学祭二日目 ③
美影は嬉しそうに絢と仲良く一緒に歩いている。絢も慣れてきたのか普段と変わらない表情になっていた。この学校は生徒数がかなり多いので絢のことを気が付くのは、同じ中学だった生徒ぐらいだろう。
(回るとしたら、出来るだけ同じ中学だった奴がいない所がいいよな)
そう考えると一年生のクラスから回ればいいことに気が付いたのだが、ひと足遅かった。
「あれ⁉︎ もしかして絢?」
慌てて俺は声が聞こえた方向を見ると芳本が立っていた。絢は苦笑いをして少し顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
「……なんでここにいるんだよ」
「なんでって……ここ私のクラスじゃん」
愚痴るように呟くと芳本は不機嫌そうな口調でムッとしていた。すぐに絢の元に駆け寄ると芳本はびっくりした顔で絢に話し始めて、美影も一緒になり笑顔で楽しそうにしている。何故か違うクラスにいた皓太が騒動に気が付いて現れた。
「あぁ……また面倒なヤツが……」
「なんだよ、いきなり失礼な……ん、あれ、笹野じゃん……」
俺の愚痴に反応する間もなく皓太にも絢の存在に気付かれてしまった。皓太も絢の側に向かうので俺も絢達の元に戻る。
「あっ、鵜崎くんまで……」
皓太に気が付いた絢は恥ずかしそうに俯いてしまった。
「ははは、なんか懐かしいな、こうやって揃うと中学の頃を思い出すな」
「そうね、懐かしいわね」
皓太がそう言って芳本も笑顔で頷いていた。中学時代は皓太が同じクラスで芳本は違うクラスだったが、芳本は皓太の幼馴染で絢の部活仲間ということでよく俺達のクラスに遊びに来ていた。皓太が芳本と顔を見合わせて何かを思い出した。
「そう言えば、去年も来てたよな?」
「えっ、あ、そうだね」
皓太の何気ないひと言に絢は驚いたような表情をして俺と美影をチラッと見ている。芳本はそうそうと頷いて絢の表情には気が付いていない。美影はびっくりした顔をしていたが、俺は知っていたので驚きはしなかった。
「去年は、由佳ちゃんがね……行きたいって言うから」
絢は笑って答えていた。
(多分、白川が強引に連れて来たのだろう、俺のことを確認をする為に……)
俺は皓太がこれ以上変なことを言わないか焦っていたが、芳本が気を利かせて上手に話を逸らせてくれた。芳本と皓太はそれぞれのクラスで仕事があるからとこの場で別れたが、芳本が別れ際に俺に囁いて嬉しそうだった。
「絢の夢が少しだけ叶ったかな、宮瀬くんとのね」
そう言われて俺は胸に突き刺さる感覚になったが、落ち込んでヒマはなかったのですぐに美影達について行った。
美影は絢が去年来ていた事が気になっている様子だったが、なかなか聞くチャンスがないままだった。何クラスかの展示や、模擬店を回っていると絢も全く違和感なく美影といるので俺もつい油断してしまう。同じ学校の制服を着ているので絢と一瞬美影を間違ってしまい顔が近づいたり手が触れたりと焦ってばかりだった。
(でもなんで背格好も髪型も違うのに間違うんだろう……)
美影は特に気にする素振りもなく楽しそうにしていた。
「あっ、センパイ! 来てくれたんですね」
元気のいい声が聞こえてきたので、振り返ると恵里が俺達の方へ駆け寄ってきている。
「こんにちは、山内先輩……ん、隣の人は……」
美影には丁寧に挨拶するが、少しだけ棘があるような言い方をした。しかし恵里は美影のことより隣にいる絢のことが気になるようだ。絢は恵里がじっと見つめているので、美影の後ろに隠れようとしている。
「もう〜あんまりジロジロ見ないのよ、枡田さん」
絢の動きを察して美影が恵里をはぐらかそうとしていたが、好奇心が満々の表情で簡単にいかないのが恵里なのだ。
「あぁ〜思い出した〜ええっと、笹野先輩だ! センパイの元カノのですよ、いいんですか?」
「⁉︎」
結構な大きめの声で恵里が答えるので、すぐに俺は恵里の口を塞ごうとした。まさかの発言で予想もしていなかった。美影はかなり驚いた表情をして、絢は真っ赤になって俯いてしまった。
(確かに、事情の知らない恵里から見たら、中学三年の時の俺と絢はそう見られても仕方ないよな……)
これまで温和な表情だった美影が険しい表情に変わって口を開く。
「……笹野さんも宮瀬くんも私にとって大事な人なの、だから関係ないの元カノとかそんなことは……」
気持ちのこもった強い口調で美影の顔はいつもよりきつめな表情だった。俺は驚き、絢も同じ様な表情をしていたが、一番動揺したのは恵里だった。
「……ごめんなさい……」
動揺した恵里はしゅんとした顔で項垂れるように答えると少し重たい空気になった。美影はそんなつもりで言った訳ではなかったみたいで慌てて場を和ませようとする。
「そ、そんなつもりじゃなかったんだけど、私こそごめんなさい……ムキになったみたいで」
「……ううん、そんなことないです。先輩は悪くないです」
恵里は反省した表情をしているが、基本的には性格が悪い子ではない。ちょっとだけ調子に乗ることがあるだけなので美影も分かっているはずだ。
「もう……ほら、せっかくのお祭りなんだから、暗い顔は終わりよ、枡田さん」
美影は元気づけるように恵里に優しく声をかけると、恵里は小さく頷きやっと普段の明るい表情に戻った。
「そうですね。じゃあ、私のクラスに遊びに来てくださいよ。ほらっ、センパイ!」
そう言うといつもと変わらない様に俺の手を引っ張って連れて行こうとし始めた。美影はその様子をみて微笑んでいたけど、絢はびっくりした顔をしていた。
(美影はいつもの恵里を知っていて見慣れているけど、絢は知らないからな……特にあんな雰囲気だったからなついさっきまで)
「はいはい、わかったよ」
俺は返事をしてそのまま恵里に連れられ、美影と絢が後からついて来ていた。恵里のクラスはお祭りにある露店のようなコーナーを設けていたので、三人でいろいろと挑戦したり楽しんだ。恵里はさすがに初めは美影に対してぎこちなくしていたが、時間が経つにつれていつも通りに話したりしていたので少し安心した。
「それじゃ、次に行くからな」
「はい、センパイ。ちょっとだけ笹野先輩と話していいですか?」
恵里に言われて絢に様子を伺うと頷いているので大丈夫みたいだった。恵里は、俺と美影から離れた所で絢と二人で話し始めた。絢は頷いてみたものの不安があったようで表情が固かった。
(なんだろう? でもこの二人は中学の時にお互い話したことないよな、存在は知っていたようだけど……)
美影と心配しながら待っていて、俺達がいる場所からは絢の表情が見えなかった。しばらくして絢が小さく笑みを浮かべて戻ってきた。
(なにを話したんだ? 笑顔で戻ってきたからとりあえずよかった……)
俺の心配は取り越し苦労に終わった。そのまま恵里のクラスを出てからいくつかのクラスを回るとそれなりの時間になり、絢も着替えないといけないので更衣室に寄って元の俺達ののクラスに戻ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます