第7話 義勇会との死闘


 ユウトの戦いを見ていた一人は義勇会という、暗殺稼業の情報担当の女だった。


 義勇会ーー封建制度の中で法で裁けぬ悪を退治する者達であり、泣き寝入りする弱者から依頼を受けて暗殺をする。


 しかし義勇会は困っていた。

依頼主が拳闘国の王からであったのだ。


 義勇会とは依頼主が弱者専門の殺し屋なのに王からなどこんな事は初めてである。どうやら義勇会以外の暗殺組織にも依頼しているようだ。


 もしもユウトが悪でないのなら依頼をキャンセルする必要がある。

そこでユウトが本当に悪であるのか、過去の逸話や普段の行いなどを探り計っていたのだ。





 ユウトは暗殺者を撃退すると荷物を持ってこっそり宿屋から逃げ出した。


「痛いよ〜こんな傷だらけの時に来るなんて...」


 ユウトはとりあえず身体を治す事に専念する。

ユウトは痛がり、足を引きづりながらも病院を目指した。





「すみません。治療を受けに来ました。

旅の者ですから入院希望です」


 医者はユウトを見るとまたお前かという目で見てきた。


「こんな打身なんかね、休んでたらすぐに良くなるんだよ! 一々こんな打身でうちに来ないでくれるかね!宿で寝てな」


 またこのヤブ医者同じ事言いやがったよ!

今度は情に訴えかけるか。


「実は宿屋で寝てたら暗殺者に殺されかけました。

私は一刻も早く身体を治さないといけないのです。金ならありますから」


 ユウトは真剣な表情で今の辛い身の上を明かした。


「余計にダメだわ! うちの病院で厄介事を持ち込まんでくれたまえ」


 効果は最悪で、

医者は問答無用でユウトを追い返す。


 くっ! どうすればいいのだろうかーーユウトは途方にくれた。

とりあえず高い宿屋なら買収されないだろうと踏んで高い宿屋に向かう。





「いらっしゃいませ。お食事付きで一泊銀貨五枚からになります」


 結構高いな! 日雇い労働者の収入が一日一銀貨の街で、五銀貨とかまさにセレブ向けの宿屋だった。


「じゃあとりあえず階層の低い部屋で十四泊お願いします」


そう言って一金貨を渡す。


 宿屋の受付は急いで荷物を持ちながら、

部屋まで案内してくれた。

ウェルカムフルーツとウェルカムドリンクが付いてるらしい。

ウェルカムな食べ物に舌鼓だ。


 あまりの綺麗な部屋にユウトはビックリである。


「おいおいおい! こっちは暗殺者に狙われてるんだぞ! 壊したらどうすんだよ」


 ユウトは修理費に戦々恐々となる。

でも男は度胸って言うもんね!

