花火大会 ①

 週が明けて月曜日の放課後、一年生が気合いを入れて練習に取り組んでいた。週末にあった一年生大会が二回戦で敗退という結果だったことが原因のようだ。


「み、宮瀬……もうちょっとやる気出してくれよ、しめしがつかん……」


 長山が頼むからといった表情で見つめているが、俺はいつもと変わらないつもりで練習しているのでかどがたたない程度否定する。


「いつもどおりで、そんなことはないけどなぁ……」

「いや、明らかに違うぞ……いつもとは」


 長山は隣にやって来た皓太に同意を求めるように話しかけて、皓太が大きく頷いている。


「仕方ないさ、今日一日こんな感じだぞ」


 皓太が半分呆れたような表情で長山に返事をしていた。俺は「そんなことはない」と再び二人に否定したが、皓太が長山に耳打ちして何か納得したような顔で頷いて、諦めた表情で練習に戻っていった。


「そんな調子で大丈夫なのかよ……週末の花火大会でまともに会話できるのか?」

「えっ、な、な、なんのことだ……」


 皓太が何故花火大会のことを知っているのか疑心暗鬼になっているとと、皓太は大きなため息を吐き話し始めた。


「何で俺が知っているのかって顔をしているけど、そんなことはどうでもいい、それよりも多分勝負してくるぞ……」

「はぁ? 勝負? どういうことだよ」


 皓太の言葉の意味が理解出来ずに首を傾げていると、再び皓太はため息を吐き今度はかなり深刻そうな顔になる。


「この前の球技大会で山内とお前のことを話してなんとなく予感がするんだよ」

「えっ……」

「あぁ、勝負って言い方はおかしいかな、まぁ、この花火大会で山内は多分お前に……」


 皓太の表情でなんとなく雰囲気的に薄々感じてはいたが、出来るだけ考えないようにしていた。

 でも皓太がこうやって言うぐらいだからほぼ間違いないだろう。もうこれ以上はぐらかしても仕方ないので小さく頷いた。


「……皓太にも分かるか……」


 返事を聞いた皓太が苦笑いをしている。


「これ以上、俺は何も言わないよ、後は宮瀬がどう返事をするかだけだ」


 そう言って皓太は励ますように俺の背中を軽く叩き練習に戻った。俺は手にしていたボールをつき始めて、ぼんやりとコートの端で志保と会話している美影を眺めていた。すると俺の視線に気が付いた美影が不思議そうな顔をして俺を見ている。


「なんでもないよ」


 声には出さなかったが口を大きく動かして知らせると美影は理解したようで微笑みながら頷いていた。その後の練習も長山や皓太に半分からかわれたように声だけかけられいまいち練習に身が入らなかった。

 その日の夜の遅い時間に、スマホの通話の着信が鳴ったので見てみると美影からだった。普段ならメールとかで連絡してくるのにわざわざ電話をしてきたので少し慌てしまう。


「ど、どうしたの?」

「ごめんね、こんな時間に……もしかしてもう寝てた?」

「ううん、まだだよ……な、なにかあったの?」


 美影の口調からして何かあったような感じではなかったけど、やはり直接話をしてくるには何かあるのだろうと思っていた。


「うん、ちょっと気になってね……」


 予想に反して美影から不安そうな言葉が出てきたので動揺してしまう。


「えっ、な、な、なに?」

「ううん、今日の部活で、私と目があった時はなんでもないて言ってたけど、今日一日やっぱり変だったよ……」


 皓太が言っていたぐらいだから、美影に言われて当たり前だ。だけどその原因のひとつは美影にあるのだが、もちろんそんなことは言えないので返事に迷ってしまう。

 しかしこれ以上心配させるのは良くないし、でも本当のことは言えないし……とりあえず心配だけさせないようにしようとした。


「もう本当に大丈夫だ、問題ないよ……ごめんね、心配かけて」

「今度こそ、本当だね」


 美影は強めの口調で確認してきた。もしかして少し怒っていたのかと反省して、安心させる為にも落ち着い雰囲気で返事をする。


「うん、明日はいつもどおりだ、約束するよ」

「分かったわ……」


 決して納得したような感じではないが、美影はこれ以上聞いてはこなかった。それから少しだけ話をしたが、終わる頃にはいつもの美影と変わらないような気がした。しかし花火大会のことには何も触れなかった。


「また、明日な」

「うん、おやすみ、よしくん」

「あぁ、おやすみ」


 スマホをタップして通話を終了するが、美影の予想外の一言に顔が赤くなるのが分かった。少し反則のような気がした。

 落ち着いてから部活で皓太が言っていたことを思い出し考えていた。


(もし美影から告白されたら……どうすればいいのか)


 もちろん美影は俺にとって大事な人だし、もったいないぐらいで彼女としても完璧だと思う。

 いま現時点では美影以上の彼女はいないと言っても過言ではないし、断る理由は全然ないはずだ……でも心の奥底にある何かが引っかかっている。

 そして何故、美影は絢が来ることを言わないのか……考え始めたらまた頭の中が混乱してしまいそうだ。


(ダメだ……これでは今日一日と同じことを繰り返してしまう……)


 いくら考えても今のこの状態では答えは出ない、出るわけがない……もうやめよう、当日になるようにしかならい……

 結局、俺は答えを出すことが出来ずに花火大会を迎えそうな気がした。

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