夏の思い出 ②
その日の夜に美影から電話があった。すぐに部活帰りの志保との件だと分かった。
「ごめんね、志保が余計なことを言ったみたいで……」
美影が申し訳なさそうに話す姿が思い浮かんでくる。
「ううん、美影が謝ることないよ」
「でも……」
「志保だって、嫌がらせとかをしようとしている訳じゃないし、たぶん……」
いつもの事だと微笑しながら返事をしたが、ただ志保の目的達成の為のような気がする。
「うん……」
しかし美影の声はまだ浮かないので話題を変えてみる。
「それで何処に行くのか言っていなかったか?」
「ううんまだ、後で連絡するって……」
志保は本気で迷っているのだろう、割と即決することが多いのにまだ決まっていないとなると、少し心配になってきた。しかし夏休みは残り少ないしあまり時間もないので限られてくるはずだ。
「そうか、志保のことだからまたとんでもないことを言わなけばいいけどな」
「ふふっ、そうね、ちょっとね……」
やっと美影から微笑みが聞こえたので少し安心する。
「でもそんなに美影が志保の後始末をしなくていいんだよ」
「そんな後始末だなんて、でもね、志保は私達のことを応援してくれているからこれくらはね……」
「そうか? ただ面白がってからかっているような気がするけど」
「もう、そんなことないから、志保のことを信用してあげて」
予想外に美影の声が本気だったのでびっくりしたが、美影と志保の仲だからいろいろと気をつかうとこもあるのだろう。
美影に負担をかけてはいけないので俺も志保に対してもう少し優しく接しようと反省した。
「うん、分かったよ」
「ありがとう、よしくん」
ちょっと恥ずかしそうな口調の美影だった。美影との電話が終わり暫くすると、今度は志保からメールが届いた。
『プールに行くよ! 詳しい事はまた明日』
行き先は決まったみたいだが、肝心な日時や何処のプールなのかが記されていなかった。恐らく今頃美影と話し合っているのだろう。遅くまで俺が美影と電話していたからかもしれない。
翌日、部活が始まる前に予想通り志保から愚痴を言われてしまう。
「もう、由規達の話が長いから遅くなったでしょう」
「それは悪かったな、それで決まったのか日時と場所は?」
悪いとは思っていなかったけど、昨日の美影とのこともありここでは素直に謝っておいた。
「うん、もちろん決めたよー」
機嫌よく自信を持って志保が答えた。詳しく話を聞くと日にちは今度の部活が休みの日で、場所は少し遠い大型のレジャープールだった。予定の日は、バイトのシフトを入れていた。
(さすがに志保にバイトがあるとは言えないから休ませてもらおう)
志保に大丈夫だと返事をするととても嬉しそうな表情をしていて、詳しい待ち合わせ時間はまた美影と決めるからと言っていた。
「おっ、宮瀬、何処か遊びにいくのか?」
「あぁ、皓太か……」
いつの間にか背後にいた皓太がニヤリと笑った顔をしている。どのあたりから居たのか分からなかったが、志保の勢いに圧倒され気味だったので覇気がなかった。
「あれ、まだ練習前なのに顔が疲れてないか」
「えっ、そ、そんなことないぞ」
「何か大変そうだな……」
皓太に指摘されて気持ちを切り替えようとしたが、何故か俺の様子を見て心配をされてしまった。
「まぁ……いろいろとあるんだよ」
苦笑いをしながら返事をすると皓太は察してくれたのかそれ以上話に触れないでいてくれた。
皓太もきっと彼女と幼馴染みの間でいろいろあるのだろう、今度時間がある時にじっくりと相談してもいいかもしれない……そんなことを考えていた。
またその日の夜に美影から電話がかかってきた。また昨日の夜と同じように美影の声は浮かない様子だった。
「ねぇ、あの日でよかったの?」
「えっ、問題ないよ、何かあったの?」
バイトの予定だったのは美影は知らないはずだが……
「うん、帰りに大仏さんと会ったの……その時にね、バイトの話になって……」
いつもは美影と一緒に帰るのだが、今日に限って俺が用事があって先に帰ったのだ。それもそのバイトの件でシフトを変更してもらう為だったが、よりによって大仏に会うとは……
「それで……」
「その日がシフトに入っていることを聞いたのだけど……」
「実はそうなんだけど、今日マスターにシフトを変えてもらうように頼んできたんだよ」
「そうなんだ、迷惑かけちゃって、なんかごめんね……」
「いやそれはいいんだ、それよりも……」
「なに?」
美影は不思議そうな声をしているが、俺としてはバイトのシフトの事よりも重要なことがある。一番恐れている事……
「大仏にはプールに行くことをはなしたのか?」
「えっ、う、うん、話の流れで言ったよ、いけなかったかな……」
少し驚いた様子の美影だったが気まずそうな声で答えて、俺はそれを聞いてガックリとなっていた。
(明後日、アイツに会うんだよな……面倒な事になったな)
思わず声に出てしまいそうになったが、美影に愚痴を言っても仕方ないしまた気をつかってもいけないので平気なフリをした。
「ううん、大丈夫だよ」
「そ、そう、よかった、後は天気次第だね、楽しみー」
美影の嬉しそうな声を聞いたで安心したが、とりあえずこの件は電話の後で考えることにした。でも最後の嬉しそうな美影の声は普段なかなか見せない素の美影なのだ。俺はそんな美影をたくさん引き出してあげないといけないのだ。
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