バスケ部夏合宿 ④
自主練が終わり、入浴を済ませて今日一日の予定は無事終了した。
現在は消灯時間が過ぎているが、寝ているのは数人でまだ大半は起きている。さすがに疲れている奴がほとんどなので部屋の中で雑談をしていた。
俺も初めはその輪の中にいたが、昼間の出来事や皓太の話が気になっていたので話半分しか聞いていなかった。
「ちょっと外の風に当たってくるわ」
少し気分を変えたくて、一人で外に出ることにした。昼間ほどの暑さはなくなっていたので、風通しがいい階段に座ることにした。
(どのタイミングで美影と話せばいいのかな……)
一人になりやっと考えることが出来そうだが、あまりゆっくりと悩んでいる訳にわいかないだろう。悩んでいるだけだと同じことを繰り返すだけだ。
(呼び出したりするの不自然な気がするし……)
普段から美影が身近な存在なだけに、改まって話をする機会を作るのにこんなに悩むとは予想していなかった。
(難しく考え過ぎなのか……皓太にもう一度相談したほうがいいかも)
一つ大きくため息を吐いた。
(ほんとダメだな、情けない)
そう思いながら両手をついて夜空を仰ぎ見ながらもう一度大きなため息を吐いてそのまま星を見ていた。すると俺の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
「もう……宮瀬くん、何度も呼んだのに返事をしてくれないんだもん」
「あっ⁉︎」
誰だろうと思い正面を向くとムッとした顔の美影が立っていたので驚いてしまった。頭が真っ白になり何も反応が出来ないでいると隣に美影が座ろうとしていた。
「隣りに座ってもいいかな……ふふふ、もう座ってしまうけどね」
茶目っ気な笑顔で美影がちょこんと座るとお風呂上がりのいい香りがしてきた。
もともと美影のことを考えてようとここに座っていたので、何気なく隣に座った美影のせいで頭の中がぐるぐると回りただでさえ悩んでいたのにさらに拍車がかかりそうになる。
「ねぇ、何でこんなところに一人で座っていたの?」
黙ったままで俺の反応がないので、不思議そうに美影は首を傾げている。
階段の幅があまり広くないので美影とは間が空いていなくて肩が当たるぐらい接近して俺は焦りまくっていた。
さらに首を傾げている美影の表情が可愛いらしくて頭の中は混乱したままで、なかなか返事が出来る状態ではなかった。
「ねぇ、何で黙っているの? どうしたの?」
美影の顔から笑顔がなくなり、心配そうな表情になってしまう。
さすがにこのまま黙ったままだといけないと思い、出来るだけいつも口調で答えようとした。
「ご、ごめん……ちょっと考えごとをしていたんだ、大丈夫だよ……いつも心配させてごめんな」
「ううん、そんなことないよ……よしくん、なんか謝ってばかりだね」
安心したのか、美影は優しい笑顔になり、やっと俺も落ち着いてきた。
(うん、このタイミングしかないか、これを逃したらまたいつもの繰り返しになる)
頭の中と気持ちが一致した、今しかない……
「美影、いきなりだけど、話を聞いて欲しいんだ」
「えっ、な、なに……」
真面目な顔をして真直ぐに美影の顔を見ると、戸惑った表情を美影がしている。二人の間に緊張した空気が流れる。
「今日、皓太から昨年の怪我をした後のことを聞いたんだ、皓太が入部したきっかけとか、それ以外の話も……」
「うん……」
ゆっくり落ち着いた口調で話すと美影は一瞬驚いた表情になったが、黙って静かに頷いて俺の話に耳を傾けている。
「正直、驚いたよ……まさか美影がそんなに積極的に行動していたなんて……でもそのおかげで今の俺がある」
「……そんな大げさだよ、ただよしくんにもう一度戻ってきて欲しかっただけ……」
美影は遠慮気味に首を横に振り、恥ずかしそうな表情で答えた。そんな美影の表情を見て感謝の気持ちしかない……
「それだけじゃないよ、これまでもたくさん手助けしてくれたし、部活以外でも楽しい時間を過ごすことが出来ているのは美影のおかげだよ」
「う、うん……」
「この学校に入学する時に悩んだりもしたけど、今は良かったと思ってるよ」
「……」
美影は俺の言葉を聞いて小さく頷いているが、黙ったままで何故か不安そうな表情をしている。美影の顔を見て俺も少し不安になってきた。
(なんか変なことを言ってしまったかな、大丈夫だよな……)
さっきまであった気持ちに自信がなくなりそうになり弱気になってきた。次の言葉が出ずに黙って俯いてしまい、美影も俯き加減だ。
周囲では虫の鳴き声が響いていて時間としてはほんの少しだが長い無言の時間に感じた。
「……やっぱりダメなのかな……わたし……」
沈黙を破った美影だったが今にも泣き出しそうな雰囲気になっていて、俺はなにが起こったのか理解出来ずに焦ってしまう。
「ど、どうしたの突然、ダメってどういうこと、俺は……」
「ううん、だってもう終わりみたいな言い方で……わたしは、あーちゃんの代わりにはなれないんだな……」
「えっ、そんな絢の代わりなんて……そもそも一度もそんなことを考えたことはないよ、美影はみーちゃんで、俺が今、大好きで一番大事な人は目の前にいる美影だよ」
「ほ、ほんとうに……」
俯いていた美影が俺の顔を見上げて表情が明るくなったが、目には今にも涙が溢れそうになっている。
絢の名前が出てきて驚いたが、今現在の俺の素直な気持ちを美影に伝える。
「本当だよ、美影が大好きだよ」
自信を持って頷き、笑顔で美影に答えた。
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