バスケ部夏合宿 ⑥

 昼を過ぎてからの体育館は暑いけど、今日は更に熱気がすごい……久しぶりの本格的な練習試合が始まろうとしていた。

 反対側のゴール下では、バスケ部OBと現三年生がシュート練習をしている。OBの中には、俺達が一年の時のキャプテンとレギュラーだった先輩がいて、三年生の中には前キャプテンの橘田先輩とこれもまたレギュラーだった先輩が来ている。


「この試合、勝てると思うか?」


 隣にやって来た現キャプテンの長山は不安そうな表情をしている。昨年も同じように試合をしたみたいだが、俺は参加していないのでどんな感じだったのか分からない。


「勝てるかどうかと言われてもな……昨年はどうだったんだよ」

「あぁ、かなり盛り上がったぞ……お互いのチームが集中して公式戦と遜色のない試合だったぞ」

「ガチの勝負ってことだな……」

「そうだな、舐めてかかると大変だぞ」


 話には聞いていたが、本番の大会と変わらないぐらい気合いでやらないといけないようだ。だから先程からある変な緊張感はこの為だ。

 橘田先輩も「久しぶりだけど、遠慮なくいくからな」と笑顔で話しかけてきてくれた。先輩達も楽しむと言うより本気で試合に臨むみたいだ。


「頼むぞ宮瀬、お前の調子次第で違ってくるからな」

「そんなこと言われてもな……」


 俺は頭をかきながら苦笑いしているとコートの端で試合の準備をしていた美影と目が合った。声には出さなかったが、「がんばってよ!」という感じの仕草をしている。

 俺も頷いて返事をしたが、予想以上の盛り上がりにいい加減なプレーは出来ないと肌身に感じた。


 俺達の現役チームのスタメンは、いつもの長山と皓太と俺の三人とこの前の一年生大会で中心メンバーだった二人になった。先輩達のOBチームは、橘田先輩や川崎先輩とそうそうたるメンバーだ。


「もうあのスタメンは反則だろう」


 試合前の整列でも隣りにいる長山はボヤいていたので俺は困ったような顔で笑うしかなかった。試合開始から、立て続けに得点をされてしまい先輩達からの洗練を受ける。


「なんであんなにパスが通るんだよ」


 皓太がドリブルをしながら愚痴をこぼす。確かに皓太の言う通りで何処かで練習をしていたのかというぐらいチームがまとまっている。


「これは冗談抜きで本気を出しても勝てないぞ」


 俺がポツリと独り言のように言うと皓太もそう感じたようで大きく頷いていた。

 しかし俺達もただ攻められだけではない。ガードの皓太が本領発揮と言わんばかりに俺達が驚くようなパスが連発して試合を進めていった。

 俺もそのパスに応えるようにシュートを確実に決めていった。時には先輩達と激しくぶつかる事もあったが、負ける事なく得点を重ねた。


「かなりの接戦だよな……」


 ハーフタイムになり長山が予想外の途中経過だったようで驚いた表情をしている。


「みんなが頑張ったからだ、特に皓太がな……」


 俺は得点板を見ながら答えて皓太を見るとさすがに疲れたようで頭からタオルを掛けて俯くように座っている。俺達の会話に加われないぐらい疲れているようだ。


(後半はダメかもな……)


 そう思っていたが、ハーフタイムが終わり後半の開始前に皓太が張り切った様子で俺に声をかけてきたのでかなり驚いた。

 そして後半もハーフタイム前とほぼ変わらない運動量で皓太は活躍をする。その姿に刺激されるように俺も負けじとシュートを確実に決めていった。


(やっぱり皓太は凄いな、中学の時に一緒に出来たら県大会ぐらい出られただろうな……)


 シュートを決めて自陣に戻る時に皓太の後ろ姿を見ながら中学時代のチームを思い出した。


 得点は一点差で終了間近にマイボールになり皓太からゴール下にいる俺へ絶妙なパスがはいる。今日一番と言っていいぐらいのパスだった。


(これは外す訳にはいかない)


 シュート態勢に入るがもちろん先輩達も必死にブロックにきた。

 フェイクをかけてブロックをかわしてシュートを打とうとした瞬間にもう一人ブロックにくる。先輩達も負けじと最後の力を振り絞る。

 シュート態勢に入っていたが、無理やり態勢を崩しながら一か八かでシュートを放つ。

 自信はなかったのでシュートを放った態勢で倒れなが入ってくれと祈っていた。

 ボールがリングの淵に当たるところまで確認が出来たが、そのまま倒れたので最後まで見届けられず、終了のブザー音が聞こえた。


「やった――!」


 長山や皓太達の大きな歓声が聞こえた。


(入ったか……良かった)


 俺は倒れたままの態勢で天井を見上げていた。倒れた所が良かったのでどこも痛みもなく無事だったが、すぐに立ち上がれるほどの力はなかった。

 すぐに美影が血相を変えて走って俺の所に駆け寄ってきた。


「宮瀬くん、大丈夫?」


 かなり慌てたような表情の美影に俺は少し恥ずかしくなる。


「だ、大丈夫だよ、たいしたことない」

「えっ、で、でもあんなに激しく倒れて…」

「大丈夫だって、上手いこと倒れたから」


 俺が笑顔で返事をするとやっと美影は安心したようでホッとした表情をしていた。


「最後は宮瀬が全部持っていくな――」


 美影の後ろで見守っていた皓太が笑顔で俺に手を差し出してきた。俺はガッチリと皓太の手を握り、皓太が引っ張るようにして俺を起こしてくれた。


「ありがとう、最高のパスだった」

「そんなことない、最後のシュートを決めたお前が凄いさ」


 お互い笑顔でもう一度握手を交わした。先輩達も一様に「やられたよ」と笑顔で声をかけてくれた。でももう一度同じプレーはきっと出来ない、それだけ無我夢中で自然に体が反応した感じだった。

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