壊れたら弁償させられる前にとっとと逃げ出そ! ユウトは覚悟を決めて療養に励む。


「はぁ〜お湯も綺麗で気持ちいいね」


 ユウトは大満足で宿を満喫した。

なぜなら客は一人なのに部屋は三つあり、

お風呂も共用でなく備え付けで、

鈴を鳴らせばウェイターが用事をこなしてくれる。


 まるで貴族である。

この宿は本来貴族御用達の宿であったのだ。

店前には用心棒もいる。

何の不自由もなく十四日を過ごし身体は回復した。


 ユウトは受付にお礼を言い、

気持ちよく出て行く。

チップもはずんだ。

初めてサマーソルト国に来て良かったと思えた。


 身体のすっかり癒えたユウトは勇者の住む温野菜王国へと向かう。

まずは馬車の切符売り場へと




 義勇会の情報担当の女は焦った様子だ。

見張ってる最中も過去の逸話もユウトに悪と言える証拠が無かったのだ。

しかもユウトはサマーソルト国を出るようだ。


 仕方ないから依頼をキャンセルするしかないかと思い、

サマーソルト国のとある廃寺に戻る。

すると依頼の紙と金が枝にぶら下がっていた。


「私の優しかったお父さんが殺されました。父の経営する宿屋で串刺しになりました。

犯人を目撃したと役所に掛け合いましたが、暗殺者の仕業で相打ちにあったのだろうと捜査を進めてくれません。

晴らせない父さんの仇をとってください」


 ユウトの暗殺者殺害を見ていたもう一人は、宿屋の主人の娘であったのだ。

いや濡れ衣だが内容は間違ってはない。


「ーー頭どうすんだい? 」


 情報担当の女は義勇会の頭に聞く。


「宿屋の主人を殺したのはユウトで間違いないんだな?」


「あぁそうだね!私は見ていたよ。

ただ、宿屋の主人が暗殺者に買収されてた可能性はあるよ。

暗殺者と並んで串刺しにあってたからね」


「真実は闇の中か...」


 義勇会頭は悩みながら義勇会メンバーに聞く。


「ユウトが悪人かどうかはさておき、

宿屋の主人はユウトに殺されたが、

ユウトはお咎めなしで、

宿屋の娘から殺しの依頼が来ている。

つまりこの暗殺は受けなきゃならねぇ。

しかし躊躇うものもいるだろう。

情報不足だからな!

やりたい奴だけで構わない。

みんなどうする?」


「最近はめっきり依頼が少ない。

しかも弱者からのちゃんとした依頼人が依頼してきたんだ。断る理由はない」


 全員やる気の様だ。

メンバーは四人の為に、

頭は依頼料の四分の一を取り廃寺を出る。

残りのメンバーも依頼料をとっていき、

最後は蝋燭が消された。



 闇夜の暗殺の時間である。

とうとう義勇会の三人の暗殺者が動き出す。



 ユウトは馬車に乗り込んでいた。

うつらうつら眠りながら夜行馬車は進む。


 義勇会のメンバーの一人が馬に乗り馬車に近づき、

馬車の手綱を握る人と馬に眠り薬を嗅がせる。

すると馬車は目的地でもないのに止まった。


 ユウトは目を覚まして何事かと外に出る。

運悪くハープは荷物置き場に置いていたーー丸腰である。


 義勇会の別のメンバーはユウトに魔法を唱えて縄で拘束する。

夜で視界も悪くユウトは縄に絡まる。

腕が使えない上に縄を引かれて足も満足に動かせない。


 ユウトは義勇会メンバーに縄で引き摺り回される。すると義勇会の頭が現れ、

刀を抜刀させてユウトを真っ二つに切り裂く。


「宿屋の主人の恨み晴らしたぜ」


 そう言って死体を見る。

しかし斬ったのは丸太であった。



「なるほど!

今回の殺しの依頼は宿屋の親族という訳か!

宿屋の主人なら暗殺者と繋がってたぜ」


 ユウトはそう言って木の上から飛び降りた。

ユウトは勇者パーティメンバーではバフとデバフの担当で中衛であったのに、

いきなり全て自分一人でチームを相手にしなければならない。

俺には荷が重すぎると頭を抱えたかった。


 義勇会のメンバーは暗殺者である。

人相がバレるのもまずいが依頼を受けた以上は、

命ある限り完遂しなければならないのだ。

戦いは避けられない。


 魔法使いと拳法家と剣士の暗殺者はまずはユウトに視認させないように散る。

ユウトは死奏家の技を使う事にした。


「闇のワルツ」


 懐から特殊な数十本の糸を取り出して、

四方の木に括り付けて演奏をする。

これは暗闇の中、

敵を音で探し出す技である。


 魔法使いの暗殺者が木の上からはユウトに先程の縄魔法の演唱を始める。

しかし闇のワルツでユウトは感じ取り、逆に糸で魔法使いを捕まえられる。


 堪らず魔法使いの暗殺者は木から落ちてしまう。

ユウトは糸を操作して特殊な糸で魔法使いの暗殺者を絡めとる事に成功した。


 まずは一人確保である。

魔法使いの暗殺者は糸から逃れようとするがなかなか解けない。

そりゃそうだ! 鋼鉄の糸だからな!


