのだよ! サマーソルトがなんぼのもんじゃい!


 おっと失礼! 過去のトラウマがいきなりふつふつと蘇ってきて、つい熱くなりました。悪い癖だ


 馬車を降りたユウトはスーツに身を包むと、魔法王国の街並みを抜けて一軒の小洒落たバーに入る。

これからは大人の時間だ。


「ウィスキーをロックで」


 マスターはグラスを滑らせる。

すると見事に自分の前にグラスがつく。

ユウトはグラスを片手に店内を見回す。


 あー何て美しい女性だろうか! 

憂いを秘めたその瞳を蕩けさせてあげたい。


「彼女にピニャコラーダを」


 ユウトはマスターにそう言うと彼女の隣に行く。


「良ければご一緒願いますか? 麗しの天使様」


 彼女も笑顔で答えてくれる。


「何か悲しい事でもありました? 先程から表情が優れないみたいですが! 私で良ければ悩みをお聞きしますよ」


「実は私には悲しい宿命があるのです」


「悲しい宿命? 」


「はい! 昔付き合っていた彼に騙されたから、この手で殺さなければなりませんの」


「僕なら一生貴方を離さないのに、

変な男に引っかかって可愛いそうに。

でも殺しだなんて、

貴方の様な綺麗な方にそんなの似合いませんよ

私で良ければ代わりにお手伝いさせて頂きます」


 すると彼女は変装を脱ぎ出して、こう告げる。


「標的はお前だ!」


「くっ! パメラか」


 ユウトはパメラのクナイを交わしながら何とか店を出る。

パメラも跳びながら追いかけてきた。


 パメラーー昔魔法王国でユウトがナンパした暗殺者だった。そう言えば、魔王倒したら褒美を貰って迎えにいくと言っていたっけ?


「パメラごめんよ! 怒らないで聞いて欲しいんだ! 祖国から何故か追放されて褒美を貰えなくて、それで迎えに行けなかったんだよ」


「沢山の女性に言い寄ってたって噂で聞いたわ。

どうやら本当だったみたいね!女の敵は成敗するわ」


 ユウトは必死にパメラのクナイをハープの仕込み刀で弾き続ける。


「ユウト貴方の首には賞金がかかってるのよ。私達愛し合った仲でしょ? 私の手で昇天させてあげるわ」


「ひぇ〜お許しを〜」



 煙玉や糸やら全てを使い三次元的に逃げ延びて

何とか数十分後パメラを撒いた。


「綺麗な花には棘があると言うが俺の口説いた女は棘ばかりだな」


 次口説くならおとなしめな女の子にしようと心に誓うユウトであった。

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