値段に見合う効果はあります……よね?

「よしっ!後もうちょっとだよ~」


ミラム君の手を引きながら道の角を曲がると、フィッツバーク家の玄関先にリムが立っているのが見えた。


「お兄ちゃん!」


ミラム君が呼ぶとリムはふんわりとした微笑みを浮かべた。普段もそれくらい柔らかい微笑み浮かべてれば女子からモテモテなのにね~え?そんなことしなくてもモテてますか?そうですか……


「大分歩けたね!もうこの町内の外周くらいは大丈夫みたいだね?」


「うん!もう大丈夫だよ」


ミラム君はリムに抱き付きながら元気よく答えてくれた。


もうそろそろ、ミラム君は大丈夫かな?


私は膝を落とすとミラム君と目線を合わせた。


「ミラム君、もう普段通りに生活が送れるね。先生の治療は今日でお終いね。基本の魔術と学術はもう覚えたし、どうする?来月から国営の学舎の申込してみる?うちの父が保護推薦すれば入学は大丈夫だと思うよ?それと学費は試験の結果が上位なら減額申請も受けられるようだし?」


ミラム君に話しつつ、お兄ちゃんであるリムに顔を向けると驚いたような顔をしていた。


「学舎!?隊長の推薦……減額申請って、大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ!リムだって勉強見てくれているからミラム君の記憶力の凄さは分かってるでしょ?今までは動けないから体力も無かったけど、来月までには基礎体力つけてればロディ君達と遊んだり出来るようになるって~」


「ぼ、僕っ行きたい!」


ミラム君が嬉しそうに顔を輝かせた。ロディ君とは、ミラム君とウォーキングに出るようになって、表通りで遊んでた果物屋の三男のロディ君でそこの兄妹達とも仲良くなったんだよね。その兄妹達が


「ミラムも元気になったら学舎に来いよ!一緒に行こうぜ!」


と、誘ってくれたのだ。優しい果物ボーイ&ガール達だよ。おばちゃん感涙……


「しかし……」


とか言って、過保護リムがまだ渋っているがもう一度説明しておいた。


「ミラム君は頭の回転の速い優秀な子なんだよ。父が将来を見越して学舎の教育課程修了時にはマウェリード魔術学園に進学出来るようにしたいって言ってた」


「マウェリード魔術学園!?でも学費が……」


真っ先に学費の心配をしちゃう庶民なリムに切なさが込み上げてくるけれど、リムはミラム君の為に使ってた、高濃度魔力補助剤の購入の借金があるしね〜


ミラム君に借金の話は絶対出来ないよね。


「大丈夫〜大丈夫!マウェリード魔術学園に奨学金制度を導入しろっ!って、父と陛下に脅し……お願いしておいたから〜」


そう、こんな時に自分の異世界の知識や異能力を使わないで、いつ使うんだってね!


いいかい?ちょこちょこーっとその制度を作っておけば、奨学金出せるんだろ?ああん?グダグダ言うならもう命を助けてやんねーよ?


……と、髭父と皇帝陛下に脅しをかけておいたのだ。


まだグダグダ言いそうなリムに奨学金制度の話をして、何とか納得させると手続きに入ることにした。


と言う訳で、奨学金制度導入について〜という会合があるとかで私は皇城に呼び出されていた。


……がっ!会議場にリムと髭父と入った途端、外務大臣のソリフシャーです!と、自己紹介頂いた(侯爵閣下)に、会議場の隅っこに連れて行かれた。


「まだ陛下のお耳にしか入れていないのだが、イアナ=トルグート嬢……正直に答えて欲しい。エリンプシャー王国に貴女の血肉を売りさばいてはおらんだろうな?」


「はぁ?」


ソリフシャー大臣の言葉に声をひっくり返して返事をしてしまったが、ソリフシャー大臣は気にせずに強面フェイスを近づけてきた。


怖い、怖いよぉ……


「先日、ビエラレット=マエル公爵夫人が夜会で飲まれた、若返りの薬があるだろう?夫人はその薬で本当に若返ったとの噂を聞いたのだが?」


ええっ!?なにそれ?若返ってナイナイ!!


