球技大会と夏休み ④
練習が終わり、今日は特別に疲れたような気がした。あの後、美影とは顔を合わせていない、というより合わせることが出来なかった。帰りも鉢合わせにならないように早めに自転車置き場に向い下校しようとしていた。
(明日の朝はどうしよう……)
明日からは通常通りの授業が始まるので、教室で必ず顔を合わせることになる。
(うん、一晩経てば落ち着くだろう……)
あれこれ考えても仕方がないので、とりあえず今日は足早に帰ることにした。
(でもこのままでは……)
何かしらの結論を出さないといけない時期になってきたのは分かってきた。
翌日、結局心の準備をする暇もなく教室に入ると運悪くすぐに美影と出会ってしまう。
「お、おはよう」
「あっ、おはよう。もう今日は大丈夫?」
「えっ、何で?」
「だって昨日はなんかすごく疲れてたみたいだから」
いつもと変わらない様子で美影が俺の体を気遣ってくれていて、変に意識していた俺は少し恥ずかしかった。
「あぁ、問題ないよ、部活もちゃんと参加する」
「良かった……それでね」
美影の様子が少し変わった。何か俺の返答におかしなところがなかったか考えたが特に思いつかない。
あまり気にし過ぎないように感じで美影に聞き返す。
「それで、なに?」
「うん……花火大会のことなんだけどね」
美影は恥ずかしそうに顔を赤らめて、その表情を見て俺も緊張してしまう。
「そ、そう言えばもうすぐだったね……」
花火大会を忘れていた訳ではないが、今日のこのタイミングで聞かれて、昨日の部活での出来事を思い出し恥ずかしくなってしまった。
「駅前に、四時でいいかな?」
「分かった、四時だな」
「うん、遅刻しないでね」
そう言って美影は一安心したよう表情で志保がいる席に軽い足取りで戻っていった。志保は俺と美影の会話を見ていたようで満足そうな顔をして喜んでいる。美影が戻ると志保と二人で楽しそうに会話していた。
俺は自分の席に着き鞄を下ろしながら不意に思い出した。
(絢達が来ることをまだ美影からは聞いていないな……)
わざと言わないのかそれとも単純に伝えたつもりで忘れているのか、美影の真意は分からないままだ。みんなでイベントに遊びに行くのは単純に楽しみだけど、何かが起こりそうな気がして不安な気持ちが強かった。
週末は、一年生大会があるので、俺達二年生は部活が休みだった。来週には花火大会に行くので、少しでも小遣いを稼ごうといつもの店でアルバイトをすることにした。
しかし考えが甘かった、本来ならいるはずの大学生のアルバイトが試験とかで休んでいてその代わりが大仏だった。
「最悪だ……大仏、何か企んでいたりしないか?」
「はあ⁉︎ なにが最悪よ。アンタが何かやましいことがあるからそんなことを考えるじゃないの?」
「うっ……な、なにもないけど……」
大仏の鋭い言葉にまともに返答することが出来なかった。俺の様子を見て大仏は勝ち誇ったような顔で仕事を始めた。仕事を始めた大仏の後ろ姿を見て、俺はなにも起こらないことを祈っていた。
午前中から昼頃まで特に何もなく淡々と仕事をこなして安心していた。美影と志保にはアルバイトのことを話していたが、二人とも別々の用事があるようで来店することはない。しかし油断は出来ない、絢達が来る可能性はあるからだ。
お昼のピークも過ぎて、大仏と交代で休憩を取る。先に大仏が休憩にあがり、入れ替わりで俺が休憩をとった。
休憩が終わり店内に戻ると大仏が親しそうに会話をする姿が見えた。店内はお客さんがほとんどいない状態なので、問題ないみたいだ。誰と会話をしているのか俺がいる場所からは分からなかったが、気にすることなく裏で片付けをしていた。暫くして大仏がイラついた表情をして俺のところにやって来た。
「ちょっと、ボサッとしてないでこっちに来なさいよ」
返事をする間もなく俺の腕を掴むと強引に引っ張り、大仏が会話をしていたテーブルの所まで連れて行かれた。その席には白川が座っていた。
俺は慌てて周りを見渡し絢がいるのかどうか確認をしていると白川が声を掛ける。
「今日は来ていないわよ……」
呆れたような声で白川が俺の顔を見ていた。俺は安堵した気持ちと、白川に慌てた様子を見られて恥ずかしい気持ちで複雑な感じで立っていた。
大体なんで大仏がここに連れて来たのかよく分からない状況だったが、白川の表情が厳しい顔になり何となく状況が理解出来た。
「宮瀬くん、今度の花火大会のことなんだけど……」
「分かってるよ、このままじゃいけないことは、だからちゃんと返事はするつもりだけど……」
「……そう、分かってるのよね……」
「あぁ……」
本心はまだ揺らいでいる。もう暫く絢と美影とはこの状態でもいいかなと思っていたのだが、今のこの状況ではこう答えるしかない。大仏にはめらたような感じだが、返事を聞いた白川は俺の心を見透かしたようで疑いの目をしていた。あまりに重たい空気で俺はいたたまれなくなり、この場から逃げ出したくなった。
「私も絢と一緒に行くから、宮瀬くんの答えを見届けさせてもらうわ」
「……」
「絢と山内さん、そして宮瀬くんの問題であって、私は別に何も言わないわよ。心配しなくても……」
白川は厳しい表情からやっと微笑して俺の顔を見ているが、俺は硬い表情のままで微妙な気持ちだった。その後の仕事はあまり身に入ることなく終わった。白川に追及されたことでこれまで考えないようにしてきた絢と美影が一緒にいる場合での状況を頭の中でシュミレーションをしていた。
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