第2話 王都アストランド

「ここは……木造の部屋?」


 ついさっきまで真っ白な部屋に居たはずなのに、気が付けば木で造られた小さな部屋の真ん中に立っていた。

 いまいち今の状況を理解出来ないけど、見た感じどうやら転移自体は無事に成功したらしい。


 というか、とんでもなく今更になって思うけど、私達って異世界の言葉なんて喋れるの?

 天界では日本語で話していたからだ問題なかったけど、ここは異世界。

 天界と同じように日本語がここでも通用するとは到底思えない。


「……ま、今更そんな事を言っても仕方ないか。言葉に関しては、なるようになるでしょう。それより今は、この部屋に何があるのかを探る方が先か……」


 異世界へ来て早々に、あれやこれやと考えてても仕方がないので、取りあえず部屋の中を探る事に。


「……ベッドに机、それとタンス。その中には女物の服が何着か。……日用品とかはほとんど無し。本当に最低限の物しか用意されてないわね」


 部屋の中を色々と探ってはみたものの、あるよは最低限の日用品特ばかりで、冒険において役立ちそうな物は何一つとして無かった。


「しかし、服か。一応、着替えおこうかな? 異世界に来てまでこの服のままってのも、何だか変だしね」


 天界にいる間ずっと着ていた白を基調としたローブを脱ぎ、それをハンガーに掛けてタンスの中へと片付け、新しい服へと着替える。


 着替えを終え、部屋の中に何があるのかを一通り探し終えた私は、次にこの家の構造を確認するべく部屋の外へと出た。


「……思ってたよりも大きい家なのね」


 部屋から出て、最初に見えたのは、リビングと思われる広々とした大きなスペース。

 そのスペースの真ん中には、大きめの机と三人分の椅子が置かれてあり、奥にはキッチンと思われる場所も見えた。


「一階建てではあるけど、人が三人住む分には充分過ぎる広さね」


 てっきり、用意されてるのはプレハブ小屋かと思ってたけど、思っていたよりは随分豪勢な家でよかったわ。


「……ところで、あの二人は何処に居るのかしら? 全く姿が見えないけど」


 ナーヴァはともかく、活発的なファルミリアなら、既に家の中をうろちょろしててもおかしくない頃だと思ったんだけど。

 ファルミリアの姿どころか、物音一つ聞こえない。

 もしかして、二人との転移場所がずれた?

 少し不安に思った私は、二人の姿を確認するべく家中の部屋を開けて回る事に。


「最初の部屋は……風呂場。あ、ちゃんとシャワーまで付いてるし、鏡も大きい。……そう言えば、鏡で自分の姿を見るのなんていつぶりだろう? 少なからず天界に居た間は、一度も見てないから、少なく見積もっても二百年ってところか。日本に居た頃はよく鏡とにらめっこしてたなぁ」


 実はアスタロト・ヴァーレミリオンなんて横文字の名前のわりには、生前は日本人だ。

 元日本人は私以外にも沢山いて、ファルミリアとナーヴァの二人もそうだし、なんだったら天人の半数以上が元日本人な程。

 今の名前が日本人らしくないのは、天人になった時にゼウスから授かったからで、別にこれが本名という訳では無い。


 ちなみに、私が日本に居た頃の名前はもう覚えてない。

 その理由は、ゼウスから今の名前を授かる時に、その名と交換で日本に居た頃の名前を記憶から消去されたからだ。

 その時は、わざわざ記憶を消さなくても良いんじゃないかとは思ったけど、今となってはどうでもいい。

 今はそんな事よりも、神のしもべという立場にある天人である私に対して、アスタロトなんて悪魔の名を付けてくれた事の方が大事だ。

 これに関しては、今でも抗議してやろうかとずっと悩んでいる。


 ……おっと、いけないいけない。

 この事を考え出すといつも止まらなくなるから、あまり考えないようにしよう。


「……しかし、私ってこんな見た目だったのね。自分で言うのは悲しいけど、案外可愛らしい見た目してるじゃない」


 鏡に写る自分の事が少し気に入り、あれやこれやと色んなポーズを取ってみる。


「二百年近く天界に居たせいか、かなり歳をとった気分でいたけど、この様子だとまだまだ若くて可愛い路線でいけそうね。……そうだ、折角だしあざといポーズなんかもやってみ」