「ん?何だその驚いた反応は?……それでだな、その薬を卸したとされるリメル商会が更に改良した特級秘薬とやらをエリンプシャー王族に献上したらしい。もう一度聞くが、エリンプシャーに渡してないのだな?」


「知りませんっ!知りませんっ!!」


うへぁ……とうとう元祖?魔女が類似品を作り出してきたのだね。こうなって来ると、ビエラレット様が私も欲しい!とか言い出すんじゃないんだろうか。


ソリフシャー外務大臣は顎に手を当てて唸っている。


「外交筋から連絡が来たのだ。どうやらエリンプシャーでその特級秘薬をお披露目するのでは、という情報を得てな」


「え、お披露目ですか?」


エリンプシャーでもお披露目って、高貴な人って見せるの好きだな~という感想しか浮かばん。


ソリフシャー大臣は不機嫌な顔のまま頷かれた。


「ビエラレット夫人がお披露目をされて若返ったと随分と噂になっていることが、エリンプシャー側にも伝わったのだろう。全く迷惑なことなのだがな。陛下の推察では、エリンプシャー側も『癒しの魔女』は自国に存在しており、帝国の魔女は偽物……という発表をするのではないかと言っておられる」


ホラホラきたよ。元祖と本家を言い出すって思ってたんだ。


あれ、でも待てよ?


「あの……そもそもなのですが、偽物でも本物でも若返りの秘薬は存在しないのですよね?」


ソリフシャー大臣は


「魔女殿は作れんのか?」


と、本気で聞いてきた。(魔質がそうだと物語ってた)


「私には無理です。生物が成長しそして成熟し、老いて行くのは自然の摂理です」


「……そうか」


その落胆した魔質はなんだぁ?もしかしてソリフシャー大臣ってば若返りの秘薬を信じてたのか?


「妻が手に入れたいと言い出してな、作れないのか……」


「はぁ、それは申し訳ございません」


強面の侯爵様の悲哀を感じたよ。力関係は、嫁>ソリフシャー大臣なんだろうねぇ。


さて、大会議室で奨学金制度とは何たるかを~お歴々の方々に熱弁して、議題が他に移ったので私の出番は終わったぁ!とフカフカ椅子に座ってうとうとしていたら、最後の最後にキラキラ皇帝陛下がブチかましてきた。


「そうだ~また魔女の作った秘薬が出てきたね~それについては癒しの魔女はどう思う?」


と、いや~な話題をぶち込んできた。眠気も一気に吹き飛んだ。


会議室内の皆様の視線が私に向いてきた。これはぁ何か発言をしなきゃいけないのかな?


「イアナ」


髭父が促すように私の名前を呼んだので、ノロノロと椅子から立ち上がった。ああ、これは授業中に先生に指名されたみたいな感覚だ。


また陛下も答えにくいこと聞いて来るなぁ。ワザとか?ワザとなのか?


「再三申し上げておりますが、ビエラレット様が飲まれたモノは若返りを誘発する成分は含まれておりません。これは異世界で言われていることなのですが、効果があると思い込んで飲めば只の水でも効いたように感じることがあります。ですが、あくまで効いたと思い込んだだけです」


「効いておられないのか……」


「婦人方は効いていると絶賛されていると聞きますが……」


お歴々の方々からボソボソと囁きが聞こえる。


「あの付け加えますと、私に関してはそういう効果のある秘薬は作ることが出来ません。ですが、この世界のどこかに秘薬を作ることが出来る高名な術師が存在するかもしれないという事は否定出来ません。私の個人的見解では、若返りの秘薬が手に入りその薬を飲んでみること自体は、試してみても良いのではないかと思います」


