私、偽物ですしね!

怒涛の秘薬お披露目の夜会が終わり、髭父に促されて皇城に移動して来た私とリム。


城の中で案内されて入った会議室っぽい部屋には既にはキラキラした先客がいた。


「おおっご苦労だったな!中々面白いことになったそうだなぁ!」


……何でこんな時間に皇帝陛下がいるの?


ヴィアンド陛下以外の面子は、アエリカ様と初老のご夫婦、近衛の隊服を着ているお兄様二人と、宰相様(陛下の叔父様)と、髭父の部下のビラスさんとユーラさん。


「ノワリア隊長、報告を」


陛下が促して髭父が先ほどの夜会での報告を始めた。


「ビエラレット公爵夫人はエリンプシャーの商会から入手した『癒しの魔女』が作ったとされる永遠に美しくいられる秘薬とやらを夜会の最中に口にされました。幸いにも夫人はその秘薬で体調を崩された様子は御座いませんでした。秘薬の成分は未定で御座います。娘のイアナが秘薬を読み取って魔質判定を行っているはずです、イアナ」


髭父に促されたので一歩前へ出て、カーテシーをしてから自分の確認できた範囲の説明をした。


「私が魔質を確認しました所、秘薬そのものに魔術が施されている形跡は見受けられませんでした。秘薬とされる液体が入っていた小瓶に複数の魔質を感知しました。それの一つに……えっと……そのぉ」


実は何故だか私の魔力も混じってまして~とは言いにくくてつい、言い淀んでいる私の隣に居たリムが、あっさりと続きを話してしまった。


「小瓶には微かに複数の魔力が感じられましたが、そのうちの一つはイアナの魔力だったと思います」


お前知ってたのか!?


「!?」


皆が驚いたようにリムを見て、それから私を見て茫然としている。


「おいっイアナ……それ、本当か?」


髭父が私に聞いてきたが、聞かれた私も首を傾げるしかない。


「何故私の魔力が混じっているのか分からないの。あの小瓶に触ったことは無いんだよ?はっきり言える事は、ビエラレット様の飲んだ小瓶に入った液体には治療的な効果は一切無いという事。液体というか普通の濁った水?としか思えない」


私がそう言うと、皇帝陛下は苦々しいお顔をされると


「叔母上もそんな得体のしれない液体をよく口に出来たな。体に害は無いのだな?」


と、聞いて来られたので慌てて頷き返した。


「取り敢えずは、振り撒かれて害のあるもので無くてひとまずは安心でしたね」


近衛の隊服を着ているお兄様が低音の美声でそう話した後に、私を見て微笑まれた。


「しかしその小瓶、イアナ=トルグード嬢が触ったことが無いというのなら、イアナ嬢の魔力を帯びたものが小瓶や液体に触れていたのでは?」


もう1人の近衛の隊服を着たお兄様が髭父の方を見た。髭父は私を見て頷いてからハッ、としたような顔をした。


「髪を……娘は髪を賊に斬り取られたと言っておりましたが、まさか……」


室内に居たアマリア様とご夫人が小さな声で悲鳴を上げられた。


「あの斬られた髪が?あの人が髪をエリンプシャーの商会に渡したの?」


確かにばっさり取られたけど、もしかして?


皇帝陛下が眉間にシワを寄せて私を見た。


「うわぁ……じゃあ濁ってたのはイアナの髪を煮だしたものだったのか?叔母上、飲んじゃったんだよね〜」


…………っておいぃぃぃっ!?陛下のその言い方に若干、引っ掛かりを感じますよ?じゃあ何だい?私の髪がその濁り成分を生み出しているって言いたいのかな?何だか私の髪が艶の無い、パッサパサの髪でっせ!と言われているみたいで、感じ悪いなぁ!!


「髪が溶かされた濁った液体なら、イアナの魔力が微量に残っていてもおかしくはないな」


リムの説明に皆はうんうんと頷いているけど、やっぱり言い方引っ掛かるよ!


宰相様が大きく息を吐き、頭を抱えている。


「ビエラレットも何をやっているんだか、もし毒だったらどうするつもりだったんだ」


いやぁ~女性ってさ、いくつになっても美への探求心は尽きないものだよ?それこそちょっと副作用?がありそうなものでも、美しくなる為なら!ってなってしまうのが性でしょう。


「怪しげな薬でも飲みたくなる気持ち、少しは分かりますわ……」


今まで凛とした佇まいを見せていたご婦人が、発言されたので皆が一斉にご婦人を見た。


するとご婦人は私に目を合わせると、柔らかく微笑み返してくれた。アマリア様はそのご夫人を見て、大きく頷いた。


「分かりますわ、お母様!例えば化粧品など少々お高くても、肌に良いと聞けば試してみたくなりますもの。確かにイアナ様は危険な目に遭われてこれに関しては許し難いことですが、『癒しの魔女の薬』と聞いただけで効果があると思ってしまうもの」


アマリア様のお母様っ!?じゃあ公爵夫人だぁ!……っていかんっ!!今度は高貴な方々の前で私の抜け毛に対する期待値が爆あがりしている!