 と、そこまで言った時だった。

 なんの前触れもなく、いきなり後ろの扉が開けられた。


「あ、ここに居ましたか。探しましたよ、リオ……ン?」


 扉を開けたのは、さっきまで私が探していたファルミリアだった。


 互いに状況が把握出来ずに、沈黙の時間が数秒間続く。


「あ、すみません。家間違えちゃったみたいです。失礼しましたー」


 そして、その沈黙を破るかの様に、ファルミリアは鏡の前で妙なポーズを取る私に対して優しくそう告げると、扉を静かに閉めて何処かに立ち去っていく。

 その様子を見てようやく我に帰った私は、扉の外に居るであろうファルミリア向かって思いっきり叫んだ。


「ちょっと待ってファル! 誤解! これ誤解だからあぁぁぁ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「いやー、まさかリオンにもあんな可愛いらしい一面があるとは思いませんでしたよ。……あ、いえ、私は別に何も見ていませんよ? 決して、リオンが鏡の前でなんだか不思議なポーズを取ってたとこなんて一切見て……痛い痛い痛い! 顔を真っ赤にしたまま無言で私の頭を握り潰そうとするは止めて下さい! 見ていません! 私は何も見ていませんし、何も覚えていません!」


 恥ずかしいところ見られてしまったとは言え、無事にファルミリアと合流を果たした私は、先程の出来事を忘れさせる為にファルミリアの頭を鷲掴みにしながらリビングまで戻ってきた。


「……分かってくれればそれで良いのよ」


 今度から鏡の前でポーズを取る時は、家に誰も居ないことを確認してからにしよう。


「ところで、ナーヴァが何処に居るのか知らない? 貴女がいるってことは、あの子も私達と同じ所に転移させられているはずなんだけど」

「ナーヴァなら、この世界に関する情報を集めてくるって言って、いの一番に外へ出て行きましたよ」


 行動力の鬼ね……。


「そういう事なら、情報集めはナーヴァに任せましょうか。……それで、ファルは一体何をしていたの? まさか、風呂場に居た私を煽りに来た以外、何もしてないとかは言わないわよね?」

「そんな訳無いじゃないですか。私はナーヴァに頼まれて、この家にある部屋を片っ端から調べてたんですよ。とは言え、まだ私の部屋とナーヴァの部屋の二ヵ所しか調べれてないんですけどね」


 あら、以外と真面目に行動してたのね。


「あ、でも二ヵ所しか調べれてないとは言っても、結構色んな物を見つけましたよ!」

「……今着てる服とか?」

「そうです! どうですか? 可愛いし似合ってるでしょう?」


 風呂場でバッタリ会った時は気が付かなかったけど、ファルミリアもいつの間にか別の服に着替えていた。

 恐らくファルミリアの部屋にも、私の部屋と同様に新しい服が用意されていたのだろう。

 自慢気に私の前でくるっと回ってみたり、軽くポーズをとったりしているファルミリアが着ていたのは、赤っぽい服に、ピンクを基調とした長めのスカート。そして、腰辺りにはやや大きめのリボンが付けられている。

 確かに可愛らしい服だとは思う。

 思うんだけど、何て言うか。

 

「ファルのイメージとちょっと違う感じがする……」

「な!? それってつまり、私にピンクで可愛らしい服は似合わないって言いたいんですか!?」 

「誰もそこまでは言ってないじゃない。私が言いたいのは、服が似合う似合わないの話じゃなくて、ピンクって色がファルっぽい感じじゃない気がするって言いたかったのよ」

「それはそれで傷付きますよ!? それに、そんな事を言うならリオンの格好も大概じゃないですか! 何ですか、そのやたらと露出度の高い服は! 肩とくびれが丸見えじゃないですか!」


 キレ気味のファルミリアに指摘された私の服は、全体的に白を基調とした服で、なんというか動きやすいデザインで作られている。

 言われてみれば確かに露出度は少し高い気もするけど、そこまで気にする様な事かなぁ?


