第11話 走り続けること

 そのあとはGボウルの試合を観に行ってみた。私はあまり興味がなかったけど美岬の希望で。あれ? 結局私美岬のリクエストに応えてばっかり。


 立ち見の自由席でなかなかフィールドが見えないけれどそれなりに盛り上がった。私たちが席を取ったプロキオンズは退場者を出し三十四点も引き離される。諦め顔のプロキオンズサポーター。しかしここから試合終了三秒前で大逆転勝利を勝ち取りもうお祭り騒ぎに。私たちも抱きあいながら歓声をあげて興奮していた。


 興奮冷めやらぬままアクィラに行って晩ご飯。これも美岬が勝手に私の隣に座ってくるので何だか不自然な並びに。美岬が事あるごとにこっちの手を触って来たり握って来たりして困った。ドキドキした。胸が苦しくなった。だってなんだか、やらしい触り方するんだよね、さわさわ、って。


 で、いよいよ帰り。トラムでうちの近くの停車場降りて、二人で歩いていた。手をぎゅっと握って。


「今日もいっぱい撮られちゃったなあ」


「えへへ、ありがとうございます。夜のお楽しみにしておきます」


「なにそれ?」


「それ以上は秘密ですよぉ」


「私は、二枚しかもらってないのに」


「それじゃあ、とっときのを。あっちの公園、いいですか?」


「え? ああ、うん」


 もう既に真っ暗になった公園に着くと、小走りに遊具の前まで向かう美岬。


「ちょっと、そこに何があるのよ」


「うん、これくらならいいかなあ」


 一.五メートルくらいの高さがある白くて四角い壁の前で美岬はリストターミナルをいじる。私は何のことだかイマイチ合点がいかない。


「えい」


 リストターミナルから白い光が発せられ遊具の高さいっぱいまで映像が投映される。


「これ」


 それを見て私はあっけにとられた。


「はい」


 美岬はにっこりとほほ笑む。


 遊具に投映された高さ一.五メートルの画像は私だった。道着を着て防具をつけ、高々と上段蹴りを繰り出している。私、小っちゃい時にこれとそっくりの写真を見て、それに憧れて空手始めたんだった。


「これ、昨日の試合……?」


「はい、かっこいいでしょう」


「うん、うんっ」


 私は少し涙ぐんだ。だけどその涙は昨日の涙とは少し違っているように思う。

 私は今日のGボウルの試合を思い出していた。そう、何点差あったってタイムアップまでへこたれずに走り続ければ、きっと結果はついてくる。私の中で熱い何かが燃え上がってきた。


「美岬」


「はい?」


「私走るからね。さっきのGボウルの試合みたいに。最後まで負けずに走る。そして来年は勝つ。優勝するから」


「はい、センパイなら絶対できます」


「ふふっ、どうしてそう思うのよ?」


「私が応援するからです。先輩の好きな……恋人が」


「こいつう、生意気だぞ。中学生のくせに『恋人』とかあ」


 美岬の両こめかみを拳でごりごりしてやった。


「あいたたた、痛いですぅ、センパイそれ痛いですぅ」


「私ね、昨日は泣いてばっかだったけど、それじゃ前に進めないんだよね。やっぱ前に向かって走んないと」


「はい」


「気づかせてくれてありがと」


「えっ、私が? 私はなんにもですけどお?」


「なんにも?」


「その、動物園とか行ったら元気出るかなあ、って……」


「…… ぷっ」


「えへっ」


「もう!」


 美岬をギューッと抱き締めてぐるぐる振り回す。


「きゃっ」


「もう大好きっ!」


 しばらく美岬をぐるぐる回してやった。


「ふあ…… 私も」


 目を回した美岬を下ろしてやる。


「うん」


「私もセンパイ大好きですっ!」


 私たちは抱き合いキスを交わした。


「あの、私からも、お願いあるんですが」


 お互いが腕をほどくと珍しく神妙な面持ちの美岬。


「ん? なによ」


「この写真、出していいですか?」


「何に?」


「写真コンクール、です」


「写真コンクール?」


「はい。あの、いいでしょうか」


 いつもの語尾が間延びした口調が消えている。真剣なんだ。写真のことはわからないけど彼女も勝負に出ようとしているんだ。そう思った。


「そか。いいよ、あんたも走ってみたくなったのね。その写真好きにしていいよ。美岬が撮ったんだもの。ただし、私の写真なんだからね。絶対一番になんのよ」


「はいっ」


 美岬は大きく頷いた。

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