バスケ部夏合宿 ③

 その後の練習は、皓太から指摘されなかったので多分問題なかったのだろう。

 練習が終わった後には夕食の時間だ。昨年は、美影と志保は合宿が初めての経験だったのでこの食事の時間が昨年は大変だったみたいだ。

 今年は二年目で後輩もいるので段取りよく食事の時間を終わることが出来たようだ。美影達はみんなの満足した様子を見て、安心した表情をしていた。

 夕食後は自主練の時間になって、体育館の全面が使用出来るようになっていた。個人でトレーニングをしたり、数人で二対二や三対三で実戦的な練習をしたり各々がいろいろな練習をしていた。

 俺は皓太に練習相手を頼んでいた。これからのチームは、皓太がボールを運んで組み立ていくポジションになる。実際、皓太とはこれまでの試合で同じ時間に出場する機会があまりなかった。この前の県大会が試合では初めてだった。


「さすがだな、皓太のパスは正確でキャッチしやすい」


 俺は皓太からパスを出してもらい、いろいろな角度からシュートを放っていた。


「そうか、でもまだまだ精度が上がってないからな……」


 首を横に振り皓太は不満そうな表情をしているが、パスを受ける俺は全然そう思わなかった。結構な本数のシュートを放ったので、一息入れることにした。

 皓太と二人で体育館の開放している扉に移動して、涼めそうな場所に座り込んだ。


「そうだ、宮瀬……お前に話しておこうと思ってな……」

「な、なんだよ突然」


 俺は驚いた顔をしたが、皓太はどちらかというと迷っている表情をしていた。


「本当は黙っててと言われていたんだけど、ちょうど良い機会だし、宮瀬の決断のきっかけになればいいかなと思って話すことにするよ」


 珍しく皓太が真剣な顔で話すので、俺はとんでもないことを言われるのか不安になったが、黙って小さく頷いた。


「今、俺がここにいるのは宮瀬とあの約束をしたからだけど、約束をする前からある人物に部活の勧誘されていたんだ」

「えっ、そうなのか……」


 俺はその話は全然知らなかった。入学してから何度か皓太には部活に入らないかと話をした。同じ中学で部活が一緒だった奴はいないし、皓太の過去の事を知っている人物もバスケ部にはいないはずだ……大仏がいるが詳しい話は知らないしそもそもそんな事はしない。

 誰だ……と考えていたら一人だけ思い当たる人物がいた。そう……一年の時もクラスメイトでマネージャーの美影だ。


「おっ、誰か分かったみたいだな」


 俺の反応を見て笑みを浮かべ皓太が話す。だが美影が勧誘していたのとどう関係があるんだと不思議に思う。


「でも何でそれが……」

「あぁ、何度か勧誘されていたが断っていたんだけど、ちょうど一年ぐらい前かな……」

「あっ、あの頃か……」


 一年前といえば悪化した腰痛で部活をさぼり気味で退部をしようかと迷っていた頃だ。


「たまたま詩織と夏休みに学校へ来ていた時、山内がやって来たからいつものように勧誘するのかと思っていたら違ったんだよ」

「……どう違ったんだ」


 俺は全く予想がつかなかったし、そもそも美影の行動に驚いていた。


「お前を復活させる為に助けて欲しい、もう一度バスケをして欲しいって懇願されたんだ」

「えっ……」

「一緒にいた詩織からも同じような事を言われていろいろと迷ったが、ここまで山内に慕われた宮瀬の為にと思って、お前とあの約束をしたんだよ」

「……」


 俺は黙ったままで返事が出来なかった。

 美影なりにいろいろと考えたのだろう、きっと美影にとって凄く大胆な行動に違いない。あの当時は美影は皓太とほとんど面識がないのだから驚きだ。


「その後も石川にもいろいろとアドバイスしていたぞ、宮瀬のリハビリについて」

「……」


 一年前の事が頭の中を駆け巡り、俺は依然黙ったままで体育館の外の虫の音がよく聞こえる。

 確かにあのリハビリはよく考えられていたし、今考えると志保には悪いが一人で計画するには無理な気がする。


「一年の頃から山内はずっと宮瀬を陰ながら支えてきてたんだよ……もちろん今もだけど」

「……」


 皓太は最後に笑みを浮かべながら俺を顔を見るとこれまで以上に真剣な表情になる。


「だからそろそろ山内の気持ちに答えてやれよ、確かに中学時代の事もあるが、今が大事だろう……」


 大きな声ではなかったが、強めの口調で皓太は俺の肩に手を乗せて訴えてきた。皓太の気迫に少し押され気味だったが、やっと声を出して返事をした。


「そうだよな、また同じことを繰り返してしまうよなこのままだと……」

「いい加減に前に進めよ……いくぞ」


 俺の返事に皓太が何度か頷きやっといつもの笑顔に戻ると、立ち上がりさっきまで練習をしていた所に戻ろうとしていた。


「あぁ、分かった……」


 そう返事をしたがすぐには立ち上がることが出来なかった。でも皓太に言われたことでこれまでにはない決意が出来たような気持ちになった。少し心の中にあった重石がなくなったような気がした。


(よし、行くか)


 声には出さなかったが、立ち上がり先に行った皓太の所へ走って向かった。

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