第9話 凜然たる女騎士

 あなたは悪魔向きではない。それを知っても尚、私はあなたと一緒にいたかった。

 哀愁漂う微笑みを浮かべて、ロビンは愛おしむようにセシルを見詰めた。もうじき術が解ける。元の姿に戻り、自身がセシル魔人だったことを忘れ、再び敵同士となる。

 セシルにとっては酷であるが、ロビンが決めたことは間違いではない。これで良かったのだ。

「……時期に術が解け、元に戻る筈です。ここを去る前に、ひとめでもあなたにお目にかかれて光栄ですよ。ジャンヌ・ダルク」

 いささか皮肉を籠めて神使いにそう告げたロビンは、徐に歩み寄ったシュオン、ティオの二人にセシルを託し、シュッと姿を消した。


 ふと意識が戻り、ゆっくりとまぶたを開く。天空の騎士団に属するティオが、華奢きゃしゃな私の身体を抱き抱えている。

「目が覚めたか?」

「ティオ……私……」

「もう安心だ。よく頑張ったな」

 水色のブラウスの襟元に結わかれた赤い大きなリボンが特徴の、上下紺色の制服を着た私を、愛しさと優しさが入り交じる微笑みを浮かべて見詰めるティオが、励ますように返事をする。

 杉浦美果子すぎうらみかこ。これが私の名だ。肩の、少し下まで伸びたストレートの茶髪に髪と同じ色の目をしているのが特徴の、十六歳の女子高校生である。

 今まで、自分が何をしていたのか思い出せない。こんなところに何故、ティオがいるのかも理解するのにいくらか時間を要した。

「無事に戻って来てくれて、本当に良かった」

 この場に居合わせているのは、ティオだけではなかったようだ。ほっと安堵するシュオンの顔に、優しい笑みが浮かんでいる。

 そしてもうひとり……私が目を覚ましたことに安堵するシュオンの身体越しから、横長の旗を持った、精悍な佇まいの女騎士の姿が見える。

 プラチナの鎧を着けた戦闘服に身を包む、耳にかかるくらいの、短い金髪の女騎士。凜々しい青色の目には、まるで聖母のような優しい光が宿っている。

「ジャンヌ……ダルク……」

 思わず目を見張った私は、無意識のうちにその名を呟いていた。信じられない光景だ。私が憧れる歴史上の人物が、すぐ目と鼻の先にいるなんて。

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