球技大会と夏休み ②
俺の隣りにいる美影は皓太の感心した表情を見て不思議な顔をしている。
「鵜崎くん、なにか私変かな?」
突然美影から話を振られて皓太は驚いて苦笑いをしている。
「いや、別に変とかではないよ……ただ山内は凄いなぁと思ってね」
「私が凄いとは、どういうこと?」
美影は皓太の言葉の意味が理解出来ないという顔をして俺を見る。
俺も皓太が何に対して凄いと思っているのか分からない。
「なんて説明したらいいのかな……」
返事が途中で止まってしまい俺の顔を見てから困った顔をして皓太が悩んでいる。皓太の困惑した顔を見て美影は微笑んだ。
「ふふふ、鵜崎くんが言いたい事は何となく分かったわ……でも私は鵜崎くんが言うほど凄くないし普通だよ」
「そ、そうなのか……そんな風には見えないけど」
「そんな事ないわよ、私だって羨ましいかったり、嫉妬したりするよ」
笑顔で美影が答えて、皓太は理解したような顔で頷いていた。
俺は蚊帳の外といった雰囲気で割って入る事が出来なかったが、会話が途切れた瞬間に皓太と美影が俺の顔を見る。
「山内も大変だな……」
「ふふふ、そうね」
皓太は俺を見てため息を吐いて、美影は何故か余裕ある表情をしていた。
「な、な、何なんだよ、二人してどんな反応なんだよ」
俺は皓太と美影の表情に理解出来なく困惑していると、試合をしている志保が大きな声で怒っている。
「こらっ、ちゃんと応援してよ!」
慌てて志保達の試合を見るとリードをされて劣勢だった。志保は運動が得意なほうだが、背が低いのでこの競技では相手のボールを拾ってトスを上げたりして脇役の様な役目だ。
でも肝心なアタックをするような攻撃役のメンバーがいないのでイライラしているようだ。
「おぉ、悪い、頑張れよぉ」
「ああぁ、なんか気持ちがこもってないよ!」
声を掛けるとすぐに俺を見てまた怒ったような顔をして、その様子を見た皓太と美影が笑っていた。
この試合は志保達が敗れてしまい、美影達の出番になる。
「頑張れよ、美影」
「うん、ありがとう」
笑顔で頷き、美影がコートに向かうと入れ替わりに疲れた表情の志保が戻ってきた。
「ふぅ……疲れた……」
大きく息を吐き、俺の横に立って少しだけ機嫌が悪そうだ。下手に機嫌をとろうとすると拗れそうな気がしたので一言だけ「お疲れ様」と声をかけた。
意外にも素直に「ありがとう」と返事をしてくれたので安心していると、機嫌が治まったのか志保が話しかけてきた。
「ねぇ、さっき何の話をしていたの?」
「えっ、何の話かって言われてもなぁ……よく分からないけど……」
俺は皓太に尋ねてようと思い振り向くと姿がなかった。
「……けど、何?」
「あれ、皓太はどこへ……」
志保は気になる様子で俺を見ているが、俺は皓太がいない事に驚いて、志保に何て答えたらいいのか悩まないといけなかった。
「……」
「……なんだろうね……」
苦笑いをして誤魔化そうとしたが、志保は頬を膨らましてムッとして再び機嫌が悪くなりそうになる。
急に周りから大きな歓声が起きる。慌てて美影達の試合を見ると、応援していたクラスメイトが口々に「凄いね」と言っていて、一気にクラスメイトの応援に力が入った。
「な、何があったの?」
「さぁ、俺も分からん……」
俺と志保は取り残された感じになっていたが、目の前の試合を見ていたらすぐに理解できた。
近くにいたクラスメイトの男子達が「凄いな、山内」と呟いていた。
志保は美影の姿を見て嬉しそうに頷いていた。
「これが本当の美影の姿なのよね……」
「ど、どういうこと?」
志保が呟いた言葉に俺はきょとんとしていた。
確かに美影は背もそこそこあるし運動神経もいい方だけどこれまであまり表には出してはこなかった。だからあまり美影の事を知らない人にとっては驚きなのかもしれない。
「やっと自信がついてきたみたいね……これは夏休みに一波乱あるかな……」
俺の言葉を無視するように志保は意味ありげな表情で笑みを浮かべている。周りのクラスメイトは美影の活躍に盛り上がっている。
「凄いなぁ……宮瀬、これから大変だぞお前の彼女、一躍有名人だ……まぁ、彼氏持ちだから手を出す奴はいないか」
いつの間にか皓太が戻ってきていて俺に呟いている。
「えっ、いや、違うから……」
そう反論すると皓太から冷たい目をされてしまうが、これまでの美影の周囲からのイメージは大きく変わるだろうと想像出来た。
元々、モテる要素はあったがどちらかと言えば大人しいイメージだった。
(あれ⁉︎ 勉強も運動出来て美人な……誰かいたような気が……)
応援が盛り上がったまま、試合は終了して美影たが勝利した。最終セットも美影は出場して大活躍で勝利を収めた。
「お疲れ様、良かったね」
「うん、ありがとう」
「えっと……」
美影が嬉しそうな笑顔で戻ってきたが、次の言葉が出て来なかった。何故なら美影の表情は清々しくて充実したような雰囲気でこれまでとは違った様に感じて思わずドキッとしてしまった。
すぐに美影は周りをクラスメイトに囲まれてしまった。俺はクラスメイトの輪から外れていたが、さっき見た美影の顔が忘れられずに胸が高鳴っていた。
「どうした宮瀬、大丈夫か?」
「あぁ……」
「なんか顔が赤いけど」
「えっ……」
皓太に話しかけられて少しづつ我に帰ったが、その様子を見ていた皓太はやれやれといった感じだ。
「……やっと自覚してきたかな」
そう皓太は輪の中心にいる美影と俺を見て呟いた。
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