第8話 押しかけマネージャー兼カメラマン

 結局学校をサボったことは学校にも親にもバレてしまい、私は両方から大目玉を喰らってしまった。教室では佑希ゆうきだけじゃなく生明あさみまで心配そうにこっちを見ていたが知ったこっちゃない。それより小山のように太った熱帯魚マニアの飯岡君に心配された方がまだましだ。


 結局親からは罰として、今度の土曜は空手の練習に行くなと言われたけれど、それならそれで家を抜け出してまた美岬とデートに行けるからいいや、くらいには思っていた。そしたら一切の外出禁止、自宅謹慎だと申し渡され、私は少し荒れた。仕方がないので自宅で自主練。その様をやはり自宅謹慎の美岬に通信で見せてやるとえらく面白がって、今度実際の練習を見に行きたいと言う。


 そして翌週の土曜日。

 私の練習を見学に来た美岬なんだけど。

 しまったー、あの子写真が趣味だったんだー。もうずっとひたすら私をカシャカシャ撮りまくっててうるさいったらありゃしない。集中できないのでつまみ出した。すると今度は外から捨て猫みたいな目でじーっとこっちを見てる。これまた集中できない。

 仕方がないからほどほどにするよう言ってきかせて中へ入れてやった。

 練習もひと通り終わらせると、なんだ、周りとすっかり仲良くなって馴染んでる。へえ、才能だなあ。

 私に気が付くと嬉しそうな顔の美岬がぱたぱたと駆けつける。こっちまでにやけそうだが、カッコ悪いのでぐっと堪えた。


「センパーイ。はいタオルです。はいドリンクです。アイソトニックをちょっと薄めておきました。お腹減ってませんか? おにぎりもありますよぉ。あ、レモンもありますからねー」


 私をかいがいしく世話をする美岬を見て淡い夢破れた少年少女は多かろう。ふふふ、何を隠そう美岬は私の彼女なんだからなあ。手出すなよ。しばくよ。



「新しいファン? それとも……」


 彼女から離れて稽古をしていると、私の頭をぽんぽんと叩いてくる人がいた。こんなことをしてくるのは一人だけ。


「津山さん」


「かわいいもんね、あの子」


「えっ! いやっあの子は何と言うか、その、そう! マネージャーを買って出てくれて、その代わり写真を撮らせてくれって」


「嘘下手ねえ…… 初美に専属のマネージャー兼カメラマンがついただなんて驚きだ。私も負けてられないなー」


「い、いやあ、あははは」


「でも」


 津山さんの声がちょっと厳しくなる。


「今日の内容は良くなかったね。散漫だった」


「はいッ」


「美岬ちゃんに夢中なのはいいけど、試合は来週よ。気を引き締めてかかりなさい」


「はいッ! ありがとうございます!」


「初の地区本選突破なんでしょ、頑張って」


「はいッ! ……それと、なんで津山さんあの子の名前知ってるんですか?」


「ああ、さっきからずっと愛想を振りまいていたからね。ふふっ、ほんとかわいいよね」


「ええっ! そっそれはっ!」


「はいはい、初美の大事な専属マネージャー兼カメラマンなんでしょ。判ってる判ってる、クスクス」


 と私の頭をぽんぽんと叩いて離れていった。うう、からかわれてる。



 帰り道、自転車を押しておしゃべりしながら帰る。


「でも、空手って初めて見ましたけど、結構面白そうですねー」


「お、じゃあ私の地区本戦見に来る? 個人の組手。今度の土曜日にスポセンの武術フロア」


「行きます行きます応援しますー」


「相手は今まで五勝一敗の相手だから勝てると思う」


「おおー、頼もしいです」


「ふふっ、期待してなさい。絶対勝つから」


「はいっ」


 美岬の家の前で美岬にぐいぐい迫られまたキスしてしまった。しかもとっても激しいやつ。美岬って、いつもはほわぁんとしているくせに、その、なんて言うか、こういう時って結構すごいのよね……

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