第3話

振り返ると、施設の反対側にいるはずの"わたし"が"俺"の肩にもたれる様にして息を切らしている。


…聞こえる!?


今度は鮮明な応答が聞こえてきた。


ああ。

…まったく、どういう事なの?

さっきまでまったく使い物にならなかったのに!


無線機か?俺も君に連絡を取ろうとしたんだが…。


貴方もなの!?

貴方と別れて向こう側に行った途端、辺り一面霧に覆われて、

ノイズのせいで通信もできないし、

慌てて戻ってきたのよ…!

おそらくこの霧よ!何らかの電磁波によって通信にノイズが入るのよ。


たしかにその様だ。

近づけば通信に問題はない。


このままだと、さらに霧が深くなるわ!急ぎましょう!


しかしその時、

"わたし"はあるものを発見する。


待って…。なに、あれ?



"わたし"が指し示す先、

数十メートル先にチラチラと光るものがあった。


…次第に光はこちらに向かってきた。


ねぇ、どうするの!?

…分からない。しかし、まだ職員が取り残されていたのかもしれん。

あり得ないわ!だって登録されてるのは私達だけだって言ってたじゃない…!


2人は近づいてくる光の揺らめきに注視した。


その光の所有者の輪郭が現れてくるにつれ、それは2人を驚嘆させた。


そこには、"わたし"が立っていた。


そしてその"わたし"は、"俺"の側にいる"わたし"と全く同じ姿をしていたのだ。


なんなんだ、あれは。


向こう側にいる"わたし"も動揺しているのがわかった。


“俺"は困惑した。

隣の"わたし"も状況を飲み込めていないらしい。


しかし混乱の中、"俺"の頭にはある疑問が浮かんでいた。


“わたし”はいつから此処にいた?


"俺"は向こう側にいる"わたし"に声をかけたが、返事はなかった。

聞こえていないのか?


霧で視界が悪いのは理解できるが、向こう側の"わたし"も俺たちの存在を確認したはずだ。


しかし、どちらが本物か今の"俺"には判断が出来なかった。


あれはなんなの…!?

驚きを隠せず、隣りの"俺"に自分が本物だと必死に告げる"わたし"だったが、"俺"が動揺して自分を多少なりとも疑っていることを悟った。


ふざけないで!

私を見て!

私はずっと貴方と一緒にいたの!

不時着して部品を探していたんでしょ!


…再び無線機からノイズ入る。

気がつくと、もう1人の"わたし"は、

言葉は発さずに、

こちらを真っ直ぐに見つめていた。


…気味がわるいわ。


そんな2人の動揺をよそに、

"わたし"は船の方を指さした。

しかし、何かを訴えかけている様にも見える。


…ノイズが入る。

…自分自身に…囚われるな。

星は…お前を逃がさない…。


私を見て…!我にかえった"俺"は隣の"わたし"を連れて通信室へと閉じこもった。


なんなのよ、あれは。


俺にも、分からない。

しかし君も共通のものを見ていたのならば、あれは幻覚なんかじゃない。

君にそっくりな、ナニか、だ。


…やっと私が本物だと、信じてくれたのね?


…すまない、だが正直これは勘だよ。

…何ですって?


いや、長年航海を共にしてきた君を直感的に悟ったんだ、態度も立ち振る舞いも君だが、君じゃない。決して喋らなかったから、君を選んだわけじゃない。…信じてくれ。



本音をいえば、彼女の気分を害するんだろう。

実際には"俺"には彼女が本物だという確証はなかった。


…正直納得いかないけれど…それでもいいわ。

でもあれは一体なんなの!?

分からない。



けれど、どうするの?

あの子、そのままにするの?

いや、確かめたい。

一体なにを?

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