最終話 秋の日の誓い
秋になって美岬の写真コンクールの結果が今日の14時にHP上に公表されるそうだ。それを二人で確かめるために私は美岬の家に行った。
美岬の案内で彼女の部屋に入って私は絶句した。何枚も、いや何十枚も私の写真が貼ってある。壁に、天井に、デスクに。デートの時、空手をしてる時、なぜか学校の制服姿のものまである。
「へへへ、びっくりしましたあ?」
「ああ、び、びっくりした」
「みんないい写真で絞りきれないんですよお」
丸い眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げながら満面の笑みを浮かべる美岬。
「そ、そう」
私はどっちを向いても自分から見られているような感覚がしてちょっと怖かった。さすがにちょっと引いたな。
二人でタブレットパソコンをひたすら再読み込みしながら14時を待つ。
ぱっと画面が見たこともないものに変わった。
「あっ」
「来ましたー」
早速中学生の部のページを開き、二人で美岬の名前と私の写真を探す。それはすぐ見つかった。
「えっ、優秀賞! すごいじゃない!」
「すごくないです……」
俯いて落胆した顔の美岬。美岬の写真の上には、公園でくつろぐ太った猫の大きな写真があって、その上には「最優秀賞」って書いてあった。そっか、「優秀賞」って二番目ってことなんだ。
美岬は眼鏡を外して顔を覆って泣きながら私に身体を預けてきた。
「絶対一番獲るって約束したのに……ぐす」
肩を抱いておでこにキスをする。
「いいよ。優秀賞だって充分すごいよ。それに」
「それに?」
「私にとっては最優秀賞だからさ」
そうしたら美岬は大泣きして私にしがみ付いてきた。私は頭をなでて美岬が落ち着くのを待った。
少し泣き止んだ美岬は鼻をすすりながら言った。
「でもこれで二人とも二番ですね」
「それを言うな」
ティッシュで美岬の鼻を押さえると美岬はぶーっと盛大に鼻をかんだ。
「来年こそは一番獲るわよ。いい? 美岬」
「はいっ」
「さっ行こっ」
「はい?」
「リセットデート。行かないの?」
「あっ、はいっ! 行きます行きますうっ」
「今度こそ釣るんだから」
「センパイはもう一匹釣ってるからいいじゃないですかあ。今度は私の番ですう」
私たちが釣り堀に行く途中の街中で、私は
「私ね、目標があるんです」
釣り堀で竿を並べながら美岬が言う。いつもの間延びした声が今ではすっかり耳に心地いい。
「目標?」
「はい。一つは来年の写真コンクールで最優秀賞を獲ること」
「うん」
「次に身長を百五十センチ以上にすること」
「……それってなろうと思ってなれるもんなの?」
「むう、石の上にも三年、です」
「うん、まあ頑張れ。でも私より大きくなんないでよ」
「ふふっ、はい。それとお、最後の目標はあ……」
「なに?」
「センパイのお嫁さんになることっ」
「うわあああ」
いきなり美岬がしがみ付いてくるので池に落ちそうになる。
「そか」
「はい」
「がんばろ。私も来年の地方大会優勝する…… そして」
「美岬のお嫁さんになるよ、私も」
「センパイ……」
「それまで走ろう。走り続けよう」
「はいっ」
秋の午後の陽に照らされて、私たちはキスをした。
― 了 ―
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