また修羅場?
一人で派手に転んだ後、護衛のお兄様に拘束されたマエル公爵は観念したのか全てを告白した。
自分の愛人と産ませた子供(男子)を公爵家に招き入れて、更に息子を次期皇帝にしたい。(←ハイここツッコミどころ!)
その為には継承権を持つ娘のレグリアーナ殿下が邪魔だ。だがビエラレット様を排除すれば、単純なレグリアーナ殿下を懐柔するのは容易い。(←本当にこう言っていた)
レグリアーナ殿下の継承権を息子に移して、継承権を持つ辺境伯に住む他の殿下方も始末すれば息子に皇位が行く。(←ハイここもツッコミどころ!)
そんな時にビエラレット様が出所の不確かな秘薬を躊躇なく、がぶ飲みしている現場を夜会で目撃。これは、ビエラレット様は秘薬の中に毒を入れておけば躊躇わずに飲んでしまうのでは?
よーし!早速、秘薬を作った術師とコンタクトを取っちゃお☆彡
要約するとこんな感じの事を自白していた。
こんな馬鹿丸出しの思考回路で動き出したマエル公爵だったのだけど、これが変な具合に周りの状況と上手く噛み合ってしまって、最悪な結果を導き出してしまったのだ。
マエル公爵は闇ギルドから、魔女の弟子まですんなりと取り次ぎされてから、その弟子に秘薬を売ってくれないかと注文を入れた。
そして秘薬を受け取った後、マエル公爵は自身で毒を入れてその秘薬をビエラレット様に渡す時期を窺ったそうだ。
しかしその毒入り秘薬を飲ませるタイミングが中々得られないまま、ビエラレット様はエリンプシャーのリメル商会に秘薬を買いに出かけてしまった。
慌てたマエル公爵は閃いた。
自分の毒入り秘薬を術師からビエラレット様に渡してもらっちゃおう☆彡(←再びツッコミどころですよ!)
「ビエラレットに秘密で秘薬を渡してあげたい」
こんなバレバレの言い訳をして、魔女の弟子に秘薬を渡したらしい。ここで普通の術師なら、これ毒が入ってんじゃん!と気が付く所だろうけど、さすがは自称弟子で魔石ドロボー野郎は肝が座っていて、厚かましく口止め料を要求しただけで、その毒入り秘薬をビエラレット様用としてリメル商会に卸したそうだ。
恐ろしいことにこれが上手くいってしまったのだが、マエル公爵はビエラレット様の皇族の特殊能力を侮っていた。
そう、ビエラレット様は毒を無効化出来る特殊能力を持っていたからだ。
ビエラレットが毒を飲んだと聞き、もう毒殺は成功したものだと早合点して呑気に愛人に会いに行っていた、マエル公爵。
ところが毒を飲んだはずのビエラレット様が元気に帰国したと聞いて、慌てて帰って来たと言うことだった。
しかしだね?
マエル公爵は心底馬鹿なのか?何がどうなってこうなって、皇族の血が流れていないムシュコタンが皇帝陛下になれると思うんだ?
そもそも息子は愛人の子供で、おまけにマエル公爵は皇族の血筋ではなく、元は侯爵家の四男なんだぞ?自身が皇族でも無いのに息子に継承権がある訳ないだろう?