「何ですかその『えー、そんなに気になる様な事かなぁ?』みたいな顔は!」


 どうやら顔に出ていたらしい。


「ピンクがファルのイメージとは違うって言ったのは謝るから一旦落ち着きなさい。それに、私はイメージと違うって言っただけで、誰もピンクが似合わないとまでは言ってないわよ」

「……じゃあ、改めて聞きますけど、リオンはこの服、私に似合ってると思ってますか?」

「思ってるわよ。最初はちょっと違うかなって思ったけど、ちゃんとよく見たら可愛いし、ファルミリアに凄く似合ってると思うもの」

「そ、そうですか。なら……良いです」


 可愛いだの似合ってるだの言われている内に、顔が少しずつ赤くなっていき、声がか細くなっていく。

 ……チョロいわね。


「リオン、そんな所で何してるの?」

「何って、ファルに今着てる服が似合ってるかどうか聞かれたからそれに答え……って、いつの間に帰ってきてたのよ」

「今」


 気が付けば、外に情報収集する為に出掛けていたナーヴァが、両手に沢山の荷物を持って私の後ろに立っていた。


「あ、お帰りなさい。どうでしたか? 何か有益な情報は集まりました?」

「色々集まった。今から集めてきた情報の一部を簡単に説明するから、取り敢えずそこにある椅子に座って」


 私とファルミリアはさっきまでしていた服の話を一旦中止し、ナーヴァの言われた通りにする。

 私達が椅子に座ったのを確認したナーヴァは、手に持っていた袋から一枚の大きな紙を取り出し、それを机の上に広げた。


「これは、私達が今居るアストランドの全体地図。この街は直径約二十キロにもおよぶ巨大な円形構造で作られている」


 直径約二十キロって、流石に広すぎじゃない?

 これじゃ街というよりは、


「……まるで一つの国ですね。少なくとも私が知っている街の規模ではありません」


 ファルミリアの言葉に、私とナーヴァは静かに頷く。


「二人共、ここを見て欲しい」


 そう言って、地図の中心部に記されている小さな建物を指差す。


「ここが私達の今居る場所」

「へー、結構中心部に居るんですね」

「うん。そして、もう一つ」


 ナーヴァが次に指を差したのは、私達が居る場所からやや上に向かった辺りにある大きな建物。


「ここが冒険者ギルドと呼ばれる施設。街の外にいるモンスターと戦ったりする場合は、このギルドに行って冒険者登録をする必要がある」

「冒険者登録しないとモンスターと戦っちゃ駄目なんだ」

「戦っちゃ駄目というよりは、戦えないと言った方が正しい。なんでも、冒険者登録をしないとモンスターを戦う為に必要な力が手に入らないとか。だから、私達はこの冒険者ギルドって所に行って、冒険者登録をする必要がある」


 モンスターと戦う為に必要な力って、なんだかゲームみたいね。


「取り敢えず、今説明する必要があるのはこれだけ。他にも色々な情報はあるけど、それはまた必要になった時に教える」

「分かった。……ところで、それだけの情報どころから仕入れてきたの?」

「外を歩いていた鎧の女の人から」


 鎧を着てるって事は冒険者か何かなんだろうな。

 どこの誰かは分からないけど、情報提供に感謝ね。


「それで、これからどうするんですか? 今から、そのギルドって場所に冒険者登録をしに行くんですか?」

「そうね。今日のところは取り敢えず、登録を済ませるのが第一になりそうね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ナーヴァにひとつ聞きたかった事があるんだけど」