 次は拳法家の暗殺者が地下から現れてユウトの足を掴もうとする。

しかし地面の揺れを感じてその位置は読めていた。


 ユウトは右手の糸を操作して首を絡めて木に吊るす。

暴れる拳法家の暗殺者は次第に力が弱まり最期は事切れた。

これで自由に動けるのは剣士の暗殺者ただ一人である。



 剣士の暗殺者は拳法家の暗殺者の死体に一瞥すると、

糸に絡まる魔法使いの暗殺者の元まで行き、特殊な糸を斬る。


「動けるか? 」


「ーーああ問題ない」


 魔法使いの暗殺者は開放された。


 きたねーと思うと同時に、

ユウトは剣士の暗殺者の剣術をヤバいと感じた。

特殊糸を一撃で外す技量ーーまずい! こちらも何か得物が必要である。


 ユウトは馬車に戻り自分の荷物を探す。

あった! ハープだ!

ハープを片手に曲を奏でる。

もちろんステータスupの曲である。

今は負傷してないから回復の曲はいらない。


 ハープで闇のワルツを再度弾きながら

ユウトは敵位置を探す。

頼むから一対一で向かって来て欲しいものだ。


 魔法使いの暗殺者が今度は背後の木陰から土槍の魔法を唱えて放ってきた。


 ユウトは紙一重で避けながら、

魔法使いの暗殺者の元まで一瞬で移動してハープの仕込み刀で一閃する。


 何が起こったかすら分からず、

魔法使いの暗殺者は首を胴体から離されて死んでいった。




 これを狙ってたのか、

ユウトが魔法使いの暗殺者を一閃したタイミングで剣士の暗殺者が斬り込んでくる。


 ユウトは堪らず魔法使いの暗殺者の死体を剣士の暗殺者に向けて蹴り飛ばす。


 剣士の暗殺者は魔法使いの暗殺者を掴んでしまった。

まぁ仲間だからな! 無下には出来なかったのだろう。

しかしこれで剣士の暗殺者は隙を突く攻撃はできなくなった。


 剣士の暗殺者は魔法使いの暗殺者に手を合わせると抜刀の構えを見せる。

ユウトは抜き身で仕込み刀を構える。



 数分後、ヒューという風の音が鳴った。

それを合図に剣士の暗殺者は抜刀術を披露する。

普通の抜刀に更に飛剣の剣撃付きである。

ユウトは回転しながら必死に避ける。


 剣士の暗殺者は腕が良いのかユウトの姿勢を崩しながら、剣をうまく斬りつけてくる。

ユウトは少し腕を斬られて血が滲み出てきーーこいつの剣舞鋭すぎる。


 剣と剣のぶつかる音が数十合鳴り響いた。

どうやら剣の腕は暗殺者の方が上らしい。

ユウトは作戦を変えて、

剣士の暗殺者と距離を取ると、

木の上まで駆け抜ける。


 距離を離されるのを嫌がったのか、

剣士の暗殺者は素早く抜刀すると木を真っ二つに切り裂く。


 木は音を立てて倒れていく中でユウトは痺れ針を吹き矢で吹きまくる。


 剣士の暗殺者も剣で全て対処するが、

その隙にユウトを見失ってしまった。

更に不運は続き木が倒れたせいで砂や木片が舞うーー剣士の暗殺者の五感がこれで完全に効かなくなる。


 すると剣士の暗殺者の左から石が飛んできた。剣士の暗殺者がそれをユウトと勘違いして剣を向けたが、本命は右だった。


 ユウトは木の倒れる音に紛れ、

剣士の暗殺者の右側から斬り込むと同時に、糸で左から石をぶつけたのだ。

ユウトの仕込み刀は剣士の暗殺者の心臓を貫いた。


「理不尽な暗殺を返り討ちにしてやったぜ、

暗殺者ならまずは、

敵の実力から調べるもんだ」


「無念」


 剣士の暗殺者もとい義勇会の頭は息を引き取る。

これで義勇会のメンバーは情報担当の女以外全て始末されたーー戦いは終わりである。


 勝負はどちらに転ぶかわからない綱渡りの戦いだった為、ユウトは倒し終えた後も緊張が中々解けなかった。


「サマーソルト国なんだから足技で来いよな全く」


 一呼吸をしたユウトは寝ている馬車の主を起こして、馬車は再び発進されたのである。



 残った道には義勇会メンバーの死体が残る。

それを見た義勇会の最後のメンバーである情報担当の女は涙を流した後、

その場を去っていったーー暗殺者に墓標などないからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る