秋の気配と休日 ②
バイトから帰ってきて、美影から明日の詳しい予定がメールに入っていた。あの後、美影と絢は準備をすると言って急ぐ様に店を出て行ったので、詳しいことはメールで連絡することになった。
(何故、三人で出かけることになったのか……全然分からない……)
メールの内容を確認しながら頭を悩ませていたが、答えは出る気配がない。
(急だよな……明日だからな……どうしよう、上手くと言ってもな……)
大仏に言われた言葉を思い出して考えても何も変わらない。
(もうなるようにしかならないか……)
半分投げ出すような感じで諦めて寝ることにした。
翌日、日曜日ということもあり待ち合わせの時間は早かった。目的地のマリーナワールドは最近出来た水族館を中心としたテーマパークだ。二人を待たせてはいけないと自宅を早めに出発したので待ち合わせ場所の駅前に着くとまだ二人とも姿はなかった。
(お昼は準備するからいいよって言ってたからな……準備が大変なんだろう)
まだ約束の時間にはまだあるので問題はない、二人とも料理の腕前はいいのでお昼は楽しみだ。あれこれ考えても二人に余計な心配をさせてしまうので、とにかく今日一日を楽しむ事にしてあとはその場しのぎでなんとかしようとした。
「あ〜、やっぱり先に来てたね」
程なくして、笑顔で美影がやって来た。もう何度も一緒に出かけてはいるがやはり私服姿の美影には照れてしまう。いつものように清楚な雰囲気で秋らしいコーデだ。派手な訳ではないけど人目は引いてしまう。
「女の子を待たせたらいけないだろう……なんてね」
冗談めかしに笑っていると前方から絢がやって来る姿が見えた。
「ごめん〜、遅れたね」
「いや、まだ時間前だから遅刻じゃないぞ」
笑顔で俺が答えると美影も隣で笑みを浮かべて頷いていた。絢の私服姿は俺の試合の時に見かけてはいるが、今日はいつもとは違う雰囲気がする。何故か胸がドキドキするような感覚になった。
(やっぱり不安だ……美影の様子は……)
美影は俺の様子には気が付いていないようで絢と会話を始めている。
(大丈夫そうだ……もともとは美影が言い出した話だからもう少し堂々としておこう)
ひとつひとつ気にしていたらキリがない。そもそも美影は絢との過去の事は知っているはずだ。もしかして俺を試しているか……いや絶対にそんな事はない。美影に限ってそんな事をするはずがない……疑ってしまった俺は反省をする。
「どうしたの?」
美影と絢が心配そうに俺の様子を伺っていた。慌てて俺は否定をする。
「……なんでもないよ」
「そろそろ行こうよ、せっかく早く来たから人出が多くなる前に移動しよう」
美影がそう言うと絢が楽しそうに頷いている。俺は二人を見てあれこれ考えずにこの際だから楽しもうと気持ちを切り替えた。
目的地のマリーナワールドに着くとまだ混雑する前で余裕を持って入場することが出来た。
「これぐらいの人出ならはぐれることはないな」
「うん、そうだね」
美影が返事をして俺の隣で頷いている。絢も美影と並んで頷いていた。とりあえず順路に従って進むことにした。最初の大きな水槽の前に着くと混雑しているまではいかないけど結構な人がいる。
(入口の辺りよりも人が多いな、それに想像していたよりも暗いぞ……なにもなければいいけど)
最初の展示から不安がよぎるが、美影と絢は仲良さそうに離れることなく移動していたので、俺が二人を見守るような感じで進んだ。
美影と絢は楽しそうに会話をしながら館内を半分くらい進んだ頃に、美影が不意に俺の顔を覗き込む。
「もしかして退屈してない?」
「えっ、全然そんなことないよ」
美影が不安そうな顔をして聞いてきたので、俺は目が点になった。
「ずっと大人しく黙っているから……」
「いや、二人とも仲が良いなって見てたんだよ」
美影は絢と目を合わせて恥ずかしそうに微笑んでいる。なんとなくだがこんな光景があった事を思い出していた。
「もう……もうちょっと近くにおいでよね」
美影はそう言って強引に俺の手を引っ張って絢との間に連れて来る。
「ふふふ、みーちゃんには敵わないわね」
絢が戸惑っている俺の顔をを見て笑っている。俺は美影と絢に挟まれる状態になった。普段から近くにいる美影でもどきっとすることがあるのに、絢が近くにいると更に緊張してしまう。
(いつもと変わらないように……あまり意識したらいけない……)
暫く移動しながら、ふとした瞬間に絢の顔が近くに来ると慌てしまう。
(これは心臓に悪い……絢はどうなんだろう……)
何度かそんな状況になり、不意に俺の頭の中を過ぎる。これまで俺は自分の事ばかり考えていたが、絢の気持ちは考えていなかった。
(美影は絢にどう伝えたのだろうか? まだ知らないってことはないよな……)
美影がチラッと俺の顔を見て声には出さないが不安そうにしている。美影はいろいろと気を遣い過ぎだ。俺は美影の頭を軽くポンとすると美影はすぐに安心したような表情になり恥ずかしそうにした。
(まただ……もう余計なことを考えないようにしないと……)
美影が絢に話しかけているの横目に、大きく息を吐き目の前の水槽に目をやると水槽の中にいる小さめのアザラシと目があったような気がした。純粋そうでキレイな丸い目が印象に残り、何故だかしっかりしないといけないと反省させられた。
「もうちょっと進んだら、イルカのショーがあるみたい。それを見たらお昼にしようか?」
美影は絢とこのことを相談していたのか、俺に笑顔で確認をする。俺は時計を見て頷き、二人の後ろを歩き始めた。
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