私は不敬ではあるけれど、割り込むようにして声を上げた。


「あっあの!何度も重ね重ねご説明しておりますが、私の抜け毛や血液などに特別な力などはありませんので。もし自分に若返りとかの力があるなら、それはもう血の一滴までも搾り取る勢いで自分の生き血を飲みまくります!」


「飲むのか?」


国王陛下に胡乱な目で見られたけど、本当にそう思っているんだからしゃーない。


「はいっ勿論。そりゃ不老不死になるなら試してみたいですよね~しかし自分に使いたいところですが、今は死にかけている訳でも無いですし、それに私はまだ18才なのでこの年で成長が止まっちゃうのも困ります。もう少し胸とか胸とか胸とか大きく成長したい……あ~ごほんげふん!兎に角、自分で確かめられないのなら、取り敢えずは御所望の妙齢の方に売りつけちゃいます。自分の髪や血なら初期投資は無料ですしね」


「成長が止まるのか!?」


近衛のお兄様が絶叫したので、アレ?と思って首を傾げた。


異世界の知識では不老不死と言えば、なった瞬間からそのままで永遠に生きていくイメージなんだけど……これはヴァンパイアか?


「あの……私の考えている秘薬って飲んだ瞬間から成長とか老化が止まるって感じかな~と思ってたんですが、もしかして皆さんが考えてた秘薬って、おばーちゃんが若い娘に戻っちゃうとか思ってました?」


私の言葉に皆が大きく頷いた。


はぁ~なるほど永遠の若さか……そんなの有り得るのかな?


私がそんなことを考え込んでいる間に、夜会でのビエラレット様の発言内容を聞いて、皇帝陛下は目を吊り上げていた。


「なんだと!?イアナが偽物だと叔母上が言ったのか?偽物は叔母上の濁り薬の方じゃないか!」


濁り薬……またすごいネーミングを陛下はつけたもんだね。


宰相様は益々頭を抱えている。


「ビエラレット夫人に秘薬に関する聴取をするべきだな」


宰相様が弱弱しい声で呟いていた。


身内が霊感商法とかに引っ掛かった気分なのかなぁ……つらぁ。



°˖✧♢✧˖° °˖✧♢✧˖° °˖✧♢✧˖° °˖✧♢✧˖°



そんな夜会の日から二日後。


宰相様がやらかした……というかビエラレット様もやらかした。


何が起こったかと言うと、実の兄妹同士で派手に大喧嘩をしてお互いを煽りまくってしまったのだ。


その現場の目撃者は宰相閣下の補佐官二名と、陛下への報告の為に同行したビラス副隊長とユーラさんだった。


秘薬の件の聴取する為にビエラレット様に会った宰相閣下は妹に会うなり


「馬鹿者がっ!あんな怪しげで効果の無いモノを夜会で恥ずかしげもなく見せびらかしおって!」


と、頑固お兄ちゃん宜しく、叱ってしまったのだとか。


いきなり実兄(宰相様)に出合い頭に叱られて、ビエラレット様は驚愕していたらしい。しかしここで黙っているビエラレット様じゃなかった。


「何を仰いますのよっお兄様!長年お付き合いのある、エリンプシャーのリメル商会のご紹介で癒しの魔女の弟子から直接、購入致しましたのよ!?魔女の弟子の話では普段は魔女の秘薬は表に出すことは無く、皇族である私だからこそっ特別にっと言われましたのよっ!商会の者と魔術師が嘘をついているとは思えませんわっ!!」


と、皇族の上品さどこいった?状態で実兄に怒鳴り返して来たらしい。


すると、その態度にカチンときたらしい宰相閣下が更に言い返した。


「そもそもがその弟子とやらに騙されていると言うんだっ!秘薬?どこがだっ!お前の姿はそんなものを飲む前と全く変わらないままの年相応じゃないかっ!」


まさに売り言葉に買い言葉だとしか言えない。兄妹共々煽り耐性が無さ過ぎる。


「なぁっ!?ち……ちゃんと効いていますわよ!お兄様の目が老眼でっ霞んで見えなくなっているのじゃありませんことぉ!?」


ズバッと容赦の無い真実を突きつけられたビエラレット様は、怒りで震えながら叫び返したらしい。そして……


「まあその後は、お互いに加齢に関することとか、子供の時にされた意地悪を蒸し返しての罵り合い等々……まあなんて言うか、子供の喧嘩だな」


「興奮された夫人が倒れてしまったので、聴取は終了しました」


聴取の翌日、皇城で会ったビラスさんはそう言いながら私と髭父とリムに説明してくれた。ユーラさんは淡々とそして吐き捨てるようにご報告をくれた、オツカレ……


「最初から喧嘩腰は良くなかったですが、宰相閣下にしてみればそんな怪しい薬を信じ込んでいるビエラレット夫人が、嘆かわしいとか思ってしまったんじゃないですか?」


おおっリム!私もそう思うけど、でもさ~もっとやんわりと諭すことだって出来ると思わない?そういう商法に引っ掛かっている人って全否定されるとムキになっちゃうと思うし。


「うん……あ、ちょっと気になるんだが、弟子の魔術師って誰なんだ?」


唸りながら一緒に聞いていた髭父がビラスさんに尋ねると、ビラスさんは首を捻りながら答えてくれた。


「それなんですよね~興奮状態のビエラレット夫人にお聞きした限りでは、癒しの魔女の弟子と名乗る男は年の頃は20代半ばで、身体的特徴は素敵だったとか格好良かったとか……正直どうでもいい、くだらない情報しか得られませんでした」


……ビラスさんの本音が駄々洩れだね。確かに個人的主観によるイケメンであるとか素敵だとかは、どうでもいい情報だ。


その弟子って私の髪の毛取って行った奴なのかな……


「でも弟子って何だ?」


思わず私の心の声が口に出てしまっていたが、それを聞いたリムがボソッと呟いた。


「ビエラレット様が言うの癒しの魔女の弟子だろ?イアナは気にすんな」


「うん……」


本物ねぇ、そろそろ某国がうちには元祖魔女だか本家魔女だかが存在する!とか言い出して、魔女のエキス入りの怪しい商品を売り出し始めるんじゃないかと想像してしまい、気が滅入る思いだった。

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