「何?」

「この世界って、日本話で話して相手にちゃんと通じる?」


 ナーヴァの案外の元、冒険者ギルドへ足を運ぶ最中、この世界に来て最初に抱いた疑問をふと聞いてみる。


「日本語は通じない。この世界の人と会話するなら、この世界の言語じゃないと駄目」

「え? てことは私達、人と会話出来ないんじゃないですか? 私、日本語と以外話せませんよ? 英語ならギリいけますけど……」


 英語ならいけるんだ。


「それに関しては問題ない。どういう原理かは分からないけど、私達が話す言葉と、相手側が話す言葉は互いに理解が出来るよう勝手に翻訳されるようになってるみたい。だから、言葉が通じないなんて事は起きないから安心して」

「なんだか無茶苦茶ね」

「無茶苦茶です」


 そんなやり取りをしている内に、冒険者ギルドと思われる建物の前にたどり着いた。

 私達が転移された家から、東に約一キロ進んだ先にある石造りで出来た大きな建物。

 そんな建物の中からは、冒険者と思われる人達の声が僅かに聞こえてくる。


「ここが冒険者ギルド?」

「うん」

「ギルドに入った途端、いきなり変な人に絡まれたりしませんかね?」


 心配そうにそんな事を聞いてくるけど、ここはアニメやゲームの世界なんかじゃないから、そんな事態は起きないわよ。

 ……それに、


「絡む絡まれるの話で言ったら、間違いなく貴女は絡む側の人間だから大丈夫よ。安心して」

「何が大丈夫なんですか!? 天界に居た頃からそうですけど、リオンは私の事を絶対に猛獣か何かだと思ってますよね!? あ、ちょっと待って下さい! なんで私の事を無視して入っていくんですかー!」


 ギルドの入り口で騒ぐ猛獣の事は一旦無視することにして、さっさと用事を済ませるべく、私とナーヴァの二人はギルドの中へと入っていく。


「いらっしゃいませー。冒険者に関するお仕事なら右奥のカウンターへ、ご宿泊の受付なら左奥のカウンターへ、お食事なら真ん中奥にあるカウンターへどうぞー!」


 ギルドへと入った私達を出迎えてくれたのは、ここの職人だと思われる長い茶髪の女性。

 その女性は私達に対して、ニコッと微笑むとそのまま手に持っている食事を運ぶ為、奥のカウンターへと歩いていった。

 どうやらここは、ギルドと宿屋と食事処の三つが併用された施設らしい。

 そのせいか、ギルドの中には剣や杖といった武器を装備した者や宿屋を利用しに来た者や観光客と思われる者、そして食事を楽しみに来た者達で溢れ帰り、かなりの賑わいを見せていた。


