第8話 告白その二

「……私がかけた術は、完璧に見えて不完全だったようですね」

「ロビン様……?」

 なんだかいつもと様子が違う。戸惑う僕の髪を撫で、そっと頬に手を添えたロビン様が、愛おしむように微笑んでいる。

「お別れです。セシル……使い魔として、とてもよく頑張ってくれましたね。短い間でしたが、私の傍にいてくれてありがとう。私も、あなたを愛していますよ。離ればなれになっても、立場が違ってもずっと……また会いましょう」

 僕の気持ちがロビン様に伝わっている。同じように僕も、ロビン様の気持ちが伝わった。

「はい」

 嬉しくてさびしくて大粒の涙を流したけれど、満面の笑顔で僕は返事をした。涙に、声を震わせながら。


「これで良かったのか?」

 凜然たる雰囲気を漂わせ、神使いが面前に佇むロビンに向かって念を押すように問いかける。

「ええ、これで良かったのです」

 自ら術をかけ、眠らせたセシルを抱きながら、ロビンは返事をした。

「三ヶ月もの間……彼は魔界でよく頑張ってくれました。慣れない場所で、合わない空気を吸って身体を壊しながらも……

 この世界に戻ってきて、身体を壊すこともなくなり、再び笑顔が戻って来ました。やはり、この地球の空気が最も適している。

 ならば、このまま人間界ここにいさせてあげた方が彼の……いえ、の幸せに繋がるのかもしれない。ようやっと、あなた方にお返しする決心がつきました」

「では、セシルは……」

 何もかも見透かした神使いに、ロビンがフッとキザな笑みを浮かべる。

「そうです。今から半年前……私は彼女に術をかけて魔人の少年の姿にし、魔界へ連れて行きました。

 彼女を魔人として育てることで、天界側が打撃を受けるように取り計らったのです。が……それは、破綻してしまった。

 どんなに強力で、完璧な術をかけても、天使のようにピュアな彼女の心までも、完全に悪魔にすることは出来ませんでした。

 彼女が悪魔に向いていないと判った以上、手元に置いておく意味がない。なので、お返しいたします」

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