周りに聞いた所によると、ビエラレット殿下と侯爵家の四男、ミスラー子息の婚姻は周りから大反対をされていたらしい。それを運命のアテクシ達は結ばれるはず!という夢見るビエラレット殿下に押し切られて決まったそうだ。
そんな運命の人のはずの旦那に毒殺されかかるなんてねぇ……
そのマエル公爵のおバカ自白を聞いて、ビエラレット様は流石に涙を流していた。
「夜会の会場でミスラーに『初めてお会いする方ですね、とてもお綺麗なので思わず声をかけてしまいました』なんて言われたのよぉぉぉ!!」
台詞くっさぁ~
今時、そんな臭い台詞で気を許すお馬鹿がどこにいるんだよ。
ここにいましたぁ!!はい……若かりし頃のビエラレット様(当時16才)はそれに運命を感じちゃって婚姻まで決めちゃったんだね。
マエル公爵、当時侯爵家の四男は意図的に臭い台詞を吐いたらしい。ビエラレット様と婚姻すれば自分も皇族仲間入り出来てお金持ちウマウマ、働かなくてもいいじゃん!と思っていたらしい。
ところが現実はそうはいかない。
ビエラレット様との婚姻が決まると、公爵位の拝することになりそれと付随して公爵領も拝領。当然領地運営の仕事が始まる。
マエル公爵がお馬鹿なのは前皇帝陛下は分かっていたらしい。陛下の命令で集められた優秀な部下が全て仕事を肩代わりして、なんとか今までマエル公爵の威厳を保っていたという訳だ。
それなのに調子に乗って愛人を作った上に子供まで産ませ、更に欲を出した。
「愛人の存在は知っていたのよ、でもそれは珍しいことでは無いし私も諦めていたわ」
この国では愛人が公にされるのは珍しくない。ビエラレット様もそこは黙認するつもりだったのだろう。
「ただ、それを弁えずに私達を亡き者にしようなんて!」
ビエラレット様は悔しいんだろうなぁ。しかしマエル公爵は死罪とかになるのでは?
修羅場どころの騒ぎでは無くなってきたね。
さて、そんな国際問題に発展しかけて実は不倫ゴタゴタだった今回の毒殺事件だけど、当然エリンプシャーの偉い人からエリンプシャーの宰相にその話が行き、そして王族にその話が行った途端、何故だか帰国していた私達の所へエリンプシャー側から急ぎの書状が届いたそうだ。
ソリフシャー外務大臣が大変に困った、そう言いながら近衛の詰所にやって来て私に面会を求めている、と呼び出しがかかった。
私は陛下の護衛の合間を縫って魔術師団の試薬研究室に行っていた。何故かと言うと……
「ビエラレット様、御所望の美容液の開発とかで忙しいのですがぁ」
近衛の詰所の来客室で待っていた、ソリフシャー外務大臣の顔を見るなりボヤいてあげた。
そうなんだよ~エリンプシャーに行く前にソリフシャー外務大臣の奥様に渡した石鹸が、奥様のお肌に中々の効果を生み出したみたいで、その喜びの声を聞いたビアスさんから、魔女印の石鹸を増産して薬局で売り出すぜ!と言われてしまったのだ。
おまけに偽物秘薬で毒まで飲んじゃったビエラレット様は、エリンプシャーからしょんぼり帰国をしたのだが、ソリフシャー夫人が私のあげた石鹸でお肌ピチピチ!?という情報を聞いて私に
「石鹸を一年分下さいなっ!それともっとお肌に効果のある薬は作れませんの!?」
と、詰め寄られマダム達の圧を受けながら、新薬開発にも打ち込んでいるのだ。
私は一礼をしてからソリフシャー外務大臣の対面の椅子に腰掛けた。
ソリフシャー大臣は強面顔を更に怖くさせている。
「いやそれがな、リメル商会が秘薬をエリンプシャー王族に献上しているのは知っていると思うのだが、それが偽物だと発覚しただろう?そのことを何故だかエリンプシャーの王族方が、癒しの魔女が特級秘薬を渡さないからだと言い出してな。エリンプシャーに謝罪する気持ちがあるのなら、すぐに魔女の作った特級秘薬を献上しろ、と言って来たのだ」
「へ?」
強面顔から想像もしていなかった内容を聞いて、変な声が出てしまった。
ソリフシャー大臣は更に暗殺者のような鋭い眼差しをして来た。
