夏の思い出 ①
先輩達との練習試合が終了して、この合宿最大のイベントでみんなの一番のお楽しみのバーベキュー大会になった。準備は部員全員でやったのでかなり早く始めることが出来た。それぞれグループになって焼けた肉や野菜を取り食べ始めていた。
「それにしても最後のシュートは凄かったな!」
隣に座っている皓太が肉を頬張りながら呟くように話しかけてきた。俺もとり皿にに肉や野菜を山盛りにして食べようとしていた。
「あぁ、もう一度やろうとしても出来ないな」
「結局、宮瀬のあのシュートで全部いいところをもっていかれたよな〜」
試合の感想を話して皓太は少し悔しそうな表情をしながら次の肉を食べ始めようとして、俺が苦笑いをする。
「まだそれを言うのかよ……」
何度も言うので、皓太は本気で悔しがっているのかと思ってしまう。
「ううん、でも鵜崎も良かったよ、パスとかすごかったし……」
「おっ、珍しく褒めてくれるな」
驚いたような表情をして志保がおれたちの座っている所にやって来た。
いきなり会話に加わってきた志保だったが、茶化すようではないみたいだ。皓太は意外そうな顔をしているが嬉しそうだ。
「なんか失礼だな、素直にすごいと思ったのにな……」
「そうか悪かったな、そんな真面目に返事をされるとちょっと恥ずかしいな」
本当に恥ずかしかったような顔を皓太がしている。あまり見ない表情なので面白いと思っていると志保が更に続ける。
「でも本当に凄いよね、あんなの見せられたらカッコいいってなるよね」
「う、うう、そ、そうか、ありがとう……」
「そうそうこの前詩織ちゃんも自慢してたよ、すごいんだよって言ってたし、うらやましいなあーー」
志保のべた褒めの言葉で皓太は完全に混乱状態になりかけている。それにしても志保があそこまで言うのには何かあるのかと疑いたくなる。
「ねぇ美影、そうでしょう……」
志保と一緒に来ていた美影は困惑気味な表情だ。何故か志保は美影を煽っているような気がする。ここに来る前に何かあったんだなと察したがとりあえず様子を見ることにした。
「ううん……そうね、鵜崎くんも凄かったね」
「あれ、美影はそうでもないみたいねーー」
確かに志保の言う通り、美影の表情は微妙な感じだで、何故か少し不満そうな顔だ。
「だって私の彼氏だって凄かったでしょう……」
「……⁉︎」
志保はしてやったりの表情している。俺は、一瞬動きが止まって、隣で志保の賞賛で混乱していた皓太が息を吹き返すように反応した。
「なんて言ったのかな山内、今、確か私の彼氏とか言ってなかったか?」
皓太は、俺と美影の顔を交互に見ると笑みを浮かべた。美影は恥ずかしそうに顔を赤くして俯いている。
「……」
「宮瀬、報告がなかったけど、どう言うことか説明してくれよ」
「ははは、こう言うことか志保……相変わらずやってくれるよな……」
やられたと思って開き直った俺は志保に視線をやると、知らん顔で皿にある肉を食べている。皓太がガッチリと肩を組んで逃がさないようにしてきた。
(結局こうなるのかよ……)
俺は項垂れるようにして皓太から事情聴取のように昨日の事を聞かれることになった。皓太はともかく志保もガッツリと話に加わってきたので昨日の事は美影も詳しく話していないようだった。
さすがに俺もいろいろと聞かれて恥ずかしいので終始俯いたまま二人の質問に答えるだけだった。志保の隣に座っていた美影は、俺にごめんねと合図をしてばつのわるそうな顔をしていた。
志保と皓太からはバーベキューが終わるまでこの話題だったが、途中から美影も落ち着いたようで話に加わり楽しい時間を過ごすことが出来た。
翌日の他校と練習試合も勝利して無事に何事もなく合宿は終了した。
それからは、特にイベントなどもなく普段と変わりなく過ぎた。ほぼ毎日、部活があるので美影とは顔をあわせていたし、メールとか電話で話もしていた。部活がない時はバイトに出ていたので夏休みの当初に志保が言っていたように遊びにいくことは出来ずじまいだった。
夏休みも残り少なくなってきたある日の部活終わりに志保に呼び止められた。
「ねぇ、由規……」
「はい……」
志保の口調がいつもに増して強そうで尚且つ機嫌が悪そうなので俺は身構える。
志保が予定していたことが出来ていないから八つ当たりだろうかと思っていた。
「美影とあれから一度くらい出かけたりしたの?」
「えっ、美影と出かけたかどうか……」
志保の意表を突かれた質問にたじろいでしまう。美影との事だとは思っていなかった。
「まさか……」
「うっ、そ、そのまさか……です」
「やっぱりね……」
志保は呆れた感じでため息を吐き項垂れる。俺は言い訳をすることはせずに様子を見ていると、志保は頭を抱えるようにして俺を見上げる。
「……」
「まぁ、予想はしていたけど……由規だけが悪いわけではない……でもね」
志保が言わんとすることは伝わってくる。俺は何も言うことが出来ずに黙って俯いていると、志保が諦めたような表情をしていたが何か閃いたような表情に変わる。
「もう仕方ないわね、これまで気をつかって二人を誘わなかったけどこのままでは私の気が済まないから、三人で遊びに行こうーー!」
「はぁーー?」
突然のことで俺は全く理解が出来ないが、志保は俄然やる気の顔をしている。俺が会話の前に予想していた事がまさに現実になろうとしていた。
「もう決定だよ、行き先は……うん、私が決めるから、分かったわね!」
志保の勢いに圧倒されて俺は頷くことしか出来なかったが、最後に思わず笑みが溢れてしまった。
(久しぶりだな、この感じ……近頃、志保は大人しかったからな)
満足気な表情をしている志保を見て、少しだけ不安もあるがもうこのまま任せておこうと思った。
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