「凄い人の数ね……」

「リオン……。取り敢えず冒険者登録を終わらせませんか? 人混みに驚いて、このまま入り口に突っ立っていても何も始まりませんよ」


 荒ぶっていた気を静めたのか、猛じゅ……じゃなくて、ファルミリアがいつの間にか私の横に立ち、そんな事を言ってくる。


「そうね。ファルの言う通り、取り敢えず冒険者登録を済ませましょう。えーっと、冒険者に関する事は右奥のカウンターだっけ?」

「多分あそこ」


 私達は、ここに来た当初の目的を果たす為、ナーヴァの指差す方に見えるカウンターへと向かう。

 受付は全部で六つ。

 ここを利用する冒険者は多いのか、既に右から二番目の受付以外が埋まっていた。


「こちらへどうぞー!」


 二番目の受付に居る女性の声に従う様に、私達はその受付の前へと向かう。


「冒険者ギルドへようこそ。今日はどのようなご用で?」

「えっと、私達三人、冒険者登録をしに来たんですけど、登録ってここで出来ますか?」

「はい。冒険者登録ならここで出来ますよ。皆様全員、冒険者への登録をしたいという事でお間違いありませんか?」

「はい」


 返答を聞いた受付の人が、机の引き出しと思われる場所から一枚の紙を取り出し、それを私達に差し出してきた。


「そちら紙には、冒険者になるにあたって重要な事が書かれてあるので、後程お読み下さい」

「分かりました。ナーヴァ、家に帰るまで預かっててくれる?」

「うん」

「それでは皆様、私についてきてください」


 受付の人はそう言うと、自分の前にある机を引き出しの様に片付け、私達を中へと案内する。

 案内されたのは、カウンターから少し奥に進んだ先にある小さな扉の前。


「この扉の中に入ると、皆様の冒険者登録が自動的に開始されます。冒険者登録をする事によって、自分自身のステータスと適正職業クラスが分かります。職業に関してはその適正職業の中から自分が良いと思うのをお選び下さい。また、レベルアップを重ねていくと職業変更が可能となり、途中で職業を変更したりする事も可能です。なので、今ここで決めた職業でずっと冒険者生活を送らないといけないとかそういうのは無いので、ご安心下さい。その他、注意事項として、冒険者登録をする際に様々な質問をさせて頂きます。皆様はそれに対して、嘘偽り無くお答え下さい」


 職業か……。

 なるべく二人と立ち位置が被らない様なのにした方が良いよね。


「二人は、後衛をやりたいだとか回復職をやりたいだとかあるの?」

「私は適正があれば回復職をやってみたい」


 ナーヴァは回復職、と。

 立ち位置で言えば後衛職っていったところね。

 ……ん? 回復職?

 回復という単語を聞き一つ疑問に思った事を、受付の人に聞こえない様ナーヴァに小声で問いかける。


「私達って確かゼウスから不老不死の特殊能力を貰ってなかったっけ? 死ぬことが無いなら回復も要らないんじゃない?」

「不老不死の能力が、本当に効果を発揮するとは限らない」


 ……まあ確かにそうなんだけど。


「それとも、本当に効果が発揮されるかどうか確認する為に、わざと死んでみる?」

「い、いや。それは遠慮しておくわ」


 いきなり恐ろしい事言うわね……。

 思わず後退りする私を見て、楽しそうにくすっと笑う。


「それに、例え死なないとしても、体に傷痕が残らない訳じゃない。そういった物を治すという意味でも回復職は必要」


 なるほど、確かにそう言われると必要ね。


 さて、ナーヴァが後衛職を選ぶのに対して、ファルミリアは何を選ぶのか……。


「私は前衛が良いです。剣士とかそういった職業をやりたいです」


 まあ予想通りの回答ね。

 てことは、私は二人の事をカバー出来る中衛職とかが良さそうね。


「それでは、今から冒険者登録を行います。登録は一人ずつ行いますので、最初に登録される方は部屋の中へとお進み下さい」

「じゃあ、私が一番最初に行くわね」


 案内に従い、指示された部屋の中へと入っていく。

 その部屋は薄暗く、部屋の真ん中辺りに見える魔法陣以外には何も無い殺風景な場所だった。


「この魔法陣の上に立てって事かしら」


 念のため、もう一度だけ辺りに何も無い事を確認してから、魔法陣の中心部へと足を運ぶ。

 魔法陣の中心に立つと同時に、突如魔法陣が白く光始め、部屋のどこからか機械的な音声が聞こえてくる。


《これより冒険者登録を開始します。対象者はこれから出される質問に対して、嘘偽り無くお答え下さい》


 ……ビックリした。

 何の前触れも無くいきなり始まるのね。


《それではまず、対象者の名前、性別、身長、体重、年齢を教えて下さい》

「名前は、アスタロト・ヴァーレミリオン。性別は女で身長は162センチ、体重は46キロで年齢は……」


 あれ?

 これ、何歳って答えたら良いんだろう……。

 普通に人間として生きてた時の歳を言えば良いのか、それとも天人として生きた分も含めた歳を言えば良いのか……。


「……年齢は19歳です」


 少しだけ悩んだ結果、ここは人間として生きてた分だけの歳を言う事にした。

 200歳とかって言うと、なんだかややこしいことになりかねないかもしれないね。


《ありがとうございます。次に、アスタロトさんの職業を決めます。先程の質問に答えて頂いている間に、アスタロトさんのステータスの計測が終了し、その計測したステータスを元に、適正のある職業を割り出しました。今から適正職業が書かれた用紙を幾つかお渡しします。アスタロトさんは、その中からご自身に合う職業を一つだけ選び、サインをして下さい。また、職業を選ぶ上で何か分からない事がありましたら、お声掛け下さい》


 機械的な音声がそう告げると同時に、魔法陣から複数枚の紙が浮かび上がる。


 この紙に私の適正職業が書かれてあるって訳か。

 自分の職業を決めるべく、浮かび上がった紙を全て回収し、一旦その場に座り込む。


「……剣士に魔法使い、それに槍使いに弓使い。へー、思ってたより色んな職業があるのね」


 その紙には、各職業の特徴やデメリット、その他にも習得出来るスキル一覧等が記載されていた。


 それにしても、私の適正職業だけでも十を超える選択肢があるのには驚きだ。

 流石にこれだけの数があれば、中衛職の一つや二つくらいありそうね。

 そんな期待を胸に、手元にある十数枚近くの紙を一枚一枚確認してみるも、どれも前衛職か後衛職ばかりで、私が探している中衛職と思われる職業は一つも存在しなかった。


 これだけの数があれば、中衛職の一つぐらいはあると思ったんだけどなぁ。

 まあ無い物ねだりしても仕方ないし、ある物で我慢するか……。

 そう思い、最後の一枚を手に取った時だった。


「……ん? 魔法剣士? ……前衛職のスキルと後衛職のスキルの両方を習得出来る唯一の職業で、スキル構成次第では、他の職業に無いような戦い方が可能。他の職業に比べてスキル習得に必要なレベルやポイントが低めだが、デメリットとして他の職業に比べるてレベルアップは遅いという特殊を持つ。……良いじゃない、これ!」


 要するにスキルの構成次第では、中衛職だって出来るって事でしょ!?

 これなら二人のサポートが出来そうね!

 レベルアップしにくいってところが少し残念だけど、こればっかりは贅沢を言ってられない。

 私は迷うことなく、魔法剣士と記載されたその紙にサインをする。

 そして、私がサインを書き終えると同時に、周りにあった紙が全て消えて無くなってしまった。


《書類を確認中。冒険者アスタロト・ヴァーレミリオン。職業を魔法剣士で登録。……完了しました。これにて、アスタロト・ヴァーレミリオンの冒険者登録を終了します。お疲れ様でした》

「お疲れ様でした」


 機械的な音声が聞こえなくなるのと同時に、魔法陣の明かり消え、薄暗い部屋へと戻ってしまった。


 私が冒険者登録を完了させて部屋を出た後、ファルミリアが前衛職の狂戦士バーサーカーに、ナーヴァが後衛職のヒーラーに就き、全員の冒険者登録が無事に終わった。


「皆様、冒険者登録手続きお疲れ様です。晴れて冒険者として活動する事が許可された皆様には、ギルドよりこれをお渡しします」


 受付の人が私達に差し出したのは、名刺ぐらいの大きさがあるカード。


「それは冒険者カードと言って、皆様のに関する様々な情報が記載されているとても需要なカードです。決して失くす事の無いよう注意して取り扱って下さい」


 身分証みたいな物って訳ね。

 冒険者カードを私達に渡してた後、受付の人はにこやかな笑みを見せ、こう告げた。


「……それでは改めて、冒険者ギルドへようこそ。ギルドの職員一同、皆様の今後の活躍を期待しています!」

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