「うむ、驚くのも尤もだ。イアナ=トルグートが謝罪せねばならん理由などは無い。これは皇帝陛下の御言葉なのだが、『偽物の秘薬でリメルが捕まってしまい、リメル商会も解体したのでエリンプシャー王族としては怒り心頭だろう。ところが思わぬところで癒しの魔女の行方が分かった。元々は癒しの魔女は自分達のもの。じゃあ堂々と秘薬を寄越せといえるではないか!』と……」
皇帝陛下の、心底馬鹿にしたような声が聞こえたような気がした。
「はぁ……謝罪も訳が分からないですが。あの、何度もお伝えしていますが私は若返ったり永遠に死なないような薬は作れません」
私が何度も口にした言葉を伝えると、ソリフシャー大臣は深く何度も頷いてくれた。
いい加減にして欲しいわ……
その時リムが、あの……と言って挙手したのでソリフシャー大臣が、なんだ?と問いかけた。
「この際、イアナの作った薬なら何でもいいのでは?」
「ん?どういうことだ?」
リムの言葉にソリフシャー大臣も私も首を捻った。
「それが何の効果も無いただの水とかでも、分かっていても『癒しの魔女が作った秘薬』だと周りに言われたら、信じたふりをして飲まざるを得ないのでないかと思います」
「!」
リムの説明に思わず唸った。
そうか!この際、効果なんて無くてもいいのかも?私の作った薬を正当な手続きを経てエリンプシャーに渡せば、要らないとは言えない。
「まあ水を渡すのは流石に気が引けるから回復薬ぐらいにしておいてもいいけど……」
リムが何気に酷い事を言っているけど、何かを渡してしまおうっていうのは面白いぞ~と思ってしまったよ。
そうして取り敢えず何か渡しちゃおう作戦は、ソリフシャー外務大臣から宰相閣下に報告されて、皇帝陛下まで話が通ったらしい。
翌日、ニヤニヤと笑いながら皇帝陛下からこう告げられた。
「面白い事を考え付いたな~私も一口乗るかな?イアナの回復薬を派手な薬瓶に詰め替えておけ。私が直々にエリンプシャー王族に献上して来よう!」
うわ~っ!?皇帝陛下が持って行ってくれるのぉ?
という訳で、皆で準備を始めて数日後……
本当に我が国の皇帝陛下はエリンプシャーに赴き、仰々しい豪華な宝石箱に入れられた只の回復薬入りの瓶をエリンプシャー王族に献上した。
「ここに極上の特級秘薬をお納めします、どうぞお納め下さい」
と言う言葉と共に、極上の笑顔を見せて宝石箱を国王陛下に渡した。
国王陛下はニヤニヤしながらその箱を受け取っている。
因みに私は別に『癒しの魔女も一緒に来いや!』とは言われていないので、例の如く変装して皇帝陛下の護衛ですが何か?みたいな顔をして同行していた。
宝石箱を受け取った後、ニヤニヤしながらエリンプシャー国王は箱の中を開けて、怪訝な顔をしている。一応は薬瓶の中身は本当に私が作った回復薬だし、少しばかり治療魔法と薬草入りで薬効成分も入っている。
飲んで害のあるものではない。基礎的な回復は出来る筈だ。
「……これは」
エリンプシャーの国王陛下が何か言いかけたが、腹黒皇帝陛下が素早く遮った。
「いやぁ~癒しの魔女に嘆願して金貨600枚で作って貰った特注の極上秘薬ですよ!この世にその一本しかないのですよ~凄い一品でそれを手に出来る陛下が羨ましいですよぉ!」
めっちゃ煽るなぁ~金貨600枚なんて勿論嘘だ。言いたい放題だった。
その時エリンプシャー国王の隣に居た国王妃が、国王陛下を押し退ける勢いで宝石箱を奪い取ると、薬瓶を箱から取り出した。
「あっ!」
「妃殿下!?」
その国王妃の動きに、思わず周りから驚きの声が上がった。
国王妃は躊躇いもせずに、その薬瓶の中身を一気飲みした。皆がその一連の動きを息を飲んで見詰めていた。
「お、お前……っ何を勝手に飲んでおるのだぁ!!」
我に返った国王陛下が叫んだと同時に、国王妃が高笑いをした。
「オホホッッ!!!どう?私、秘薬を飲みましたわっ!これで永遠に美しくいれるのよっアハ……アハハハハッ!!」
国王妃は嬉しすぎてハイに?なっておられるようだ。そんな高笑いする王妃を、国王陛下は睨みつけている。王子殿下達も唖然としている。
あれ?これはエリンプシャー王族の修羅場になっているのか?
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