球技大会と夏休み ③
二日間あった球技大会は無事に終了したが、俺達のクラスは優勝が出来なかった。
男女共に決勝戦までいったがあと一歩及ばなかった。男子チームは、組み合わせが良く決勝まで進めたが最後にコテンパにやられてしまった。
しかし女子チームは、初戦に活躍していた美影がそれ以降の試合でも大活躍で勢いそのままに決勝に進出した。
最後の決勝戦は体育館であり、他の学年も観戦していた。二年生の決勝は先に男子チームがあったので、試合に負けた俺達は女子チームを応援しようと体育館に残っていた。
一年生の恵里は、俺達を応援する為に来ていたようで恵里の試合が終わった後に会いに来たようだ。
「センパイ、お疲れ様でした。残念だったけど、相変わらずカッコいいですねぇ」
「ありがとう、でも負けてしまったからなぁ、褒めたって何もないぞ」
恵里はいつもの明るい調子で話しかけてくるので、試合の後で疲れていたが笑顔で答えていた。しかし恵里は相変わらず目立つのだ。周りは殆どが二年生なのだが、物怖じしない性格でスタイルもいいから周りの男子達から冷たい視線が俺に降り注いでいた。二年生の女子達は逆に恵里に注目している状況だ。
「あれ、山内センパイは?」
「どうしたの、美影に用事でも」
「ううん、用事ではないけど、なんか凄い活躍してるんでしょう、私のクラスのバスケ部男子が言っていたのよ」
「あぁ、そういう事か、一年なら驚くだろうな、普段の部活のマネージャーの姿からは想像出来ないだろからなぁ」
腕組みをしながら頷いていると、恵里もおそらく想像出来ないようで疑いの目をして俺を見ている。
「本当なんですか……」
「本当だぞ、ただかなり疲れが残っているみたいだから昨日のような活躍は出来ないかもな……」
いくら運動神経が良くても、美影はバスケ部の筋トレに同行しているが、実際に筋トレをする訳ではないから体力があるわけではない。
「なるほど……さすがセンパイのカノジョだけありますね」
「な、な、なんでだよ……」
恵里が少しだけ拗ねたような表情で俺の顔を見るので焦ってしまい、カノジョとか言っているし……
「仕方ないさ、誰が見てもそう見えるんだ……」
「えっ……いつ戻って来たんだよ」
振り向くと皓太が隣りで当たり前のような顔をしてため息を吐きながら呟いた。
恵里は俺が焦っているのをよそに皓太を見て納得したような顔で頷いている。
「皓太センパイの言う通りですよ、まぁ皓太センパイも人のこと言えませんがねぇ」
恵里にそう言われて、皓太は焦り素知らぬ顔をしていたので思わず鼻で小さく笑ってしまった。
三人で会話しているうちに試合が始まり、恵里は美影の姿を目の当たりにする。初めのうちは美影のプレーに驚いたような表情をしていたがだんだんと慣れてきて割と本気で応援をしていた。
しかし予想通り美影はこれまでの疲労もあるようで前日のようなプレーはなかなか出来なかった。それでも恵里は必死になって応援していて、美影もその声に気がついていたみたいで負けじと頑張っていた。
結局、美影達女子チームは接戦の末、敗れてしまった。試合が終了した後に美影は恵里にお礼を言いに来た。
「ありがとうね、枡田さん」
「いいえ、山内センパイ。意外とやりますね……」
「ふふふ、どういたしまして。でもさすがにこの試合は全然ダメだったわ」
「そんなことないですよ、さすがはライバルですねぇ」
いつもになく恵里は美影を褒め称えているような気がする。美影も少しだけ怪訝そうな表情をしたが、恵里が素直な顔で感心しているのを見て笑顔になっていた。
「応援ありがとう、よしくん」
美影は優しく微笑み俺にだけ聞こえる声でそう言ってクラスの女子達の輪に加わっていた。
その時の美影の表情にハッとして俺は動きが止まってしまった。どのくらい止まっていたのか分からないが、隣にいた恵里が肘で横腹を結構な力で小突いて我に帰った。
恵里を見ると何も言わなかったが本気で拗ねた顔をしていた。俺が話しかけようとしたら、恵里を呼ぶ声が聞こえてきた。恵里は「またね、センパイ」と言って頭を下げて呼声がする方向に走っていったが、いつもの後ろ姿と違うような気がした。
「お前は罪作りな奴だな……」
恵里との様子を見ていた皓太が渋い顔をしながら肩を組んできた。
「そ、そんなことないぞ」
「はぁ……」
慌てて否定をするけど、皓太は俺の頭を軽く叩きながら大きなため息を吐きクラスメイトのいる所へと移動した。俺はすぐに皓太の後をついて行った。
放課後は、通常通りに部活があった。球技大会で疲れているからと軽めの練習だったが、一年生は週末に大会があるので俺達とは目の色が違ってちゃんと練習をしていた。
俺はあまり練習に集中出来ずに体育館の外で座って休んでいたが、今日に限って注意はされなかった。
一年生の練習を眺めながら球技大会での出来事を思い出していた。この二日間、美影は大活躍で一躍有名になった。それと同時に美影の彼氏だと俺の名前があがっているのを耳にした。
周りから見ればやはりそう見えるのだろう……そんなことを考えていた。
「美影のカレシか……」
「えっ、私の彼氏⁉︎」
俺自身は全く声に出した気はなかったが、不意に聞こえた美影の声に驚き、更にその言葉に顔が熱くなってしまった。振り返ると顔を赤くした美影が立っていた。
ついさっきまで向こうにいたはずなのに、何故ここにいるのか全然予想外だった。二人共に一時無言のまま向い合っていた。
「……どうしたの?」
一つ息を吐き落ち着いて美影に話しかけると美影も少し落ち着かせようとしていた。
「う、うん、体調でも悪いのかなと思って」
俺が外で休んでいたのを勘違いして美影は心配になり様子を見に来て、ちょうどタイミング悪く俺の呟きを聞いてしまいお互いに気まずくなってしまったようだ。
「だ、大丈夫だよ……」
「そ、そうなら良かった……」
「う、うん……」
微妙な空気が流れている。美影は恥ずかしさを我慢したような表情で確認してきた。
「さっき、私の彼氏……そう言ってなかった?」
「う、うん、き、聞こえたみたいだな……変なこと言って、ごめんな」
俺は俯き加減に答えて頭を下げて謝っていたが、美影は慌ててたように首を振り否定している。
「そ、そんな謝らなくても……わ、私だって……」
美影が何か言いかけたタイミングで、長山が集合の合図をする。二人共その声に反応して顔を見合わせて美影は少し残念そうな顔をしたがすぐに元の表情に戻り、俺に戻るように促した。
美影の表情が気になったが、俺は頷き二人でチームメイトが集合している所へ移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます