秋の気配と休日 ③
イルカのショーを観覧してお昼を食べる為に水族館から出ようと移動している。天気は良くて少し暑いくらの陽気で、人出もそこそこあってベストな場所を探すのに大変だ。
「おーーい、ここでいいだろう!」
広い芝生の広場からちょっと外れた木陰が空いていたので、俺は美影と絢に大きく手を振って知らせる。美影と絢が小走りでこちらに向かってくる。
「ありがとう。やっぱりこんな時によしくんがいると助かるね」
「うん、そうだね。昔もこうやって私達の為に探してくれたりしてたね」
絢がそう言うと美影と嬉しそうに頷き合っている。俺はいまいちピンとこないので、そんなことあったのかと顔を傾げいた。俺がシートを敷いて美影と絢がそれぞれ作ってきたお弁当を広げる。
「おお〜、すごいな〜」
想像以上のお弁当の出来栄えで驚いて眺めていると美影が割り箸と紙皿を渡してくる。
「お腹空いたから食べようよ!」
絢は頷いて笑っている。
「ふふふ、頑張って作ったからしっかり食べてね」
「そうよ、気合入れて作ったんだからね」
美影も自信満々な顔をしている。美影のお弁当はこれまでも何度か学校で食べた事はあって美味しい、今日は確かにいつもとは違い気合が入っていてるので間違いはない。
絢のお弁当は中学時代にみんなで遠出した時に食べて以来になる。あの時も美味しかったから今日も楽しみだ。
「いただきます!」
俺は美影と絢のお弁当からおかずを取り皿に取って食べ始めた。二人が俺の様子を不安そうな表情で見守っている。
「ど、どうしたの? そんなに心配しなくてもすごく美味しいよ!」
笑顔で俺が答えると二人とも安堵した表情になりやっと食べ始めて三人で和やか雰囲気になる。
美影のお弁当はこれまでに何度か食べたことがある。この前にも母親が旅行でいないと話をしたら美影がお弁当を作ってくれた。なので食べ慣れている感じだ。でも絢のお弁当を食べるのは久しぶりだ。
「もうあれから二年になるな……」
「あっ、本当だ。もう二年も前になるんだね」
「またこうやって食べる機会があるとは……」
俺が絢のお弁当を食べている時に話しかけると絢が懐かしそうな顔をした。美影は何のことか分からず不思議そうな顔をする。
「どう? あの時よりも上達してるでしょう、ふふふ……」
絢はドヤ顔まではいかないが、自信あるような表情をして微笑んでいる。
「うん、そうだね。あの時よりも手が込んでいるよな……」
俺が納得した顔で何度頷いていると、美影はやはり意味が分からないままで少しムッとしている。
「ねぇ……なんのことなの?」
俺は美影の様子を見て慌てて二年前の説明をすると絢も何度か頷いている。説明が終わると美影は少しだけ恥ずかしそうな顔をしている。とりあえず分かってくれたみたいで安心した。
(もしかして……やきもちを焼いていたのかな……)
絢もほっとしたような顔して美影を見ている。美影もほっとしたのか呟いた。
「でも……こうやって三人で遊びに来れるなんて、夢にも思わなかったわ」
「うん……そうね」
美影の言葉に絢が頷いている。美影ははっきりと覚えているみたいだが、俺の記憶は微かではっきりとは覚えていない。
(でもなんでだろう……美影はここまで三人にこだわる理由は……ふつうにデートをするなら美影は絢を誘う必要はない……この前の花火大会にしてもそうだ)
ここで美影に理由を尋ねてしますと、雰囲気が悪くなってしまう可能性がある。だからといって学校で直接聞くのもなんとなく躊躇してしまいそうだ。
(そういえば絢は頷いていたな、ということは何かしらの理由を知っているのか?)
俺が絢の顔をジッと見つめたので、気がついた絢は少し照れた様子で動揺をしている。
「な、なに、ど、どうしたの?」
「い、いや、何でもない」
俺も我に返ったようなにバタバタとしてしまう。美影に何か言われるかなと様子をうかがったが、特に気にした様子はなく俺の顔を見て「どうしたの?」といった感じで優しく微笑んでいた。
「なんでもないよ」
俺が普段と変わらないような返事をすると美影は「そう……」と答えて不思議そうな顔をしていた。
(このことは今度、美影に直接聞いてみよう、そうすればスッキリするだろう)
腕を背中側に伸ばして、空を見上げるときれいな晴天で少し汗ばんでいたが、雲は高くてすっかり秋の空だ。
「ごちそうさまでした。お腹いっぱいになったよ、とても美味しかった」
俺がそう言うと、美影と絢は嬉しそうな表情でお互いの顔を見て笑顔になっていた。
「またお弁当を持って遊びに行こうね」
「うん、そうね」
美影の言葉に絢が頷いて答えていた。
「もちろん、よしくんもだよ」
「分かってるよ」
美影が念を押すように言うので俺は笑顔で答える。それを聞いた美影は白い歯を覗かせていた。
その後は、いくつかアトラクションに乗って三人ではしゃいだりして楽しんだ。翌日には学校があるので夕方にはここを出て帰ることにした。
「楽しかったね……」
電車に揺られながら美影が俺の隣で少しだけ寂しそうに呟いた。
「そうだな……久しぶりだなこの感じは」
俺も小さい声で答える。いろいろあったけど、なんだかんだで楽しめた。
「ねぇ、あーちゃん……寝てる?」
「あぁ、そうみたいだ」
美影が再び小さい声で尋ねるので、俺が美影と反対側をチラッと見て小声で返事をする。何故なら、絢が俺にもたれ掛かるようにして寝ているのだ。朝早くから頑張ってお弁当を作ったのだろう。だから美影と俺は小声で会話をしていた。
「私も眠たくなったから寝よ!」
美影はそう言ってこてんと頭を俺にもたれ掛かるようにして寝ようとする。周りから見ると可愛い女の子が二人も寄りかかってる状態で、かなり鋭い視線が刺さってきた。さすがに恥ずかしいの起こそうとして、冗談で言っていたのかと思った美影を見ると本当に寝ている。
「……」
そのまま何も言わずに降りる駅までこの状態だった。
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