私が話し終わると、お歴々の方々は更にざわつかれた。


そう、怪しくても本人が決めたことならば秘薬でも毒薬でも、試してみたっていいんじゃないか?と思っている。


会議室内のざわめきが大きくなる中、皇帝陛下が手を挙げた。それを見たお歴々の方々は一斉に口を閉じた。


ヴィアンド陛下はニヤニヤしながら私を見ている。


「効果が無いものを飲んでも何も変わらなければ、それは詐欺ではないか?」


「詐欺かどうかは実際に飲まれた方が詐欺か本物か判断すればよいと思います」


皇帝陛下は笑みを深めた。


「そうだなぁ~うんうん!高い秘薬を買って効果を試したい者は勝手にしろとしか言えないな。効果があるのか、無いのかはすぐには分からんしな~」


声高らかに叫んでいるヴィアンド陛下の側に宰相様が近付いて、何か耳打ちをしている。


「エリンプシャーに癒しの魔女がおり、ソレが特級秘薬なるものを作ったのだが、エリンプシャー王国の国王妃と王太子殿下が近々ソレを飲んで見せる会を催すそうだ。何だかどこかで聞いたことのある会だな?なあ宰相?」


「……」


宰相閣下は苦々しいお顔をされている。某公爵夫人を思い出しているんだろう。


「ほっておけばよい!別に効果が無くったってこちらが非難されることも無いんだしな。イアナの言ったように自己判断で飲んでみるのだから、問題無しだろう」


ということで、ヴィアンド陛下は話を締め括ったのだけど、後日それは別方向からの悩みの種を生み出すことになった。


ミラム君のリハビリが無事に終わったので、気乗りはしないが髭父の部下という名目で、私がヴィアンド陛下付の護衛兼治療術師として登城した初日に起った。


近衛の詰所に挨拶に伺う途中で会った、宰相閣下とソリフシャー外務大臣のオジサマ二人に、問答無用で空いている小部屋に連れ込まれたのだ。一緒に居たリムは小部屋前で見張りに立たされている。


オッサン達、何だよ?ヤバい話かな?


ソリフシャー大臣は強面のお顔を更に強張らせていて、眼力だけで射殺されそうです……


「イアナ=トルグード嬢……知恵を貸してくれないか。私の妻がエリンプシャーの特級秘薬を購入したいと言い出したのだ」


ソリフシャー大臣の奥様というと、若返りの秘薬が欲しい~と言っていたんだっけ?それで?


「実はその特級秘薬の購入代は……金貨400枚らしい」


「よっ!?400枚ぃ!?」


日本円で約4000万円もするのぉ!?それって……


『ぼった……』


ぼったくりやんけ!と日本語でツッコミそうになったが、4000万って住宅が買える値段じゃないのか?秘薬ってそんなにするものなの?


ソリフシャー大臣は手で顔を覆った。


「それにもっと悪いことに、妻が手に入れようとしているのを聞きつけてビエラレット公爵夫人とノエリーナ=ハーバヒル伯爵夫人が欲しいと賛同してしまって、エリンプシャーに夫人方で買い付け旅行に行くという騒ぎになっているらしい」


「はぁ?エリンプシャーに直接ですか……」


皆、元気だねぇ……と笑って済ませたいところだが一瓶?4000万円もする、ぼったくりかもしれない薬品を買いに行く資金は一体誰が出すんだと、小一時間は嫁達に問い詰めたいよ。


当然、エリンプシャーに行くには旅費もかかるし、ご婦人方が移動するのに何人の使用人を連れて行かにゃならんのよ?そりゃソリフシャー大臣の顔も強張るってもんだよ。


「イアナ=トルグードよ、何とかならんか?」


宰相閣下が憤怒の表情を浮かべて私に詰め寄って来た。


いやいや?私はビエラレット様に偽物判定されている身でして、そんな偽物である私が、特級秘薬は効果無いかもしれませんよ~と、注意喚起した所で聞き入れてくれないと思うんだけど?


「私の言葉を聞き入れてくれると思えませんが……はっきり言ってもいいのなら言いますけど?」


「な、何を言うのだ?」


オジサマ達は怖い顔を私に顔を近付けて来た。いちいち怖いんだけど……


「自己満足の為に金貨400枚を捨てるおつもりですか?って」


オジサマ二人は深く深く溜め息をついた。

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