帰り道 【志保と美影の視点】
【志保side】
「ねぇ、なんの話をしていたの?」
美影は気になってしょうがないみたいで、さっきからずっと聞いてくる。
「もう……別になにもないわよ、いつもの話よ」
私が何度もそう答えるけど、美影は全く信用していない様子で困っている。確かにあの時の会話は普段と違って雰囲気も違っていた。美影が疑いを持つのは仕方がない。
「だって絶対に違うでしょう……」
疑いの表情のままの美影がじっと見ている。本当は隠すような内容ではないけど、なんとなく美影に直接言うのが恥ずかしい……
「そんなことないって、いつもと一緒だって」
なんとかこのまま誤魔化そうとしていたが、だんだんと美影の表情が不機嫌そうな顔になってきた。
(さすがに無理があるのかな……変に疑われてもいけないし……)
これ以上こじらせてもいけないと思い、このあたりで妥協することにした。
「もう……今は言いたくないの、だから後でメールする」
「えぇ〜、なんで〜」
まだ美影の顔は不満そうだが、私もここではどうしても話したくないのでいつもより強めな口調になる。
「なんにも疾しいことないし、後でメールするって言ってるからいいでしょう」
「……うん、わかった……」
私の口調に少し驚いた顔をして美影が落ち込んだように項垂れる。美影の表情を見て、ちょっとキツかったなと反省をした。
「ごめん……本当になんにもないから、心配しないでいいからね」
「うん……ありがとう……」
美影が顔を上げてくれて少しだけ笑みを浮かべてくれた。私も美影の表情を見て安心して笑顔になった。
(でも、ひとつだけ気になることがあるのよね)
それは由規との会話で最後のあたりに微妙な間があったことが気になってしまった。
(『一番大切に』って言った後の少しの間が……私の思い過ごしならいいけど)
このことは美影には伝えないようにすることにした。
【美影side】
帰宅してからすぐに志保からメールが届いた。帰り道に志保と揉めたことの内容だったが、読んでみてすぐに志保に謝りたかった。
(ごめんね……私の為に話していたのに……明日、ちゃんと志保に謝ろう)
多分まだ、志保だって宮瀬くんの事が好きなはずなのに、あの時にもう諦めたと言ってからずっと私を励ましてくれている。
私とあーちゃんには敵いそうにないからって言って……でも私だってあーちゃんには敵わないと思っていたから、よしくんから告白された時に、私もあーちゃんの代わりになれないよなんて言ってしまった。
でもよしくんは私を選んでくれた……何故なんだろうと自問自答したけど分からないままもうすぐ二学期が始まる。学校が始まると丸一日、側にいるけどそんなことを考えたりする余裕はなさそうな気がする。
(付き合い始めて一週間が過ぎたけど、あんまり実感がないよね……)
これまでと特に何かが変わったということはほとんど無い。確かにこれまで、部活関係以外の友達からは既に宮瀬くんは彼氏だと思われていたし、クラスメイトも同じような反応だった。
やっぱり今日、井藤くんに言われた時は笑ってごまかしていたけど、私が積極的にいかないと駄目なのかな……
(はぁ……本当はそんな余裕はないのよね)
小さなため息を吐いていた。でも急に変わってしまうのはおかしいし、きっとみんなから引かれてしまうから、当分の間はこのままなのかな……
後は……最近は連絡がなかったけど、あーちゃんにはなんて言ったらいいのか……正直に報告するべきなのか、このまま黙っておくべきなのか迷っている。
きっと黙っていても何処からか漏れて分かってしまうだろう。でも私の口からは付き合っていることを伝えられないけど、あーちゃんの事だからきっと良かったねって笑って言うに決まっている。
どうしよう……頭を悩ましているとメールの着信音が鳴った。送り主はよしくんで、今日の帰りの事を心配していたみたいだった。
志保とはちゃんと仲直りしたことなどを何度かやり取りをして最後に「今度は二人で行こうね」と締めくくってきた。
(もう、私の悩みも知らずに……)
嬉しい気持ちとごちゃ混ぜになりながら苦笑いをしながスマホの画面を閉じた。でも明日は笑顔でよしくんに話しかけようと決めている。私はよしくんの彼女なのだから……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます